第11話『世界を助けてもらいたいの』


かの世界この世界:11


『世界を助けてもらいたいの』    






 2000人助かると、時美のお母さんは別の人と結婚することになるの。




 中臣先輩は、学食でお蕎麦が売り切れだったらラーメンを食べるのというくらいの気楽さで言う。


「時美には生まれて来て欲しいから、やっぱり震災の犠牲者は6000人」


「ただいまあ(^▽^)」


 先輩が訂正すると、隠れん坊で最後まで隠れおおせた子どものように志村先輩が現れ、年表も元の姿に戻った。


「いくつもの小さな変化を加えると、2000人助けた上で時美が生まれるようにもできるんだけどね、すごく難しい方程式を解くようにしなくちゃならない。たとえできたとしても、遠い将来に影響が出るかもしれない」


 ヤックンの告白を無かったことにして、冴子を殺すことを回避していなければ信じられない話だ。


 それに、二人の先輩はティータイムの雑談のように話すので、まるで切迫感が無い。


「だから、今のところ震災についてはいじらないんだけど、全てのできごとを放置していると……」


「わ!」


 三つ子のビルが音を立てて崩壊していく。


 思わずのけ反ったが、モニターに映った3Dなので、吹き飛ぶ破片や濛々と寄せ来る爆煙に襲われることもない。


「これって、世界が崩壊したことを意味しているの」


「歴史は三つ子ビルほど単純じゃないけど、いくつかの出来事を修正しないと世界は崩壊してしまうの」


「かの世部はね、そんな歴史のイレギュラーを修正していく活動をしているの」


「それで、寺井さんには才能があるのよ。歴史を修正していく力が」


「そんな力がわたしに?」


「そう、ついさっき、ヤックンの告白を回避したじゃない。あれが成功していなければ、寺井さんは二宮さんを殺してしまう」


「そして、校内を逃げ回ったあげくに、この旧校舎の屋上に追い詰められ飛び降りて死んでしまうことになる」


「わたしや時子にも力があるけど、屋上に逃げる寺井さんを中廊下奥のここ(部室)へ誘導するのが精いっぱいなの」


「だから、ぜひ寺井さんに入部してもらって、わたしたちを……」


「「世界を助けてもらいたいの(o^―^o)」」




 二人の先輩の声が揃ったところで再び意識が遠のいていった。




☆ 主な登場人物


 寺井光子  二年生


 二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される


 中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長


 志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 



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