第13話 決闘
酒場の裏に人だかりができる。その数ゆうに四十人。話を聞いて村中の人間が集まってきているようだ。
輪を作って見守るその中では、騒ぎの中心人物となった二人のギルダーがテーブルの上に並べられた五丁のリボルバー拳銃を下見していた。これから決闘に使う銃を選定しているのだ。
一人は見るからに武骨者を思わせる猛々しい大男。そしてもう一人は眩い銀色の髪をした若い娘。見学者の大多数は、決闘を申し込んだ女性の血気盛んな度胸を称賛しつつも、勝負に負けたときの惨めな姿を想像して不安げに見つめていた。
「この銃でいい。試し撃ちさせてくれ」
「俺はこいつだ」
銃を選んだ二人に対して、大男のパーティのうちの一人がニヤニヤ笑いながら弾を差し出した。
「これを。決闘用の電撃弾“青”だ」
手渡された銃弾の後部には青色が塗装されている。対ヒト用の威力が低い弾だ。ツアムはそれを銃に込め、十五メートルほど離れたところにある、家と家の間の柵を見やる。
「ナナト。これをあの柵の上に置いてきてくれ」
そう言って手渡したのは木製のコップだった。ナナトは何か言いたそうな顔をしたが、すぐに言われたとおり走って柵の上にコップを置いてくる。
ナナトが戻り、周囲に誰もいないことを確認してからツアムが射撃する。弾は見事コップに当たって後ろ側に弾き飛び、見学者たちの中から小さな歓声が上がった。
「悪くない」
リボルバーを見るツアムの横にいたナナトは堪らなくなって声をかけた。
「ツアムさん、やっぱり決闘は僕が出るよ! もとはといえば僕が原因なのにどうしてツアムさんが…」
ツアムは自責の念に苦しんでいるナナトの顔を見ると、軽く笑って見せた。
「拳銃は撃ったことあるのか? ナナト」
「う、うん。三年前ぐらいにじいちゃんの借りて何度か」
「決闘をしたことは?」
「…一回もない」
不安げに俯くナナトのその肩にツアムは優しく手を置いた。
「ナナト、気にするな。これはあたしの責任でもあるんだ。まさかこんな
ツアムは優しくナナトの頭を撫でた。
「さっきはありがとう。あいつをあたしから引き離そうとしてくれて。ああいう手合いに声を掛けられるのは慣れてるんだが、ナナトみたいに割って入って止めようとしてくれる男は少ないんだ。嬉しかったよ」
急に見学者たちの中からどよめきが起きたので、ナナトとツアムは同時に顔を上げた。見ると大男は試し撃ちにもかかわらずわざわざ腰のホルスターに銃を収め、さきほどツアムが撃った位置からさらに五メートルも遠い位置に立っている。
「置きました、大将!」
大男の仲間の一人が柵の上にガラス製のコップを置く。すると大男は瞬きする間もなくホルスターから拳銃を引き出し、射撃した。コップを置いた仲間の目と鼻の先でガラスが砕け散る。見学者たちから再び歓声が上がった。
「は、はや…」
思わず相手を褒めてしまいそうになって慌てて口をつぐむナナト。そんなナナトに向かってツアムはウインクしてみせた。
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