グランディール家の晩餐会 2
視線が痛い状況の中、そういえばレイティア様の顔を良く見てなかった事を思いだし、顔を上げそれとなく見てみた。
銀色の長い髪に、ルビーの様な赤い瞳のとても40才代とは思えない若くて美しい女性だった。
やっぱり親子だね。良く似ている。
しかも胸の当たりが・・・・うん、そっくりだ
「タクミ君! どこ見てるのかな?」
カーリーが僕の顔を両の手の平で掴み、自分の方に向きを強引に変えてきた。
いえ、僕は決して、カルディナとレイティア様の胸を見比べていたわけでは・・・・
カーリーが僕を見つめる視線が怖かった。
「はい、すみません」
こういう時は素直に謝るのが一番。
おかげで、カーリーの膨れっ面ももとの顔に戻ってくれた。膨れた顔も可愛いかったけどね。
「レイティア、私には紹介してもらえないのかしら?」
柱の影に隠れる様に立っていた女性が、僕達の方に近づきながら声を掛けてきた。
「あ、お姉様すみません、この子、凄く可愛かったものですから、つい興奮してしまって」
申し訳なさそうなもの言いだがその顔は平然としていて全く悪びれた感じはなかった。
「まあ、良いわ。今日私は非公式での招待ですから」
そう言って改めて僕の方に向き直り一歩近づく女性。
「始めまして、タクミさん。私はセスティナと言います。ヴェルデとフラムから聞いていたから会うのが楽しみだったわ」
「セスティナ、様? ん? あ?!」
僕は考える間もなく直ぐに片膝を付き頭を垂れた。
「申し訳ありません! 不敬の所作お許し下さい! 妃殿下」
そう、この方は現シルフィテリア王国、国王のお妃様であるセスティナ・シルフィテリア様だ。
「別に構いませんよ。さっきも言ったと思うけど、今日は非公式でここにいるの。今日は実家に変えって来た一人のおばさんだから気にしないでね」
セスティナ様はそんな事いってるけど、どう見たって20代後半にしか見えませんよ。
確かに皇太子殿下は20才は過ぎてたと思うから40代なんだろうけど、あんな息子が居るなんて、全然そんな雰囲気を微塵も感じさせない美しさだ。
「それで、私には無いのかしら?」
「う! し、失礼いたしました」
僕は、レイティアと同じようにセスティナ様の手を取り口づけをする。
また視線が痛い。
これは挨拶だからね。
「ヴェルデ、フラム、良かったですね。やっと旦那様と会えたのですね」
「はい、これもセスティナ様のご配慮があればこそです。本当にありがとう御座います」
ヴェルデとフラムも膝を付き礼をとって、セスティナ様に挨拶をしていた。
そうか、セスティナ様はヴェルデ達が初めにこの世界へ転生してきたからの協力者だったはず、確か。
「そんな事は無いわ。どちらかと云うと私の方があなた達に謝らなければならないわ。あの馬鹿王の為に命を落とし、このような状況になってしまった事、本当にごめんなさい」
「いえ、返って若返ってタクミと会えたのですから、不幸中の幸いですよ。ただ自分が複数人に分かれたのは驚きましたけどね」
ヴェルデとフラムはセスティナ様と話しているが、その表情は決して悲観している事なく、穏やかに話し合っているので現状には満足しているのだろう。
「それで、他の奥さんがこの方達なの?」
どこか嬉しそうに、カーリー達の方を向いて尋ねるセスティナ様。
「はい、こちらから、カーリー・マリガン、それとこの子がトルエ・カイザー、あの皇帝真竜の化身ですね」
ヴェルデの紹介でカーリーも跪く。
「初めてお目にかかります。カーリー・マリガンと申します。拝謁させていただき心から感謝申し上げます」
「あら!可愛いわね。でも凄くしっかりしてる。やっぱりテレジアだわ。それからそんなに畏まらないでね。私とあなたは、転生する前は私とお友達だったんだからね。今もそれは変わらないから」
セスティナ様は優しくカーリーの手を取り立たせると、カーリーをギュッと抱きしめた。
最初驚いたカーリーだったが、穏やかな表情で抱きしめられるのを受け入れていた。
暫く抱きしめ合っていた二人はゆっくりと離れ互いを見つめ合って微笑んでいる。なにか凄く良いものを見た気分だね。
セスティナ様はカーリーから少し離れると今度はトルエの方へと近づいて行った。
相変わらずトルエは仁王立ちで特に礼をとる雰囲気は無い。
そもそも皇帝真竜、一般的にカイザーと呼ばれるこの竜は、竜種の中でも一番飛び抜けた能力を持つ、生物の頂点に君臨する生き物だと云う事だ。
その力は、神にも匹敵すると言われているので、人々からは崇められる存在なのだが、今回は悪鬼の策略なのか、ただの真竜としてクドエルド王子に従属させられていた為、誰もカイザーとは解らなかった様だ。
セスティナ様がトルエの前までくると、いきなり跪き頭を下げられた。
一瞬ここにいる皆が驚いたが、トルエもそれを当たり前の様に腕を組見下ろしていた。
「皇帝真竜トルエ様、此度のシルフィテリア王国の仕出かした罪、どう償おうとお許し出来るものではありませんがせめて、この私の命と引き換えにお許し願えませんでしょうか?」
突然の謝罪とセスティナ様の命を捧げる言葉に、カルディナもレイティア様もびっくりし青ざめていた。
「お、お姉様、何を言っておられるのです! お姉様が償う事ではありません! どちらかと言えば王自ら制裁を受けられる時案なのですよ!」
「そうです!今、叔母様が命を投げうる事ではありません!私もトルエ様にお願いいたしますのでそのようなお考えはお止し下さい」
二人は、セスティナ様の言葉を取り消そうと躍起になっている。
実際、トルエがその気になれば、国の一つや二つ簡単に消し飛ぶと、自分で言ってたもんな。
ただの人族なんて神相手に喧嘩しているようなもんだものな。
「そうは言っても、カイザー様への無礼は消えませんし、もし王の命を取られてしまえば、今この国は三人の王子も行方が解らず、王までいなくなれば騒乱を起こしかねないのです」
三人は、それぞれの思いを話この国の事を真剣に考えていた。
そんな三人を仁王立ちで見ていたはずのトルエは、床の絨毯の上にドカッと胡座をかいて座り、退屈そうにあくびをしていた。
僕の奥さんで、可愛いから許すけどそんな事あんまり人の前でするもんじゃないですよ。
僕がそう思いながらトルエの方に視線を投げつけると、それに気付いたのか、急に正座して背筋をピンと伸ばし僕の方に顔を向けこれでどう?と投げかけて来た。
僕は小さく頷くと、パッと顔が明るくなり機嫌がよくなった。
「カルディナ、それとその方らも、別に今回の事はもう怒ってはおらんよ。逆にターちゃんに会えて嬉しいくらしじゃ。これでこの件はすべて水に流すぞ。ただし今度このような事をあの王が考えれば即刻国を滅ぼすぞ!」
「本当ですか? わかりました! あの馬鹿王にはきっちりと言っておきます!」
セスティナ様の言葉に、トルエもウンウンと頷き、カルディナとレイティア様の安堵の溜息をついていた。
「とにかく、ありがとう御座います。カイザートルエ。それともう一人おいでですが、彼女もテレジアなの?」
セスティナがヴェルデに問う。
「いいえ、彼女はただ単にタクミの嫁さんですね。」
その言葉を聞いて、セスティナ様が眉ねを寄せて眉間にしわを寄せていた。
「タクミさん、どれだけ奥さん増やすのですか?」
少し冷たい視線のセスティナ様とレイティア様。
「あともう一人神官の子がいるから、現時点で6人の奥さんがいるわね。タクミ」
ちょっと、ヴェルデさんの声も気のせいか冷たい気がする。
そんな事言っても僕もどうしようもなかったんだからね。
本当だよ?
「カルディナ、あなたも頑張りなさい! あのカイザー様より先にタクミさんとの子供作ってしいまいなさい! そうすれば勝ったも同然よ!」
レイティア様が変な事言い出してる。
でもその言葉に、皆が反応しているように見える。気のせいか室温が上がってないか?
「あのー・・・・・・」
「はい?」
僕は突然か細い声が耳に届いた為、つい頷いてた。
「あれ? お父様ではないですか。おられたのですか?」
「あら、本当だわ。いつお出でになられたのです、あなた?」
「久しいですね、ルディオレ・グランディール。さて今日は何用ですか?」
カルディナとレイティア親子に気付かれず、セスティナ様に何用かと問われた男性。
この方が、グランディール公爵様なのか。
でも、この女性三人の扱いは、ちょっと可哀相な。
「一応、私この家の主なのですが」
「当たり前じゃないですか。あなた。それで何かありました?」
僕の頭に婿養子と言う言葉が浮かんできた。
公爵様負けないで!
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