肝試し探検団 1
領地開発については、サラジエートの都市化構想のこともあり、ユーリと話し合うことも多くなった。
サラジエート領は、この近隣の領地としては狭い方である。
エリストラーダの北西部、外海に臨む港領と、その西部、隣国との堺の辺境伯領。
この2つと内陸側で接しているのがアトラントで、その南から少し南東にかけて接するのがサラジエートである。
サラジエートから更に南東方向にいくつかの領地を隔てて王都がある。王都の近隣は、どこもそれなりに交通経路が発達してある。
隣国の中枢部は海側にあるから、街道整備がなされれば、王都からサラジエート、アトラント、辺境伯領を経て隣国の王都まで、という経路は悪くないと思う。ただし、この場合は辺境伯領も巻き込む必要があるだろう。
アトラントの北に位置する港町は、今は輸入品の搬送経路を東側に置いているが、王都までは数か所の迂回を余儀なくされるため、こちらもあわよくば引き込めるかもしれない。
ユーリはサラジエートの交通要所としての活性化を目指せればと考えているらしい。
サラジエートの開発計画を具体的にするために、俺はユーリに頼まれてサラジエート領内の精密地図作りをしていた。
よその領地内を探るのは少し気が引けたのだが、これから完成図を共有しなければならないのだからと力説された。
家の鬼畜使用人たちとは違い、ユーリは鬼ノルマなんて課せなかったし、測量の魔法のおかげでかなり効率化できたので、俺は楽しみながら地図作りをしていた。
そんなときに、俺は見つけてしまった。
今は誰も住んでいない山の麓に、人を阻むように茂った森に埋もれて、崩れかけた城があるのを。
蔦が這い、苔むした古城。
人が訪れるのはだいぶ困難な地理の、更に歩いて出入りするのも難しい所にある、吸血鬼や魔女が住んでいそうな、The・古城である。
ユーリに尋ねるが、かなり立派な規模な城なのにサラジエートの歴史書に出てこないらしい。
誰も知らない、忘れられた古城。集まっていた友人たちが思ったのはもちろん一つ。行ってみたいに決まってる!
肝試しか探検か。さっそく次に集まる予定だった日は、古城の探索に行くことになった。
探検の日は、お茶会名義で皆が俺の部屋へ集合した。
ユーリは侍女を一人伴っていたが、ついてくるのと引き換えに他言しない約束をしたらしい。
ユーリと侍女、ハル、マグナ、ソルア、クロノ…は勝手についてくるとして、俺を入れて6人もの
点ではなく面で飛ばすだけっていう感じだったから、一人一人個別に転移するよりも魔力消費も少そうだ。
たどり着いたのは、古城の入り口である。
ずいぶんと手前に崩れ落ちた城門跡があったが、ほとんど草に埋まっていて見えなかった。
生い茂る草を掻き分けるように立って、目の前の壁を見上げると、まるで崖に蔦が這っているような景観。
大きすぎて全体像を把握できないのだ。凹凸の少ないその壁は、よく目を凝らすと積み重ねられた石壁であり、ぐるりと周囲を巡れば、建物の形をしているのがようやくわかるだろう。
入口は、
一見蔦が垂れ下がっただけの緑のカーテンを退けると、真っ黒な空間が奥にある。
息を飲んで中に入ると、広くて、暗い。
静けさの中に湿ったような冷たい空気が満ちる。
崩れた石が転がっているのは、階段の跡だろうか。
暗闇に目を凝らしていると、ふっといくつかの光の玉が浮き上がった。
「暗くてせっかくの建物がよく見えませんからね」
マグナが魔法で光の玉を作り出し、周囲を照らしたようだ。
顔の陰影がくっきりと刻まれた嬉しそうな嗜虐的笑顔はホラーだ。こいつが犯人に違いない顔だ。
ってかさ。
びっくりしたわ!!心臓3秒くらい止まったわ!!!
暗い廃墟の中で浮かび上がる丸い光なんか、日本の怪談の定番、ヒトダマを再現しちゃってるんだからな。どうせ照らすならLEDか太陽光にしといてくれよ。
心拍数を跳ね上がらせた俺とは対照に、ユーリとハルは探検に目を輝かせて、マグナは建物や遺物への興味に鼻息荒く、ソルアは金の卵を産むニワトリを探しているようで、意気揚々と崩れた建物の中を猛進していく。
いや、もっとためらおうよ。明らかにホラーハウスだよ?
皆との探検にご満悦そうなクロノがふいに立ち止まり、うっすらと模様がついた壁紙が残っていた壁を見つめ、誰かと会話するかのように視線を動かし頷いた。
「ここはアトワ王国の時代の遺跡だね。王国末期の、他国の侵攻にそなえた隠れ根城だったみたい」
遠くを見るような視線で呟く。
知ってる、今過去を見てきたんだよな。幽霊と会話してたわけじゃないんだよな。でもビビるわヤメロください。
っていうか、ビビってるの俺だけじゃね?
てかさ、探検というより肝試しだよなこれ。
「アトワ王国ですか。エリストラーダができる二つ前の国であったと言われておりますね。
そのような遺跡がこのような形で残っていたならば、実に、たいへん興味深い。
ですが、壁に少し残っている紋様は、確かにアトワの子孫を名乗る部族の織る伝統紋様によく似ているように思います」
マグナが魔法の光量を増すと、光輝く部分だけが暗闇に浮かび上がり、床や天井の暗がりはまるで見えない、ホラー映画の視界のような光景になった。
隣に神様もいるっていうのに、ホラー感はんぱない。影から出てきたゾンビに食われそうだ。
「アトワは戦争で滅んだ国だからね、残された血筋は少ないけれども、よく文化を受け継げたものだ」
夢中なマグナとクロノの会話で、そしてまた嫌な知識が加わった。
戦争で亡ぼされた国の、最後の砦だったって言ったな今!
少しおろおろとした侍女を連れて、ユーリが静かに後ろから俺の肩を叩く。
少し身を跳ねさせてから振り向くと、ユーリの笑顔にドンマイと書いてあった。
俺、ホラーが苦手な訳じゃないからな?苦手じゃなくても普通にビビるからな、こんなの。
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