第83話家臣6
立ち合った時には思い切りのいい性格だと思ったのだが、重太郎は我の提案になかなか決断できないでいた。
自分の事なら決断出来ても、家族の事には優柔不断になってしまうようだ。
武芸者としては決定的な弱点になりかねないが、まだ十代の半ばでは仕方がないの事かもしれぬ。
だがここで、重太郎の母親おゆきが決断し、重太郎の尻を叩いた。
自分も空腹だろうに、先に子供達だけに食事をとらせて、我と重太郎の話し合いの場に入ってきて、下女であろうと女中であろうと喜んで働くと言ってくれた。
これが重太郎の迷いを断ち切り、我の内弟子になる決断をさせてくれた。
「殿様、藤七郎の殿様。
それは少々危険でございます。
殿様に家臣になりたい者は、殿様が思っているよりも多いのです。
周りの状況を無視して家臣に加えたら、陰で虐められてしまいます」
我の家臣になりたい者は、我が思っているよりも多いようで、伊之助が重太郎のためにならないと止めに入ったのだ。
我には人情の機微に疎い所があり、それをよく伊之助に指摘される。
本来なら若党にすべきなのだが、腕は兎も角、歳が若過ぎた。
我の当初の気持ちは重太郎を召し抱える事だったが、今回は伊之助の助言に従い執着せずに諦め、重太郎は内弟子とした。
我が家の軍役は、我以外に徒士侍一人と中間三人である。
若党は軍役よりも二人多い三人いるが、中間は一人少ない二人しかいない。
だが何も馬鹿正直に、若党と中間の数を軍役通りにする必要はない。
軍役はあくまでの最低限動員しなければいけない兵数である。
数が少なければ咎められるが、数さえあっていれば、中間を徒士侍にしても問題にはならない。
「それで、おゆきさん。
重太郎は大望ある身だと言われましたが、能美家には敵がいるのですか。
敵討ちの為に江戸に出て来られたのですか」
「はい、私の良人、能美作太郎は八戸藩の徒士でしたが、正月の宴席で同僚と鮫島全次郎と争いになり、その場は他の者の止められ和解したものの、卑怯にも帰り道で闇討ちしたのでございます」
「二百石旗本の軍役」
本人 :騎乗の武士
若党 :徒士の侍
甲冑持 :主人の甲冑を運ぶ中間
槍持 :主人に槍を持つ中間
馬の口取り:主人の馬の手綱を持つ中間
計五人
「藤七郎立見家」
立見藤七郎宗丹:当主
立見銀次郎隆行:若党・表小姓・白河松平家武芸指南代稽古・三両三人扶持
おはな :腰元・銀次郎の妻・三人の子持ち・二両一人扶持
おでん :七歳
おふみ :五歳
孫太郎 :二歳
立見虎次郎直正:若党・表小姓・古河土井家武芸指南代稽古・三両一人扶持
坂田力太郎熊吉:若党・表小姓・三両一人扶持
伊之助 :中間・二両
浅吉 :中間・二両
おいよ :下女・浅吉の妻・六人の子持ち・二両
おりき :十三歳
亥太郎 :十一歳
鹿次郎 :九歳
おみつ :六歳
卯三郎 :五歳
おかく :三歳
能美重太郎影季:十五歳内弟子
おゆき :三十三歳・女中・二両
おせき :十三歳
おゑい :十一歳
景次郎 :八歳
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