第五百六十三話 交渉へ
戦闘後、引き上げた俺達は食事までアポスに会うことは無く、食事中もドラゴニックブレイズで敵陣を潰したのがよほど嬉しかったのか、その話ばかりだった。
まあ、警戒していないというのであればそれでいいかと黙って終わらせる。
この後、夜の集会へ行かないといけないしな。
気になったのはエリュシュ王女の目がアポスをずっと捉えていたこと。マキナとクーデリカと仲が良くなったようだけど、歓迎は難しいところだ。
むしろ戻ったら険悪になること請け合いだろうしね。
とりあえずエリュシュ王女には戦闘後という理由を告げ、早めに休ませてもらう形をとった。
寝静まったと思われる22時ほどの時間に、俺はあけっぱなしになっている部屋の窓に手をかける。
「……イルファン王国との会談に行ってくるよ」
<一人でいいか?>
「うん。サージュはマキナ達を守っててくれ。俺には古代魔法もあるし、心配ないよ」
「……」
俺がそう言うと、マキナが近づいてきて手を取った。
いつもみたいに『気を付けて』と言ってくれると思ったんだけど――
「私も行くわ。ラースは間違いなく強いし、安心だけど任せっきりはやっぱり嫌だわ。逆に言えばラースは強すぎる。一人で行くと警戒されやすいんじゃないかしら」
「うーん……」
俺が難色を示していると、ロザが口を開く。
<いいのではないか? 夫婦で訪問することは相手を信用させる>
「そう、かな?」
<自分にとって大事な人を連れて行くというのは十分にリスクを負っているだろう? そちらの方が向こうも話しやすいはずだ>
「そうよラース、草原の戦いで力はある程度見せたし、一人よりはいいと思うわ」
なるほど、戦略的に警戒を解くにはアリってことか。
「なら、わたしも行くよ!」
<そこは一人でいいだろう。ここに残る者も必要だ>
「えー……」
クーデリカが残念そうに項垂れるが、レビテーションで抱えて飛ぶのも限界がある。隠密行動なら一人が最適だ。
サージュとロザは大きすぎて草原だと目立つから、そこは選択から排除した。
「よし、ならマキナよろしく頼む」
「うん!」
前から抱き上げ、レビテーションで浮く。
マキナの力も強いのでしっかり掴まっているけど、俺も念のためストレングスで強化しておこう。
「じゃ、行ってくる。クーデリカを守ってくれ」
<任せておけ>
「頑張って二人とも!」
窓の外で浮いてから部屋に振り返ると、サージュが手を上げ、クーデリカが両手を握り鼓舞してくれる。
俺も片手を上げて応え、そのまま真っすぐ草原の中央を目指す。
◆ ◇ ◆
――砦 アポスの部屋――
「く、くくく……いい魔法を手に入れた。
アポスはワインの入ったグラスを片手に、今日の戦果についてほくそ笑む。
剣術・魔法・知識。
並み以上の力を発揮することができるはずだが、自身ではそこまでスキルの恩恵を受けていると感じたことは無かった。
レフレクシオンの王位継承で絶対自分が選ばれると信じていたが、アルバートが選ばれたことで劣等感を抱くようになり、自らの方が上であることを知らしめるため福音の降臨を作った。
しかし思いのほか領地獲得が上手く行かず、歳だけを経てしまい考えあぐねていた。
結局、力でねじ伏せることに決め、イルファン王国を欲していたが、ドラゴニックブレイズを習得したことで案を変更しようと企んでいた。
「ラースにはもう少し色々と魔法を見せてもらうか。今後の戦闘にはあいつを立たせよう。さて、こうなると早く若返りたい。レッツェルの言う賢者の魂、次はそちらを探す必要がありそうだな。帰ってから聞いて……ん?」
今後のことに頭を巡らすアポスは窓の外でうごめく影を見つけた。ちょうど、草原に出発したラースとマキナである。
「……ふん、ガキが色気づいて夜の散歩か? まあ、あれだけの人数が居ればセックスの一つもできんだろうしな。あいつは利用価値がある、今日くらい好きにさせてやるよ」
気分がいいとばかりにグラスをあおり酒を一気に飲み干した後、アポスは目を細めてラース達が消えた方角を見ながらぽつりと呟く。
「しかし、あのラースというガキ、見ていると何故かイライラする。まるであいつのように……まさか? いや、そんなはずはないな。もし居たとしてもあんな魔法を使えたりはしないだろう」
グラスを置いたアポスはベッドへ寝転がる。
いつかの時を思い出すように。
「クソ……嫌なことを思い出しちまった。あいつが死んでからツキが落ちたのが気に入らねぇ。おかげで一家丸ごと死んだしな。死ぬのは勝手だが、迷惑をかけやがって……最後までつかえねえ。まあ、この世界はまあまあ面白いし、それはそれ……か……」
頭痛は消えたが、不快感は消えないとアポスはそのまま眠りに落ちた――
◆ ◇ ◆
「あそこだ。ちゃんと待っていてくれたか」
「岩陰を盾にしてキャンプをしているのね」
いい場所だと思いながら近くに着地する俺達。
「こんばんは、ラースです。ブラームスさんはいらっしゃいますか?」
俺が外から声をかけると、隊長のブラームスが姿を現した。
半信半疑だったのか驚いた顔を俺に向けて口を開く。
「本当に来たんだな。そっちの嬢ちゃんも見覚えがある、かなり強い格闘家だったな」
「そう言っていただけるとは光栄です」
「ああ、今イルファン王国に伝説と言われた格闘家のハインドが弟子を連れているから、手合わせを見たいものだ」
「「え!?」」
俺とマキナはその名を聞いてびっくりする。
確か……ファスさんの旦那さんじゃなかったっけ? イルファン王国にいるんだ……
「それにしても女連れとはどういうつもりだ?」
「彼女は俺の伴侶になる人なんだ。一応、誠意のつもりさ」
俺の言葉にブラームスは一瞬、俺とマキナの顔を見比べてからテントに入っていく。
「入れ、話を聞いてやる」
「助かるよ」
「ありがとうございます」
俺達がテントに入ると、中にはブラームス以外に二人の騎士が座っていた。
椅子を用意してくれ、それに座るとブラームスが煙草に火をつけながら顔を向ける。
「さて、それじゃ昼間の続きを聞かせてもらおうか? 場合によっちゃ協力してやってもいい」
「ああ、是非頼みたいところだ。ベリアース王国を打倒すれば少なくともレフレクシオンとエバーライド、それとイルファンは平穏が訪れる」
「そう上手く行くかね?」
「そのための布石は打ってあります。そのあたりから話しましょうか」
さて、プレゼンの時間だ。
協力が無くても構わないけど、できるなら戦力が欲しい。奮闘しますかね!
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