入学 8

特別昇格試験とも言うのかな?グランディール会長のかなり個人的意見の入った試験に合格し、一旦寮へと戻っていた。

その頃には、同じ新入生の子が制服に着替えてエントランスなどで寛いでいたり、先輩方に寮内を案内してもらったりと入学式までの時間を過ごしていた。


「それでは皆さん、これから私がこの寮について簡単に説明致します。それが終わりましたら、各々の部屋に入り支給された制服に着替えた後に、このエントランスホールに集まって下さい」


「「はーい!」」


カーリーとルゼが8才の子供らしく返事をする。

こうして見るとやっぱりまだ子供だよな僕達。

でも、時々カーリーが物凄く大人に見えるのは、転生のせいなんだろうか?

不思議に思っていてもしょうがないので、取り敢えずは会長のお話を聞くことにしよう。


「まず、この寮には学生や世話役の人など合わせておおよそ500人くらいの人が住んでいます。一部4階建てのこの建物は王国の創設以来から存在し増築や改築を重ねて現在に至っています。私達が今いるエントランスホールは3階までのぶち抜きで広々とした空間が売りね。皆が寛いだり、外来のお客様を招いたり話し合ったりする場所に使用して下さい。で、奥に向かって右側が男子寮、左側が女子寮ね。それで階毎に学年が別れていて、1階が一学年生、2階が2学年、3階が3学年となっているわ。」


なるほど分かりやすい。

おおよそシンメトリーになっているみたいだから、男子寮も女子寮も同じ作りなのだろう。


「それで私達、院生が住むのは、この中央にある中庭のその奥に建つ4階建ての2階から4階までのフロアーがそうね。ここからじゃちょっと見にくいかな? 後はその棟の1階と中庭に迫り出す建物には、食堂や浴室、あと色々な遊戯施設になっているから皆も楽しみにしていてね」


ちょっとお茶目にウインクしながら話すその姿は、試験をしていた時の圧力は全く無く、普通のお嬢様にし見えないからそのギャップに驚いてしまう。


「会長、質問があります」


カーリーが挙手し会長に質問するようだ。


「はい、なんでしょう?」


「先ほど男子寮と女子寮と言っておられましたよね? 院生の男子寮、女子寮はどうなっているのでしょうか?」

「それはありません」

「「「へ?」」」


僕とカーリー、そしてルゼまでが一緒になって同じ声をあげてしまった。


「つまり、それはどういう事でしょうか?」


僕はもの凄く嫌な予感を感じながら、会長に聞いてみた。


「つまりですね、院生にもなると10才以上の者ばかりになるので、大人として過ちは犯さないだろうって事で特に別れてはいないわよ?」


もっともらしく言う会長だが、いや10才以上だから問題じゃないのだろうか?


「但し! 男子が女子を襲うのは重罪ですが、女子が男子を襲うのは有です!」


有なんですか、ってそんな綺麗な顔して真面目に怖い事言わないで下さい。


「何故、女子は良くて、男子は駄目なんですか!?」

「あれ? タクミ君ってそんなに肉食系だったの?」

「違います! 僕は普通の男子で女の子を襲ったりしません!」


そこ!カーリー! えー? みたいな顔しないの!


「普通どっちも駄目なのじゃありませんか?」


僕は普通の事を言っているはずなんだが、会長は頭を捻ってハテナ? なんて顔してるよ。


「だって、この世界弱肉強食の世界よ。魔獣だっている世界なのですから、強い男を捕まえて子供を作れば自分の子孫が繁栄する可能性が高くなるのよ? そんなの待っていたら先越されて、弱々しい男や、馬鹿な男しかいなくなったら女性は悲惨なのよ」


うっ なんか正論の様な気がする。


「だから、この国というよりこの世界は一夫多妻が普通なのよ。なので、この学校に通えてる事だけでも優良物件の証になるから街に出るときは注意してね。それと、タクミ君は新入生ながら飛び級で院生になったし、その顔だからね、ずば抜けた超優良物件にしか女子は見ていないから・・・・うふふふふふ」


そういう事か。

さっきから女子がやたらと僕を見ている気がしたのは、そのせいなのか?

これは先が思いやられると思っていると、後ろから物凄い殺気がしてきたぞ。

僕はゆっくり振り返ると予想通りの光景が待っていた。

カーリーが怒っている。

それはもう、殺気が駄々洩れで、会長なんかその殺気で咄嗟に刀に手を掛けてるよ。

そんなカーリーが凄い形相のままゆっくりと僕の方に歩み寄ってきた。

もしかしたら僕殺されるの?

そんな事を思うほど殺気が半端なかった。

カーリーは僕の直ぐ横に立つと、ゆっくりと僕の腕を取り、まだ小さな膨らみしかない胸に押し付けてギュッと力を篭めて一度大きく深呼吸をした。


「タクミ君は! 私の旦那様です! 私の許可無しに手を出す奴は! それ相応の覚悟を持ってかかって来ること!! 容赦はしませんから!!」


エントランス中に響き渡る程の大声を出して、全女生徒に向けて宣戦布告を通達するカーリー。


「あなた達って、許婚か何かなの?」


会長が僕とカーリーの仲を聞いてきた。


「はい! 将来を誓い合った仲です!」


うわー、カーリー、その通りなんだけど、そんな事堂々と言われるとちょっと恥ずかしい気がするんだけど。


「へえ、でもカーリーに勝ったら、私も立候補しても良いってことかな?」


会長がカーリーに向けて宣戦布告返しをしてきた。

二人の視線がぶつかり合って漫画の様な火花が本当に出ているかと思うほどだ。


「うふ、なかなか面白くなって来たわね。期待通りだわ。」


会長何を期待していたんですか!


「取り敢えず入学式がもうすぐ始まってしまうから、各人部屋に入って用意してある制服に着替えて来なさい」


さすが会長だな。

一瞬で切り替えて実務に戻られたよ。

カーリーなんて未だに会長を睨んでるし。

とにかく、会長の言う通りにして、次に進めよう。

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