王都までの道中 3

「お、お前ら!魔獣が来るというのに俺から離れるんじゃない!!」


ミッシェル君が大声で怒鳴り出してしまった。


「バカ、ミッシェル!」


カーリーがミッシェルを睨みつけた。


「ひぃいいい!!」


その迫力に、ミッシェル君の顔が蒼白に変わっていく。

カーリーは怒らすと本当に怖いんだぞ?


しかし先にミッシェル君に釘指しとくんだった。

それを聞いた乗客が一斉に騒ぎ出し、馬車は急停車してしまった。それが合図になり、止まった馬車から乗客が我先にと逃げだそうと、馬車内は騒然となってしまう。


「馬鹿やろう!! 今、馬車から降りた奴は、護衛対象から外れてしまうぞ!!」


ジュードの馬鹿みたいな大声で怒鳴り付けられ、一瞬で馬車内に静寂が戻った。

凄い! こういうのは場数が物を言うんだろうな。

僕では咄嗟にこんな芸当できない。


「この俺と、そこの女はクラスBの冒険者だ! 御者台にも別に二人の冒険者が護衛についている。この街道に出る魔獣程度では、なんの問題もない! 大人しくこの馬車の中で待っているんだ。いいな!」


ジュードの言葉というより威圧で強制的に頷かされる乗客達。みんなが椅子に腰掛け体制を低くしたことを確認すると、ジュード、ラモナ、カーリー、僕とエルが馬車から降り、先に御者台から降りていた二人の冒険者と合流する。


「おい! ちょっとなんだこのガキ共は! 今から魔獣相手にしようって時にこんなのが、のこのこ出て来てもらってちゃあ、邪魔になるだけだぞ!」


二人の冒険者の言う事はもっともなんでどう説明しようか迷っていると、ジュードが助け舟を出してくれた。


「この二人は特別だ。たぶん」


ジュード、説得力ないよ?


「この女の子はあの、深紅の鬼姫こと、ジェナ・マリガンの娘さんよ! 当然、冒険者として鍛えられているはずよ!」


ジュードに代わってラモナさんが熱く語る。

そんな事話してないよ?

 

それにしても、何だかものすごい二つ名が付いてますよ、カーリーのお母さんは。

カーリーは、顔を真っ赤にして無茶苦茶恥ずかしそうにだ。

判る気がするけどね。


「それにこの男の子は、この魔獣を察知した優秀な魔導士だ! 俺が保証する!」

「はあ? そんな子供の言う事を信じたのかあんた達は? 馬鹿じゃねぇのか? そんなの嘘にき・・・・」


ウォオーンー!!


そんな言い争いをしてると後方から獣の遠ぼえが聞こえてきた。

一瞬にして固まる二人の冒険者。

僕たちは馬車を背に遠ぼえのした後方に注視する。

この街道の周りは、ほとんどが平原で所々丘のような起伏はあるものの、林も何もない見晴らしいい場所だ。

はっきり言って隠れる場所が無い。

対抗策は、前方で隠れている集団は馬車が止まったせいでまだ距離があり、さっきの遠ぼえが合図でこちらに向かうとしても、もう少しばかり時間が必要なはずなのだ。

その間に後方の集団から先に手を打てば数的に有利な状況が作り出せれる。

そう判断したのだが、その魔獣の姿を確認してそれが甘かった事を痛感させられた。


「お、おい、ありゃあ、白狼じゃねぇか?!」


一人の男性冒険者がつぶやいた。

それは紛れもなく白い毛で覆われた、狼の姿だった。その体長は3mくらいもあり、その大きさからくる威圧感は半端なものじゃなかった。


白狼は、魔獣のクラスでいえばCクラス。ただし、単体での話で3体以上の集団を形成した白狼はBクラスに相当すると言われている。


「それに、5体もいるじゃねぇか! お、俺は降りるぞ! たかだかクラスCの俺達がなんとかなる魔獣じゃあねぇ!!」


「お、俺もだ! いくらマリガンの子供だからといって、まだ7、8才だろ? 無理に決まっているじゃねぇか!」


二人の男はゆっくりと後ずさる。


「違約金だろうが何だろうが関係ねえ! 俺達は逃げ出す! お前らも乗客見捨ててとっとと逃げれば助かるかもしれんぞ!」


「あ! ちょ、ちょっと待つんだ!」


ジュードの制止を無視し二人は馬車から離れて行った。


「くそ! 今ここから離れたら奴らの思うつぼなのが分からねぇのか?!」

「ジュード、どうするの?!」


ラモナさんが声を荒げジュードの指示をあおごうとする。


「5体同時に来られると、さすがにきついな。どうすれば・・」


『タクミ様、私でしたら魔獣ごときの2体くらいは足止め出来ますが?』

『え? でも神様は人間に直接的な力は行使できないんじゃなかった?』

『あくまでも私はタクミ様の眷属としてこの地におりますのでその辺は曖昧で大丈夫ですよ』


大丈夫なのか? まあいい、エルカシアが良いと言っているんだ、ここは甘えよう。


「ジュード、この白狐エルカシアって言うんだけど、はっきり言って土地神に近い存在なんだ。なので、あの白狼の2体くらいなら足止めは出来るって言ってる。残りの3体のうち1体を僕とカーリーでなんとかするから、2体をジュード達に任せたいんだけどいいかな?」


「いいもなにも大丈夫なのか? さっきは、ああ言ったが奴らを引き止める為のもので、お前らを当てにしてた訳じゃないんだぞ?」


この状況でも僕達を心配してくれるジュード。良い男だね。


「大丈夫とは、はっきり言えないけどね。でも、ここで何もしなくても喰われてしまう可能性が高いんだから、少しでも生存率が上がる方法を実行した方が利口だよ!」


ジュードは少し悩んだようだが、最終的には僕たちの案に乗ってくれた。


「あ、それと土地神の件は内緒でお願い」


口に人差し指を立てながら、お願いすると無言で頷いてくれた。


「カーリー、大丈夫?」


僕はあとカーリーの様子が少し心配だったので声をかけたけど、思ったより冷静な表情だった。

とは言っても8才の女の子だし、実戦は始めてなはず。案の定、握り締めた拳が少し震えていた。


「カーリー、僕がずっと一緒にいるから二人で頑張ろう!」


そう言いながらカーリーの手を強く握り締めてあげる。

すると、カーリーのもう片方の手が重ねられ、強く握り返された。その拳をカーリーは自分の額に当て、目を閉じると少しの間じっとして動かなくなった。

しかしそれも一瞬ですぐに目を開き僕をじっと見詰めてきた。


「ん! もう大丈夫! ありがとうタクミ君、母さんに教わった事、ここでちゃんと出して見せる。」


静かにだけど、力強く宣言するカーリー。よし、これならいけるかな?


「それで作戦なんだけど、提案して良いかな?」

「何かあるのか?」


ジュードが普通に聞いてくる。本当なら、僕みたいな小僧がしゃしゃり出るなんてあり得ないんだろうけど、改めてジュードって凄いと感心する。


「それじゃ、聞くだけ聞いてもらえる?」


皆が一斉に頷いてくれた。そして僕が手短に話す間にも、白狼達が迫って来ていた。

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