第118話『四号戦車試乗会・1』
かの世界この世界:118
『四号戦車試乗会・1』語り手:ブリュンヒルデ
朝食のあと、子どもたちを四号に乗せてやることになった。
ヘルムには軍隊が無い。だから戦車なんか見たことも無いのだ。
キャタピラで動くものといったら、ブルドーザーとかユンボくらいしか知らない。
四号の最高速度は時速三十八キロでしかないが、ブルドーザーに比べればスポーツカーだ。実弾を撃つわけにはいかないが、よく見えるところで砲塔をグルンと回して空砲の一発も撃てば喜んでくれるだろう。
しかし、困った。
希望者が三十六人も居るのだ。
最初に乗っていた二号に比べれば大きい戦車だが、それでも定員は五人だ。定員以外に乗せるとなると、子どもと言っても二人がやっとだろう。ユーリアの兄であり、子どもたちの先輩でもあるヤコブは真剣に考えるが、いい考えが浮かばないようだ。その悩んでいる姿も兄妹らしくて、われわれ乗員は顔だけ真剣にして微笑ましく見ている。
「いい考えがあるわ」
手際よく朝食の片づけを終えたユーリアが指を立てた。
「考え? ジャンケンでもさせるか、停めたまま乗せるので勘弁してもらうとか?」
「だめよ、お兄ちゃん。夕べは大人たちのお楽しみで、子どもたちは我慢してたんだから、ちゃんとやってあげなきゃ」
「と、言っても、二人ずつじゃ今日一杯かかっても終わらないかもしれないぞ」
ヤコブがヘタレ眉になってため息をつくと、ユーリアはピンと庭のベンチを指さした。
「ベンチを戦車の上に固定するのよ。あれだけ広けりゃ三人掛けが二列置ける。砲塔のハッチが三か所あるから、そこにも一人ずつ。合計九人。でもって、裏の丘の上まで駆け上がるの。そうしたら四往復でいける!」
ユーリアの提案に、裏の丘を見上げた……なかなかのアイデアだ。
丘の上なら、四号が登っていくのも降りていくのも見られる。いいや、ユーリアの家からでも見られる。
四往復で済むだけじゃなくて、丘の上に居てもユーリアの家で待たされても退屈することはない?
ユーリア偉い! このブリュンヒルデが誉めてとらすぞ!
「それにさ、希望する大人たちもトラックとか車で付いていくの。丘の上で、ちょっとしたお弁当とか開いてピクニック気分とかもいいんじゃない?」
「あーー、それいい!」
ロキが子どもらしく、その気になって手を挙げる。
「おまえに聞いてない」
「イテ!」
タングリスにポコンとやられる。
「それでさ、せっかく丘の上なんだから花火とか上げようよ。大砲撃つだけじゃ能がないからさ」
「そうよ、それいいわ。たしか町長さんとこの倉庫に打ち上げ花火の道具があるはずよ。お母さん借りてくるわ」
「それなら、いっそ四号の主砲で撃てるように細工するよ!」
ヤコブがメカニックらしい提案をして話が決まった。
たちまち、町をあげてのイベントになってしまった!
☆ ステータス
HP:9500 MP:90 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
持ち物:ポーション・70 マップ:7 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高25000ギル)
装備:剣士の装備レベル15(トールソード) 弓兵の装備レベル15(トールボウ)
技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
白魔法: ケイト(ケアルラ)
オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
タングリス トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
タングニョースト トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属
ロキ ヴァイゼンハオスの孤児
ポチ ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
―― この世界 ――
二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長
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