第42話『ゲペックカステン』


かの世界この世界:42     


『ゲペックカステン』   







 北門は正門ほどの大きさではないが賑わいは比べ物にならない。


 

 ムヘンブルグ城塞都市の日常生活をまかなう物資を積んだ大小さまざまのトラックが行き来し、商売や仕事で出入りする人々がバスや車、あるいはバイク、あるいは荷車や自転車、近隣の者は大荷物を背負って行き来している。


 道の左側二車線は軍用に空けられていて、軍用のハーフトラックや装甲車、戦車が通る。中でも快速で軽快な二号戦車が半分近くを占めていて、我々の二号戦車も、その中に混じっている。


「なるほど、これなら目立たないな」


 そう呟くと、グリがクスリと笑う。


「目立たないもなにも、われわれ四人は正規の警備兵として登録されています。遊撃警備隊に属しているので、どこをどう通ろうと怪しまれませんよ」


「でも、こんな子供みたいなの連れていたんじゃ、いくら警備隊のコスを着ていてもダメだろう」


「めずらしくありませんよ、ほら、前からやって来る部隊……」


 グリが示したペリスコープを覗くと、警備任務から帰還してくる二号の車列が見える。数えて五両の二号は乗員たちが車外に出て、砲塔に腰掛けたり、道具入れの上に腰掛けたりしてくつろいでいる。


 そのくつろいでいる兵士の半分は女性であったり少年少女であったりする。


「外に出て手を振ってやるといいですよ」


「「え、いいのか!?」」


 ブリとケイトの声が弾む。グリがハッタリをかまして「人目についてはいけません」と言っていたので、北門を出るまでは二号の狭い車内で辛抱していたのだ。


 グリの意地悪にはには訳がある。


 リュック山盛り二つ分のお八つを諦めきれないブリとケイトが「ゲペックカステンの中に入れればいい!」と、主張したのだ。


 二号の履帯ガードの上には左右共に大きなゲペックカステンという道具入れが付いている。ゲペックカステンは飾りではなく、戦車のメンテに必要な道具や野営の道具などが入っていて、余計なものをが入る余裕はない。


 そこに無理やり詰め込んだもので、一部の道具は下ろしてしまった。それで、グリは意地悪を言ったのだ。


「プハー! やっぱ、外の空気はおいしいぞ!」


 砲塔に腰かけて伸びをするブリに、すれ違う二号の乗員たちが手を振る。


「任務ごくろうさま!」


「あんたら、これからか、ごくろうさん!」


 元気よくエールの交換。だれも、ブリがブリュンヒルデ姫だとは気づかない。やっぱ、トール元帥がュンヒルデを取ってしまった効果は大きいようだ。




 しばらく行くと、一両の二号戦車が路肩に停まっていた。




「すまん、ちょっとツールを貸してくれんか」


 腕まくりして油まみれになった車長の軍曹が声をかけてきた。


「ここにきてエンコかい?」


「ああ、だましだまし来たんだが、北門の目前でこれだ」


「レッカーを呼べばあ」


 ブリが、なにごとかを予感してアドバイス。


「それは最後の手段だ、レッカー呼んだら、報告とか始末書が大変だからな」




 ブリは汗が出てきた。メンテツールは下ろしてしまっている。


 ケペックカステンを開けてしまえば大量のお八つがバレてしまう!




 ヤ、ヤバイ……ブリの心の声が聞こえてくるようだった。


 


☆ ステータス


 HP:500 MP:500 属性:剣士=テル 弓兵=ケイト


 持ち物:ポーション・15 マップ:2 金の針:5 所持金:5000ギル


 装備:剣士の装備レベル5(トールソード) 弓兵の装備レベル5(トールボウ)


 


☆ 主な登場人物


 テル(寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫


 ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる


 ブリ         ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘


 タングリス      トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係


 二宮冴子  二年生  不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い


 中臣美空  三年生  セミロングで『かの世部』部長


 志村時美  三年生  ポニテの『かの世部』副部長 




 

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