💧 第10話 水 着 💧
……それは小さな手。
アヤは自分の手のひらの中にあるピンク色の鈴を、上から見下ろすように見ていた。
「可愛いね、その鈴」
隣に誰かいる。
(……誰?)
ゆっくりと隣に視線を移すと、そこには髪の長い女の子。
見たことのある……この子は。
(サイ?)
「……ヤ、アヤ、大丈夫?」
気が付くと、アヤは台所の床に座り込んでいた。
理恵が心配そうにアヤの顔覗き込んでいる。
「大丈夫。ちょっと、ふらついただけ」
「貧血?最近がんばりすぎてたから……。少し休んだ方がいいんじゃない?」
「……うん、ちょっと寝る」
体はなんともなかったが、今見たものが自分にとって、とてつもなく大切であることを悟ったアヤは、深く動揺しながらもその真相を探らずにはいられなかった。
自室に戻って一番先に考えたのは、サイの部屋で見たあの写真立て。
(さっき見たあれは、サイだった)
もう一度、思い返してみる。
(そうだ。あれは……自分の持っていた鈴だった。理恵から貰った、自分も気に入っていたはずの……)
すると、思い出してはいけないと言わんばかりに突然激しい頭痛に襲われた。
「うぅッ……」
アヤはベッドに倒れこんで、そのまま何も考えられなくなってしまった。
💧 💧 💧
次の日、サイが海水浴に着る水着を買いに行こうと誘いに来て、2人はショッピングモールへ出かけた。
昨夜見たものは本当のことなのか、それとも夢なのか、どうにも判断できずにいたアヤ。
しかし、とりあえず今日は忘れて、いま目の前でふんわりと笑っているサイとの時間を楽しみたかった。
「アヤ~、どんなのがいい?これはどうかな~。それとも、こっちかな~?」
サイがアヤに次々に水着を合わせていく。
アヤは、本当に戸惑っていた。
アヤが友達と海に行くなんてことは小学校以来なかったし、そもそも水着を着て人前に出るなんてことも、今までのアヤにはあり得ないことだった。
「えっ!こんなの着るの?」
サイがアヤに選んだのは、ワンショルダーで肩にフリルの付いた、薄いラベンダー色のビキニだった。
「アヤは色が白いし華奢だから、今年流行ってるような茶とかベージュとかより、こっちの色の方がいいよ」
が、しかしこのビキニは……。
「とりあえず、着てみて。その間に私も選んでくるね」
そう言うと、サイはアヤを置いて更衣室から出て行ってしまった。
アヤは仕方なくサイに勧められるまま、その水着を着てみることにした。
それにしても、恥ずかしい……。
が、以外にもサイの見立てはアヤにピッタリで、華奢なアヤの体はビキニを着ても決していやらしくなく、かえって可憐に見えた。
自分の変貌ぶりにしばらく鏡を見つめていると、
「どう?」
と、更衣室のカーテンのすき間から、サイが顔だけ突っ込んできた。
「ワ~ォ。アヤ、メッチャかわいい!」
サイはそう言いながら、自分も更衣室の中に入ってくる。
二人で入っても広い空間の更衣室なのだが、サイはなんの躊躇いもなく、アヤの目の前で自分の選んできた水着に着替え始めた。
Tシャツを脱ぐ、スカートを脱ぐ……。
一瞬迷ったが、アヤも水着のままだ。このまま外へ出るわけにもいかず、目線をどこにやったらいいのか、ソワソワしながら、サイが着替え終わるのを待っていた。
そんなアヤの気持ちを知ってか知らずか、サイは少しニヤつきながら着替えている。
「女同士じゃん。なに恥ずかしがってんの?」
そう言われると余計に恥ずかしくなって、アヤの顔は真っ赤になった。しばらく俯いていると、
「見て。どお?」
と、サイが言うのでアヤは足元からゆっくり視線を上げていった。
つま先に、ターコイズブルーのペディキュアが塗られていて、とてもきれいだ。足首はキュッと締まっていて、その上にスラッと伸びたふくらはぎ、膝にも無駄な肉などついていない。すき間のあいた腿の向こう側に、更衣室のカーテンの色が見えた。
サイが着ているのも、ワンショルダーの水着だったが、ココア色でビキニの面積がアヤの物より少ない。
きわどいデザインのようだが、肩と片方の腰の部分に大き目のリボンがついているせいでエレガントに見える。
ウエストのくびれや、へそ周りの心地よく縦についた腹筋が、健康的で大人なデザインの水着を若々しく見せていた。
「キレイ」
思わず、アヤの口から本音が出た。
サイはクスッと笑うと、鏡の前に立っているアヤに少しずつ近づいて行った。
気づいてアヤがじりじりと後ろに下がると、とうとう鏡に背中がついてしまった。
(え?)
どうしようもなくなって俯いていると、サイの右の腿あたりに、小さいアザがあるのを見つけた。
「これ、なにか……
アヤはその場の空気をどうにかしたくて、苦し紛れにサイのアザらしきものを触って言った。
二センチほどの薄いピンク色の、そのアザらしきものは、右の腿の付け根付近にあった。
それでも、サイは気に留める様子もなくどんどん近づいてきて、二人の体が密着すると、アヤの首筋にサイが唇を寄せてきた。
「あっ」
アヤが小さく声を漏らすと、
「アヤは私のことよく見てるね。こんな足の付け根まで。……もっと見たい?いいよ、アヤにだったら全部見せても」
アヤの心臓がドクンッと鳴った。
つづく
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