第25話『あるはずのモノ ないはずのモノ』


かの世界この世界:25     


『あるはずのモノ ないはずのモノ』  






 バフッ! グニュ!




 二つの衝撃が同時にやって来た。


 うつ伏せに落ちた前の方がバフッ! 背中側がグニュ!


 一瞬わけがわからないが、コンマ五秒くらいで爽やかな香ばしさが鼻孔をくすぐり、露出した手足にチクチクあたるものがあって、乾草の上に落ちたと分かる。


 背中側のグニュ! 重さがあるので健人が重なっているんだと見当はつくんだけど、感触が変だ。


「ちょっと、健人……」


 反応がない、落下のショックで気絶しているようだ。


 しかし、下敷きにされた方がしっかりしていて、わたしをクッションにした健人が気絶しているのは面白くない。


「ちょっと、どいて!」


 払いのけるようにして起き上がると、意識のない健人はサワサワサワと軽やかな音をさせて乾草の山から転がり落ちてしまった。


「もう、だらしのない……ウワーー!」


 乾草の頼りなさにバランスを崩し、フワフワと転げ、今度はわたしが健人の上に重なった。




 ムニュ




 不可抗力で健人の胸を掴んでしまった……しまったんだけど、この感触?


 上体を起こして、あいかわらず気絶中の……健人?


 さっきみたいにセーラーの上が捲れ上がってるんだけど、そこから半分顔を出した膨らみはブラの分?


 こいつ、イミテーションのオッパイまで付けてんのか?


 まじまじ見ると、ブラからはみ出ている部分は明らかにシリコンなんかの偽物じゃない。


「ちょ、ちょっと、健人!」


「ウ、ウ~ン」


「目、覚めた?」


「え、あ、テル……」


 変だ。


「健人、大丈夫?」


「う、うん、高いとこ苦手だから、ちょっと気が遠くなってしまって……」


「その声……」


「ん?」


「まるで女の子じゃないの!」


「え、ええ?」


 びっくりして、わたしの顔を見る健人。


 その顔の造作は、幼いころから馴染んだ健人に間違いないんだけど、顎や首筋のラインが微妙に違う。


「胸触ってみ……ばか! わたしのじゃない! 自分のだ、自分の!」


「え、あ……あ……ああ!?」




 自分の胸を掴んで驚愕した健人は、次の瞬間、股間に手を伸ばして泣きそうな顔になる。




「ど、どうしよう……無いはずのものがあって、有るはずのものが無くなってる! 無くなってるよ~!」


「しっかりしろ! わたしが守ってやるが、うろたえているだけじゃ何もできないぞ!」


「テル……なんだか男っぽい」


「え、ええ?」




 わたしは、おそるおそる胸と股間に手をやった……。


 


☆ 主な登場人物


 寺井光子  二年生 今度の世界では小早川照姫


 二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される。回避しようとすれば光子の命が無い。


 中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長


 志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 


 小山内健人 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ


 


 

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