第26話『風の向くまま』


かの世界この世界:26     


『風の向くまま』  






 わたしには、あるべきものは有って、有ってはならないものは無かった。




「……健人だけがカミングアウトしたんだ」


「カ、カミングアウト言うなあ!」


 腕をブンブン振って抗議する健人、エキサイトすればするほど黄色い声になるので何ともおかしい。


「ちょ、慣れるのに時間かかるから、興奮しないでくれる……ハ、ハハハ、ハーーおっかしいよ~」


「おかしくなんかない……」


「さて……」


 右手を上げてウィンドウを開いて、ステータスを確認する。




 HP:200 MP:100 属性:?


 持ち物:ポーション・5 マップ:1 所持金:1000ギル


 装備:始りの制服




 ポーションがエントリープライズのようだ。使ってみなければ分からないが、ポーションの効き目は250くらいのものだろう。


 いろいろやったRPGの初期回復アイテムの効果がそれくらいだ。


 逆に言えば、ポーションを一回まるまる使っても最大で199しか回復しない(HPは最低でも1は残していないと死亡判定になってしまい、直近のセーブポイントまで戻されてしまう)ので、200というHPが、いかにショボイかが分かる。


 属性は経験値を稼いでコマを進めなければ決められないようだ。


 装備は始りの制服で、たぶん、いま身に付けている学校の制服のことなんだろう。


 攻撃用の武器も防御用の盾やシールドも無いので、システムは分からないが、早く獲得しておいた方がいいだろう。


 マップは『始りの草原』とある。たぶん、今いる原っぱがそうなんだろう。後にも先にも『始りの草原』しかないのは、冒険が進むにつれてマップが増えていく仕掛けになっているんだろう。


「どこに行ったらいいか分からないよ……」


 同じようにウィンドウを開いた健人が、早くも途方に暮れている。


「ヘタレるの早すぎ!」


「わ、悪かったよ」


「とにかく周囲を観察してヒントを探そ……始まったばかりの出発点なんだから、そんなに難しいはずはないよ」


「う、うん……」


 とりあえず立ち上がる。


 当てがあるわけじゃないけど、座ったままだと、気持ちが前向きにならない。


 ノロノロと立ち上がった健人は女の子らしく、制服のあちこちに着いた乾草の欠片をハタハタと掃う。


 乾草の欠片は、わずかに健人の右後ろに落ちていく。




 そうか!




 わたしは、一掴みの乾草を揉みしだいて粉々にすると「えい!」っと頭上に投げた。


 乾草の粉は欠片よりもハッキリと右後ろに流れていく。


「わかった!」


「え?」


「風の向くままよ!」




 草原のあちこちに乾草の山の崩れがある。たぶん、わたし達より先に来た者たちが着地した跡だろう。


 その崩れで乾草を揉みしだいては「えい!」と投げ上げ、風の向きを見失わないようにして進んでいった。


 そうやって百回近く繰り返して、やっと草原の中に伸びる一本の道を発見したのだった……。






☆ 主な登場人物


 寺井光子  二年生 今度の世界では小早川照姫


 二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される。回避しようとすれば光子の命が無い。


 中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長


 志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 


 小山内健人 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ



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