第36話仇討ち8

「先生、食事の用意ができました」


「うむ、給仕はよいから一緒に食べるように」


「そうはいきません。

 弟子が先生と一緒に食べるなど許されません。

 給仕させていただきます」


 るい殿が頑として一緒に食事を食べようとしない。

 これでは玄太郎殿も食事ができない。

 まだ幼い玄太郎殿に我慢させて、我だけ先に食事をしても美味しくない。

 玄太郎殿だけでも一緒に食べるように言うのだが、るい殿に厳しく言い聞かされているのだろう、玄太郎殿も遠慮してしまう。


 仕方がないから、るい殿が炊いてくれたご飯を一人で食べる。

 感心な事に、るい殿は女ひと通りの事はできるようで、料理も得意だった。

 ご飯も我の好みの少し硬めに炊いてくれるようになった。

 少しでも美味しいご飯が食べたくて、田沼家の中間に仙台米を買ってきてもらったが、問題は惣菜だった。


 田沼家の長屋で、勝手に獲ってきた魚を泥抜きさせるわけにはいかない。

 だが有難い事に、直ぐに伊之助が田沼屋敷に訪ねてきてくれた。

 臨時に伊之助を中間にしたてあげて、買い物を頼むことにした。

 常備菜として、大根の長漬け、瓜と茄子の糠漬け、梅干しを買ってきてもらった。

 

 後は田沼屋敷の門番に話をつけて、魚を商う振り売りが来たら、我の長屋にも来てもらう事になった。

 門番も幾ばくかの賄賂をもらっているのだろう。

 裏長屋の来ていた時よりも少々高めだが、これで野菜や惣菜を買えるようになったが、何時までもるい殿に料理させておくわけにはいかない。

 何を置いても武芸の鍛錬に時間を使わなければいけないのだ。


 そこで我は用人の三浦六左衛門殿に頼んで、料理を作ってくれる藩士の妻女を探してもらった。

 大した手当は出せないが、我達が食べるのと同じ食事を食べてもらう事にした。

 本当は伊之助が料理を作れればいいのだが、そこまで都合よくは行かない。

 伊之助を作った料理など、とても食べられたものではないのだ。


 朝食に味噌汁と納豆に漬物

 昼食に味噌汁とたたみ鰯か鰯の味醂干に漬物

 晩飯に味噌汁と焼き魚に漬物


 そう約束すると、微禄藩士の妻女が喜んで食事の世話をしてくれるようになった。

 お陰で我は藤野姉弟の武芸指南に集中することができた。

 今さら付け焼刃で色々な型を教えても間に合わない。

 日暮源左衛門も助太刀も我が叩き伏せればいい。

 藤野姉弟が覚えるのは、相手の急所を突く一撃だけでいい。

 ひたすら突きの練習をさせた。


 

 


 

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