公爵令嬢争奪真竜対決 10

タクミは、異様な雰囲気のクドエルド王子だけを一瞬警戒してしまった。


「タクミ君だったかな? 私だけに注視していいのかな?」


『タクミ君! 危ない!!』


カーリーの大声に、タクミは何も考えずに防御耐性を体に目一杯掛けた。


「ヒュッ!! ドガン!!!」


タクミは一瞬何が起こったのか解らなかった。

物凄い衝撃があったかと思った瞬間、体に浮遊感が襲い見えているものが残像の様に流れていった。

そしてまた物凄い衝撃が体を襲う。


「クッ、ウッ!」

「タクミ君!」

「タクミ!」

「タッ君!」

「タクミさん!」


タクミは、一体何が起きたのか一瞬解らなかったが、いつの間にか自分を囲む様に、みんなが来ていて、みんなの顔が物凄く心配そうにしているので、ああ、失敗したなとタクミは思っていた。


「ゴメン、油断していたよ」

「大丈夫なの?! 真竜の尾に勢いよく叩かれて飛ばされてたわよ!」

「大丈夫だよ。ちょっと打撲はあるけど、動くのに支障はないよ。みんな心配掛けてごめん」

「それより、注意して。あのクドエルド王子、普通じゃないぞ!」

「失敬だな君は。この僕の何処が普通じゃないんだって?」


今は動かない真竜と二人の王子が、いつの間にかクドエルド王子の後ろに並び、タクミ達と相対していた。

しかし、二人の王子の目が血走り、大きく方で息をしているのに対して、クドエルド王子は薄気味悪い笑みを浮かべ余裕の態度でいる。


「王子殿下、あなた方が持っておられる武器は、魔力どころか人の生気まで一緒に取り込んでいるようですが、後の御二人方は見ただけで解るほど異変が起こっていると云うのに、あなた様だけは平気でおられる。これを異常と言わなくて何を異常と言うんでしょうか?」


「馬鹿だな君は。この武器を私は使いこなし、この二人は使えこなせていないだけの事だよ」

「しかし!このままでは御二人とも命の保障は出来ませんよ!」


クドエルド王子はタクミの言葉に、それがどうしたと言わんばかりにニヤリと笑っている。


「そんな事は解っているわ。それが目的とは言わんが、そうなっても別に問題無い。おかげで、この武器に多くの魔力と人の生気を取り込む事が出来たよ。」


タクミは眉間にシワを寄せ訝しむ。


「それはどういう事ですか?」

「そうそう、僕の同胞がタクミ君にやられてしまったようだね。まったく情けないことだよ。たかだか人間風情にやられるだなんてね。鬼族の風上にも置けないよ」


肩を竦めてやれやれ、といった感じで手を拡げ首を振るクドエルド王子。


「鬼だって?」

「ああ、そうだよ。これ、見たことがあるよね?」


そう言って、掌を上に向けると、その手からスーっと大きな黒い水晶のようなものが表れた。

それは、間違いなく魔族が封印されていた水晶石と同じものだった。


「どうして、あなたがそれを持っておるんじゃ!」


クロちゃんが動揺する。

あれは、クロちゃんの同胞である魔族が封印されている黒水晶だ。

世界のあちこちに封印され隠されているため、探すのも苦労するものなのに、クドエルド王子はそれを持っていた。


「まあ、出所はどうでもいいじゃないか。これを媒体にして、我が鬼族を復活させる。ただ、単に復活させても、魔素不足と憎悪等の負の感情が少過ぎてね、本来の力を取り戻せないようなんだ。で、この武器の形をした保管器に大量の魔素と人の生気と感情を吸わせてもらったんだ。この二人の王子は、良かったよ。純粋に馬鹿で悪だったからね」


笑みを浮かべ後ろにいる二人の王子を眺めるクドエルド王子。


「貴様は悪鬼なのか? そうなら、本物のクドエルド王子はどうした?」

「そんなの一々言わないと駄目なのかな? それこそお決まり通りだよ。わあ、はははははは!」


タクミは、クドエルド王子はもう生きていないだろう思った。


「それなら、あんたを殺しても不敬にはならないね」


タクミ達は、クドエルドに向けて構える。


「タクミ様!!御無事ですか!?」


大声で叫びながら、カルディナと部下を数人連れて競技場に下りタクミ達のところにやって来た。


「カルディナ!ここは危険だ! 会場にいる者と一緒に避難するんだ!」

「何を言ってるんです。私はこの国の公爵家の長女にて王位継承権5位の地位にある者です! 民衆を守るのが義務なんです!」


真剣な顔で言い放つカルディナにタクミは本当の貴族を見た気がした。


「カルディナなら良い国を作ってくれそうだね」


タクミの言葉に照れるカルディナだったがすぐに真剣な顔に戻る。


「それは、あなたが一緒なら叶える事が出来ると私は思っています」


自分で言っておいてその直後、顔を赤くしてさっきより照れているカルディナと、それに連れられてタクミも照れてしまう。


「これは、カルディナ姫、わざわざ来ていただけるなんて光栄な事ですな」


クドエルドは、カルディナの姿を見ると、嫌らしそうな目つきで見つめていた。


「あなたは? クドエルド王子なのですか?!」


カルディナの声は今目の前にいる人物がクドエルドだと一瞬解らない事を告げていた。

いつのまにか額には二本の角が生え、口からも牙が見えている。

そして肌の色も赤黒く変色し異様さを増している。


「カルディナ様!今の声!私共にタクミ様の偽の情報をよこして来た者の声にそっくりです!」

「本当ですか?ルーナ」

「会った時はフードを目深に被っておりましたので表情は見れませんでしたが、特徴的な声ですので間違いありません!」

「ああ、カルディナ姫の部下だったな。お前が、僕の暗示通りに事を成し遂げたいれば、もう少し簡単にこの国を手に入れる事が出来たんだが」


クドエルドはルーナを軽蔑するような眼差しで言い放つ。


「まあ、良い。仲間を復活させる為の道具も揃った事だし、この国にはもう用はないから、消えさせてもらうよ」


「それはどういう事だ?」


タクミの言葉にクドエルドは表情を変える事なく話しを続ける。


「そのままの意味だよ。この国にはもうこの黒水晶は無いようだ。他の国や、場所を探してもっとたくさん揃える必要があるのと、この武器に魔素や生気、憎悪の力を溜め込む事が出来たからな、ここでする事が無くなったという意味だよ。なので、この街には消えてもらうとするよ」


クドエルドは笑っていた。

この国を滅ぼすと言いつつ笑っていた。


「あ、そうだ。カルディナ姫、僕と一緒に来るならこの国を滅ぼす事は止めてあげても良いかな? 僕の玩具になってくれよ。そしたら当分退屈しないでいれそうだし、飽きたら解放してあげるから良いよね?」


当然の様に言うクドエルド。

その目はカルディナを嫌らしい目つきで舐めまわす様に見つめ端で見ているカーリー達までも鳥肌がたってしまう程だった。


「誰が、お前の様な外道のものになるものですか!」


カルディナは腰から剣を抜き、クドエルドに相対し構える。


「そう言うと思ったよ。これで、この国民はカルディナ姫一人のわがままで命を無くす事になったんだ。僕が、世界中にカルディナ姫がいかに傲慢で酷い姫だったかを広めてあげるね。」


「大丈夫だ。僕たちがそんな事はさせないから」


タクミとカーリー、ヴェルデにフラム、そしてクロちゃんが一斉に構え直ぐにでも攻撃出来る体制に入った。


「カルディナ、ルーナさんと一緒に、この会場の人たちの避難の誘導をお願いして。残った僕たちであいつを止めるから!」

「タクミ様! ・・・・・・・・・・ 解りました。ルーナお願いできますか?」

「しかし、カルディナ様!」

「お願いします。今の私たちではタクミ様達の足手まといにしかならないのよ。」

「わ。解りました」


カルディナもルーナも自分が役に立てない事に怒りを覚えるが仕方ないと割り切る。


「どうかお気をつけて、タクミ様」


カルディナの言葉に頷くタクミ。


「そんな暇、与えないよ」


低く冷たい声でクドエルド呟くと、今までじっとしていた真竜の紋章が大きく輝きだし始めた。


「それじゃあ諸君、後はこの真竜が国を蹂躙するから楽しみにしてるんだよ」


そう言い残し、一瞬でその姿を上の兄二人と共に消えてしまった。


「しまった!空間転移か!」


『エル! 追える?』

『駄目です。どこへ向かったか補足出来ませんでした』


エルでも追えないなんて、やっぱり悪鬼だからなのか?


「グウオオオオオオオオお!!!!!!」


クドエルドが消えた瞬間、真竜の咆哮が王都中に響き渡る。

タクミ達と、真竜の決戦が始まった。

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