第五百六十四話 追い詰めるまで、あと少し


 深夜に近い時間帯に差し掛かったころ、質疑応答を交えつつ俺はようやく現状をブラームス達に話すことができた。

 ブラームスも、その場に居た騎士二人も驚きを隠しきれないと言った顔で、その内一人は冷や汗をかいていたりする。一息ついたところで、ブラームスが何本目かになる煙草を地面に捨てながら口を開く。


 「……そこまで計画しているとはな。いや、正直驚きしかない、お前はまだ成人して間もないくらいだろう?」

 「まあ、そうですね。ただ、計画自体はレフレクシオンの国王様達とも話し合っているので俺だけってわけじゃないですよ。それで、どうです?」

 

 俺が答えを問うと、少し考えた後にブラームスが質問を投げかけてきた。


 「福音の降臨の教主アポス。あの敵味方関係なく蹂躙していたおっさんを倒せばなんとかなるんだな?」

 「ええ、ベリアース王国の王はさほど脅威とは言えないでしょう。ヤツ本人というより、側近が脅威なだけですから、今、この場で抑えるつもりです」

 「むちゃくちゃなことを考えるな、君達……。俺は嫌いじゃないが、隊長どうします?」


 とりあえず嘘は無いので、後はイルファンの方がどう考えてくれるかだ。

 メリットはあると思うが、どう出る?


 「師匠の旦那さんも気になるわね」

 「確かに」


 俺とマキナが固唾をのんで見守っていると、ブラームスが足をパシンと打って立ち上がる。


 「よし、俺はラースの話に乗った。アポスとやらを倒すだけで、三国が平和になる可能性があるならな。それに面白そうだ」

 「面白そうって隊長……。まあ、そう決めたなら我々はついていくだけですけど。なら一度戻って王に話をすべきでしょう」

 「そうだな。ラース、イルファンに来れるか?」

 「うーん、アポスの下を離れるのは厳しいかな。あいつは俺達を信用していない気がする」


 服従の刺青を入れていないってのもあるからそこは仕方がないんだけどね。

 だけど、ついてこれたらというくらいの感じだったようで、ブラームスは頷いてから腕を組む。

 

 「オッケーだ。とりあえず、俺達はこのまま引き上げて陛下へ進言する。で、もう一度ここへ戻ってくるのは早くても五日はかかるが、大丈夫か?」

 「ありがとう。その間は砦で従事するって感じになりそうだから」

 「戻ってきたのがわかるかしら?」


 マキナが顎に手をやって片目を瞑る。

 

 「ああ、それについてはこれを使ってもらえると」

 「こいつは?」

 「この筒の下にある紐を引っ張ると結構大きな花火が上がる。夜ならこの場所でも多分聞こえるはずだ」

 「色々と想定済みってわけか? ……面白い道具だな」

 「これはまた別で使う予定だったんだけど、それはそれってことで」

 「オッケーだ」

 「それラースの分?」


 ブラームスに簡易花火筒を渡す。

 マキナが俺の分と言ったのは、筒の本来の使い道は各人がピンチになった時これを飛ばして窮地を伝えるというもので、リューゼやルシエール達にも一個ずつもたせている。


 「それじゃそろそろ怪しまれる前に帰るよ」

 「分かった。またな」

 「あ、そうだ。えっと、格闘家のハインドさんなんですけど、私の師匠であるファスの旦那さんなんです。元気にしているとお伝え願えますか? この作戦に参加もしています」

 「お、マジか。そういやハインド殿も弟子を連れていたな。分かった伝えておく」


 もしかしたら協力を貰えるかもなと笑うブラームスに挨拶をして、再びレビテーションで砦へと帰還するのだった。


 ◆ ◇ ◆


 ――イルファン陣営――


 「良かったんですか隊長?」

 「ああ。責任は俺が取る、そのための隊長だろう? それにあいつの目は嘘をつくような感じはしなかったし、もし本気で戦闘になったらこっちもタダじゃすまないだろうぜ」

 「それほど、ですか?」

 「剣だけならまあまあ。それでも副団長になれるくらいの腕はありそうだ。後は魔法だな、レビテーションは古代魔法だぞ? あのアポスとかいうのが使っていた魔法も使えるんじゃないかと俺は睨んでいる」


 ブラームスがそういうと他二人がごくりと喉を鳴らす。

 ドラゴニックブレイズの威力は目にしたばかり。

 あれを使えて剣の腕もあるとなれば敵に回したいとは思わないだろう。


 「力づくで俺達を蹂躙しなかった。罠かもしれんが、あいつが俺達に罠をかけるメリットが無いしな。彼女か嫁か分からんが、女連れというのも俺達に誠意を見せるためのものだと思う」

 「でも、ファスの弟子なら彼女も相当強いんじゃないですかね」

 「ま、お似合いのカップルってことだな。ベリアースの伝説、ティグレも居るらしいし、ドラゴンも戦力らしいからな。恐ろしいやつらだぞあいつら」

 「はは、それだけで国が落とされますからね。今の内に始末するってのはどうです?」


 騎士が不敵な笑いを浮かべると、ブラームスが肩を竦めて言う。


 「フッ、敵対するより味方につけた方がどう考えても得だぞ? ……さて、忙しくなるぞ。テントを片付けて移動だ!」

 「「はっ!」」


 ◆ ◇ ◆


 「あれで良かったのかしら?」

 「まあ、どう転んでも悪い方向には行かないだろうから大丈夫だよ」


 エバーライドを家主が居ない間に乗っとるくらいは考えるだろうけど、そうなるとベリアース王国も黙ってはいない。混乱が始まればこちらも動きやすいのである。


 「……後はアポスをどこで倒すか、ね」

 「イルファン軍が帰って来たタイミングで倒す。不確定要素は残り三体の悪魔だ。キムラヌートは最低でも手を出さないでくれるだろうけど、アディシェス、カイツール、ツァーカブってやつらがいるはずなんだ」

 「同時に戦うのは勘弁したいわね、こっちも修行しているから負けはしないと思うけど」

 

 頼もしいマキナの言葉に苦笑する俺。

 影で連れているか、城にいるか分からないが警戒はすべきだろう。無感動、色欲、醜悪。直接戦闘に使えるスキルではないことを考えると裏方か?


 ともあれイルファン国の帰りを待つか。


 「ふあ……眠くなってきたわね……」

 「もっとくっついていいよ。そっちのがあったかいだろ」

 「……うん!」


 程なくして俺達は部屋に戻り、まだ起きていたクーデリカ達に出迎えられる。

 

 「おかえりー! こっちは特になにも無かったよ。アポスも部屋から出てきていないみたい」

 「エリュシュ王女も?」

 <ああ、昼間の件が堪えたのかもしれないな>

 

 かもしれないなと俺達は頷く。

 ベリアース王国、そろそろリューゼ達が到着するころか?

 手は出来る限り尽くしている。

 アポスを追い詰めるまで、あとほんの僅か。恐らく、イルファンの騎士達が帰って来たその時が最後の戦いになるだろう。

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