王都までの道中 1

魔法大学への入学を告げられてから6ヶ月が経った。

今、僕たちは王都へ向かう定期路線馬車に乗っている。

トネ村はシェルデフィルリア王国の中でも大きな方の村で、特に最近、農業改革によって農産物の収穫量が上がり、王都からも注目されるようになっていた。

その為、物資の輸送も頻繁になり人口も増えたことから、王都への直通定期路線馬車が運航されるようになった。

王都まで丸2日程かかる予定だ。

馬車は12人乗りでその他にも荷物を置くスペースもいるので結構座るのに余裕は無かった。前世の記憶にある、西部劇なんかでよく出てくる幌馬車では無く、駅馬車の様に屋根までしっかりと木材で作られていて、大きな荷物なんかは屋根の上に括りつけているタイプの馬車だ。

乗客は進行方向に向かって左右に向かい合うように座り、カーリーと僕は右側の最後尾の席に二人並んで座っている。

カーリーを最後尾に僕がその隣に座っているのだけど、狭い上に今回は大柄な人ばかりで、結構、窮屈な感じでみんなが座っていた。


「タクミ君、大丈夫? 席変わろうか?」


相変わらずカーリーは優しいな。でもここは男として隣の大男からの圧迫を防がないといけない。


「いいよ、別にこれぐらい大丈夫。それよりカーリーの方こそ大丈夫?」

「私は大丈夫! それよりもっとこっちに来て良いんだよ?」


と、言いながらカーリーが僕の腕を取り、自分の方へ寄せようと引っ張ってくる。

このところカーリーは結構、積極的になっている気がする。

気のせいかもしれないけど。


『気のせいなんかじゃ無いですよ。分かってて、分からない振りしないで下さい』


僕の膝の上で丸まって寝ていたはずのエルが頭の中に話しかけてきた。白い狐のエルカシア、実は土地神様で僕の眷属だったりする。神様を支配下になんて皆には内緒です。


『そうは言っても、僕は奥さんを探してまた一緒に暮らせたらと思っているのに、カーリーに思わせぶりな事は出来ないよ』

『別に良いじゃないですか。この世界、一夫多妻は普通なのですし、強い男の遺伝子に群がる女はごく自然な事だと思いますよ?』


それじゃ獣と一緒じゃないかと思うんだけど、この世界、人間といえども弱肉強食なんだよね。


『でも元日本人としてはね~』

『そうしたらですね、カーリーが他の男になびいてその男が変態だったらどうします?』

『え? うーん・・・・あ、なんか腹が立ってきた』


「どうしたの? タクミ君。さっきから黙り込んでしまって、調子悪い?」


カーリーが僕の顔を覗き込んで心配そうにしている。僕はとっさにカーリーの肩を両手で掴んでいた。


「カーリー、変な男には絶対着いて行ったら駄目だそ!」

「は? 何それ?」

「あ、いや、何でもない。気にしないでくれ」


不思議そうな顔をするカーリーだったけど、視線を向かい合わせ座る男の子に向けると深い溜息をはいた。


「それよりも、今、変な男が目の前にいるのよ。そっちの方の解決が先じゃないかと思うんだけど?」


カーリーのちょっと冷たい視線に堪えながら、その向かいに座る男の子を・・・見たくない。


「何だ? 僕が何だって?」


見たくは、ないが仕方がない。

トネ村から一緒にこの路線馬車に乗り込んだミッシェル君だ。

ミッシェル君の両側には冒険者風の防具とかを装着した大きめの男が一人と、やけに軽装な出で立ちの女性冒険者の二人がミッシェル君を挟んで座っていた。

村長がミッシェル君の王都まで行くまで頼んだ護衛のようだ。


「いや、本当に付いて来たんだなと思って」

「当たり前だ! 僕の真の力を確認しなければ世の中の損失になるからな!」


いったい何処からその自信は生まれるのだろう?


『タクミ様、あまりこの男とは関わりにならない方がよろしいかと』


それはエルに言われなくてもそうしたいのだけど、勝手に付いてくるんだからしょうがないじゃないか。カーリーも半ば呆れてるし。


この時、エルカシアの言葉はもっと違う意味だったのだが、今の段階で、それに気付く事はなかった。


「おい、そこの坊主と嬢ちゃん、歳は幾つだ?」


突然、ミッシェル君の隣に座る厳つい大男が話しかけてきた。

濃いめの茶髪に色黒の肌、筋骨隆々という言葉はこの男の為にあるような体型をしている。その男の脇には2m近くあるだろうか、大振りの大剣が立てかけてある。武闘系の冒険者の様だ。


「ジュード! 無愛想なあんたがいきなり話しかけたって怖がるだけよ。ゴメンね、僕達」


そうフォローを入れてきたのは、20才前後の女性で肩くらいまでの、くせ毛のある赤髪と赤い瞳が特徴的でなかなかの美人さんだ。ただ、申し訳程度の防具に短パンへそ出しでなまじスタイルが良いから、ちょっと目のやり場に困る。


「い、いえ別に構いませんよ。僕たち二人とも8才になりました」

「それくらいの歳で王都に向かうって事はお前ら魔法大学に入学する学生か?」


この大柄のおじさん、結構リアクションが大きいから狭い馬車の中では、みんなから疎まれそうだ。


「そうですよ。僕たちは初等部に今月からお世話になるんです」

「そうか、そうか。良い魔導士になるんだぞ。中には、自分の力に驕って人を見下すような奴もいるからな。お前達はそんなふうになるなよ」


おじさんの言葉だと結構そういう人が多いのかもしれないな。気をつけておこう。


「はい、ありがとうございます。おじさん」

「ぷっ! アハハ!!」


突然女性が吹き出して大笑いし始めた。


「やっぱりジュードは老けて見えるわよね? 一応これでも23才だからね」


え? 23? どう見ても30代にしか見えないぞ。僕の父さんより全然若いのか?


「ち、うるせーぞ、ラモナ。お前もその派手な服装に坊主が困っているじゃねえか?」

「あら! そうお?」


微笑みながら僕の方を見詰めてくるラモナさん。それに反応してかカーリーが僕の腕にしがみついて、ラモナさんを威嚇し始めていた。


「あら、ごめんなさい。お嬢さんの彼氏には手だししないから安心してね」


そう言われてもまだ、うーとか言って威嚇しつづけるカーリーに微笑みで返すラモナさん。さすがに大人って感じだな。


「しかし坊主はやたらと丁寧な言葉を話すな。なんか俺より年上と話しているみたいだぞ」


ハハハと笑って誤魔化す。


「僕はタクミ、彼女はカーリーと言います。そこに座っているミッシェル君とは幼なじみなんです」

「そうか、トネ村から3人も魔法大学への入学者が出るなんてたいしたもんだな」

「違います! そこのミッシェルは勝手に付いて来ただけよ」


カーリーがキッ! と睨みつけると、反射的にビクッとするミッシェル君。

ミッシェル君がここに居ること、カーリーは嫌でしょうがない様だ。


「は、は、まぁその辺の事は聞かないようにしよう。一応このミッシェルを王都まで連れていくのが仕事だからな」


うん、悪い人じゃなさそうだ。

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