第24話姉妹遭難13
「おはよう」
「「「「「おはようございます、旦那」」」」」
夜が明ける前から、朝の支度をするおかみさん連中が起き出す。
我はその気配で眼が覚めるから、毎朝井戸端のおかみさんたちに挨拶をする。
どうしても槍と剣の鍛錬で表に出るから、挨拶なしではすまない。
表とはいっても、大通りまで出るわけではない。
町内の裏にある空き地で槍と剣を振るのだ。
おいよさんの朝の支度が終わるまで半刻少し、みっちりと汗をかく。
我が激しい鍛錬をする事は、裏長屋の者全員が知っている。
いや、表店の人間も全員知っているから、裏口から飛び出してくる事もない。
我が昨晩おいよさんに頼んでいたことを耳にしていたら、御裾分けを期待して時分時に出てくるかもしれないが。
「旦那、できましたよ」
おいよさんが朝ご飯の支度ができたと呼んでくれる。
自分の長屋に戻ると、ちゃっかりと伊之助も座っている。
「藤七郎の旦那、すみませんね。
また御裾分けしてもらいます」
「ああ、構わんぞ。
おいよさんに分けてもらってくれ」
裏長屋の連中は全員出てきて礼を言ってくる。
表店を借りている者でも、赤鱏が好きな連中が裏口からでてきている。
「藤七郎の旦那。
俺達もお願いします。
その代わりと言うのはおこがましいですが、これは焼酎です。
旦那は下戸だとお聞きしていますが、武芸者の旦那には必要かと思いまして」
「おお、それはすまんな。
焼酎を分けてもらえるのなら、これほどありがたい事はない、
今度焼酎を作る時は講に加えてくれ」
「えへへへへ。
藤七郎の旦那が焼酎講に加わってくださるのなら話がはえぇ。
今度は講仲間を増やすのも金を集めるのも簡単だ」
同じ町内の表店で古着屋をやっている右馬三郎が、うれしそうに笑っている。
酒好きで、特に強い酒が大好きで、飲み過ぎては女房にどやされている。
清酒や濁酒が好まれる江戸で、焼酎好きを集めては、造り酒屋や江州蔵に焼酎造りを依頼していた。
我も武芸者だから、刀傷には焼酎をかけて毒消をする。
膏薬も用意しているが、やはり焼酎に勝る物はない。
「旦那、せっかくのおまんまが冷めちまいますよ。
焼酎の話はまたにして、せっかく作った赤鱏の昆布〆を食べてくださいな」
「おお、すまん、すまん」
我はおいよさんに謝って、用意してくれた箱膳の前に座った。
伊之助が御馳走を前に待たされて、情けなさそうに顔をしているのが面白い。
「いただきます」
我の言葉を待ちかねたように、伊之助が昆布〆飯ご飯にがっつく。
我も熱々炊き立てのご飯に昆布〆を乗せて喰う。
あまりの美味さに恍惚となる。
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