入学 3

「さすが、タクミ君! とっても格好良かったよ!」


何故かカーリーが胸をはって得意げにしている。

まあ喜んでもらえているのは良い事なのだろう?


「あ、あの! 助けてもろて、おおきに!」


ルゼリアが僕の前に来て、お礼を言ってきた。


「別に、いいよ、そんな事。それより怖かったでしょ、大丈夫?」


「はい! めっちゃ怖かったです! タクミはんが、居んかったら私死んでました。ホンマにおおきにです!!」


そう言って、僕の両手を握ったかと思ったらブンブンと振ってきた。


「ホンマ! おおきにな!」


「そこまでの事じゃないし、同じ新入生としてほっとけなかったしね。それより、ルゼリアさんでしたっけ?」


「はい、なんでしょう?」


「その服、修道服みたいだけど、どこかの教会のシスターなの?」


僕は気になっていた事を彼女に聞いてみた。


「あ、そうですよ。私は、エルカシア教に仕えるシスター見習いです。どうです? あなたはんも女神エルカシア様の信徒になりませんか?」


「ブッ! エルカシア教?!」


僕とカーリーは顔を見合わせると、向こうで寛いでいるエル達の方に視線を送っていた。

エルを崇拝する教会があったとは、本当に神様だったんだな。


『私が何か?』

『ああ、今、エルカシア教のシスター見習いが同じ入学生にいたんでびっくりしていたんだ。エル、自分を崇拝する教団があるなんて言わなかったよね?』

『そうですか? まあ、私も一応この世界の管理神をしていましたからね。ただ、出来てまだ浅いですから、色々な教団の中でも一番新しいはずですよ。なので一番弱小教団なんて言われて可哀相なのですけどね。こればっかりは私が直接どうにか出来ないですし、英雄時代の悪鬼を人々と共に倒した神、パデュロス様位の偉業を人に知らしめれば違うと思うんですけどね。意地悪な教団も有りますし、中には存在しない神を奉って私腹を肥やす、えせ教団もありますから』


エルが色々と教えてくれたが、結局この世界で一番大きな教団はパデュロス教で人、獣人、エルフ、その他の列国に必ず教会があるらしい。

それにしても、見習いとはいえシスターのルゼリアが何故この学校に通うのだろう?


「ルゼリアさん、シスターの君は学校に通わなくても教団の中で勉強とか出来るんじゃないの?」


僕は普通に聞いてみた。

すると彼女は肩を落し悲痛な面持ちになってしまった。


「私達エルカシア教は弱小教団なのは知ってはりますよね?」


「え? ま、まあね。」


その御本尊がここにいるのだから返事しにくいけどね。


「で、私の適性がたまたま良くて、このラングトン大学に入れると解った司祭様達が、宣伝目的と将来優秀な成績を修めて有名になれって言わはれまして、そうすれば信者が増えるんじゃないかって。」


そう言ってさらに肩を落とす。


『エル、なんか可哀相だから、たまに気にかけてやってね』

『はい、なるべくそうします』


エルもよほど可哀相になったのか自分のせいというのもあったのか彼女の事をそれとなく見てくれるみたいだ。


「ルゼリアさん、エルカシア教に入るのはちょっと考えさせてくれないかな?」


僕がそういうと、っぱあと顔を明るくなりさっきまでとはえらく違う印象に思えた。


「おおきに!! 断れなかっただけでも嬉しいです。精一杯、エルカシア様の良いところを教えますんで本気で考えてくださいね! それと私のことはルゼって呼んでもらってかましませんので!」

「じゃあ僕の事はタクミでいいよ。で、こっちがカーリー宜しく、ルゼ」

「カーリーだよ、ルゼ宜しく」

「お二人とも、今後とも宜しゅうお願いします」


僕たち三人が握手を交わしていると、背中からその光景を見つめる視線が気になってしまう。


「先生いつまで僕の後ろに潜んで居るのですか?」


ルゼとの話している間もずっと僕の後ろに付いて離れない先生に、言葉をかけると、え? といった感じで驚いている先生の顔が目に写った。


「あの、ここは私の定位置では?」

「いつから、定位置になったんですか?!」

「だって、タクミ君の背中って凄く落ち着くんですもの」


僕の服の裾を握りながら、涙目で訴えて来る先生。


「判りましたから、そんな情けない顔しないで下さい」


どこの世界に8才の男の子の背中に安心感をもつ教師がいるんだ?

そう思っていたら今度はカーリーが僕の横に来て腕を掴んで引っ付いてきた。


「先生、あんまりタクミ君に引っ付かないで下さいね」


笑顔で先生に話しかけるカーリーだが何故だか怖いと思ったのは僕だけじゃなかったようだ。

ルゼも少し腰が引けてたしね。

でも、さすが先生というか、そのカーリー笑顔の重圧にも耐え、必死で僕の服を掴んで対抗していた。

その胆力があるなら、堂々と皆の前で喋れそうな気もするんだけどね。


「と、取り合えず、今呼ばれた生徒は私に付いて来て下さい。その他の生徒は前もって渡してあります、四つの色札があると思います。その札と同じ旗を掲げた上級生が中で待っていますので、その上級生の前に集まり今後の指示を仰ぐように。それでは皆さん、行動を開始してください!」


先生の号令の元に皆が動きはじめる。

あくまで僕の後ろで言っているから威厳は無いけどね。


「では、私達も行きましょうか」


そう言って先生が寮とは違う方向を指差す。


「え?」

「いえ、ですからあっちに進んでもらえません?」

「寮じゃないのですか? と言うより、僕が前を歩くのですか?」

「はい」


当たり前のように言う先生。

まあ良いか。

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