第五百六十五話 ラースとアポス
「ラース様、こっちにもお願いします!」
「オッケー」
「これはこっちでいいかしら?」
「はい、マキナ様にお手伝い頂けて光栄です!」
「クーデリカ様、大きな岩を動かしたいんですが……」
「いいよー!」
イルファンとの交渉から早三日。
早ければ後二日でここへ戻ってくる手はずだけど、言い出しっぺの俺含めてこちら側の人間が誰一人として交渉の場についていないことが懸念材料だ。
さて、そんな彼らを待つ日々だが、砦でしっかり働いているのと先日の戦闘を見ていた人が居たからか、俺達は物凄く重宝されていた。
先ほどのように『様』をつけられたり、頼みごとは敬礼をして申し訳なさそうに頼んでくる。
クーデリカの【金剛力】は物凄く役に立つしね。
「作業は順調そうだな。ラース、ちょっとこっちへ来い」
「……分かりました」
<何かあったらすぐに呼ぶのだぞ>
で、肝心のアポスも先日の戦闘で気を良くしたのか俺達を自由にしてくれている。
それはいいのだが、俺にしつこく話しかけてくるのが鬱陶しい。
「ラースよ、他に魔法を見せてくれぬか?」
「……お断りします。見世物では無いので」
「ふん、良いではないか。お前なら、空いた十神者の席をくれてやってもいい」
「いえ、その椅子には興味がありませんので……」
と、こんな調子で俺を勧誘してくるようになった。
ドラゴニックブレイズが使えるようになったのがよほど嬉しかったようだが、これ以上強化する訳にもいかない。
とりあえずマキナ達から興味が逸れたのはありがたい。
俺は作業中に話しかけられたので、このまま会話を続けることに。
「そういえば、キムラヌート様は十神者ですよね? 他の方たちはどこに?」
「ああ、不甲斐ないことだが三人は倒されたそうだな? バチカルとエーイーリーは知っているから省くが、残りはベリアースや他の地域に出ている」
「そうですか。……しかし、そのお歳になるまでレフレクシオンに復讐を考えるのは凄いと思いました。若い間に色々とやろうとは思わなかったのですか?」
なるほど、悪魔は向こうか……。
もうすぐ攻め込む手はずになっているみんなが危険だな。
だけど、ティグレ先生や一度戦っているリューゼ達なら勝てると思う。バチカルが裏切っていなければ、というところだけど、最悪ドラゴンで逃げる選択肢があるから何とかなるはず。
俺がそんなことを考えていると、アポスが不敵な笑いを浮かべて口を開く。
「まあ、今はこんな姿だがすぐに若返る予定だ。賢者の魂というものをお前は知っているか?」
「……! ええ、まあ……レッツェル殿に教えていただきましたから」
「そうか、なら話は早い。それを使えば願いが叶うらしくてな、それで私は若返りをするつもりだ」
ファスさんが若返ったことを知ったらこいつはどう反応するだろうか?
それでレッツェルは探していたのか……
「不死、などは考えていないのですか?」
「それはできないとレッツェルが言っていた。過ぎた力は身を亡ぼす、というやつだな。おっと、お前には分からない言葉だったか」
転生者と知っているからことわざを聞いても驚かないけど、ちんたらと計画をしていたのはその後ろ盾があったからか。
しかし、それがあったとしても、まだ見つかっていないものをアテにするのはどうかしている。
……前世の弟、賢二。
あいつも他力本願というか『こうなったらいいな』ということを思い描きながら、自分で動くことは無いヤツだった。
ゲームや食べ物が欲しければ俺をコンビニへ使いをやったり、ややもすれば両親すら使うような男だった。そして何故かそんな暴君とも言える賢二を可愛がっていた両親。
あの時はどうかしていたが、今となってはどうしてそうだったのか不思議でならない。
確かに天才と呼べるほど頭は良かったが、悪知恵の方が勝っているのでどちらかと言えば小物感が強い。
そして目の前のアポスも話を聞けば聞くほど小物っぽい。
そこで俺は何故か、危険だと思いつつもとあることを口にする――
「……アポス様は別世界から来た転生者と聞いています。前世ではどんな感じだったのですか?」
「……! ほう、知っているのか……? そうだな――」
◆ ◇ ◆
――ラース達が国境の砦へ出発した少し後
「なんとか城下町には来れたね。疲れてないかい二人とも」
「オラは大丈夫だよー! ラース君やリューゼ君を探さないとね」
「アタシも平気よ。デダイトさんはずっと御者をやっていたから休んだ方がいいんじゃないかしらあ?」
デダイト、ノーラ、ヘレナ、バスレーの四人もベリアース王国へと到着していた。
エバーライドより近いので、リューゼ達に比べるとやや早い入国となったのだ。
「とりあえず城には居るでしょう。どこかで情報収集をしたほうがいいかもしれませんね。ギルドに立ち寄ったりしてませんかねえ」
「福音の降臨として活動するならやらないと思います。バチカルさんやレッツェル辺りが居れば助かるんですけど、彼らも城の中にしかいないでしょうし……」
デダイトが思案していると、バスレーの顔に模様が浮かびあがり、別の声で話し始める。
『……ふむ、ちょうどいいのが近くに居ますね、イシシ……そっちを当たってみましょうや』
「ちょうどいいのー?」
ノーラが首を傾げ、レガーロに変わったバスレーの視線を追ったその先に、目つきの鋭い紫の髪を腰まで伸ばした女性が居た。
「あの人がなんなのぉ?」
『あれはアタシと同族ですね。……悪魔ですよ』
「ということは……」
「十神者、ですね」
デダイトの言葉に頷くレガーロ。
冷や汗を流すデダイト達とは裏腹に、彼女は不敵な笑みを浮かべていた。
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