第五百二十九話 魔物の園が……
「また来てくださいね……!!」
「いや、今生の別れみたいなのじゃないから」
ハンカチを噛んで涙ぐんだまま俺達を見送ってくれたバスレー先生はさておき、俺達は魔物の園を目指し歩いていた。
「久しぶりだよね」
「サンディオラからずっと本格的な戦いだったから仕方ないって。あたしもこんなになっちまうくらいだよ?」
「そうだね! おばあちゃんの姿も良かったけど、美人だからこっちも好き!」
「おっと、嬉しいことを言ってくれるじゃないか」
ファスさんが笑いながらセフィロを肩車をして、いきなりダッシュをしたのでマキナが慌てて声をかける。
「ちょっと師匠! いきなりどうしたんですか」
「あははは! 置いて行っちまうよ!」
「ゴーゴー!」
マキナの言葉には止まらずファスさんは通りを駆け抜けていく。まあ、目的地は同じだから構わないと思いながら俺は口を開く。
「ファスさんって子供にとても優しいよね。アイナにはもちろんだけど、ティリアちゃんやセフィロに接する時は物凄く優しいよ」
<ふむ、そういえばファスは子供が出来なかったと言っていたな。若返った影響で、ラースやマキナを子に見立てていた愛情がさらに下の年齢になるアイナ達へ向くようになったのではないか、という気がするな>
ロザが柔らかく微笑みながらそんなことを言うと、マキナが手を打って閃いたといった調子で返す。
「そういえば私達のこと子供ができたみたいって言ってたっけ。若返ったからと言われたらそうかも」
<やはり子は残したいものだからな>
「ロザもそうなのかい?」
<……そうだな、サージュとの子は欲しいぞ>
「?」
ロザがサージュのことを気に入っているのは知っているけど、少し困ったような表情が気になるな?
<ま、ドラゴンも子孫を残したいと思うのは同じじゃよ>
「ボーデンは子供いるの?」
<まあ、一応な。あの島は広い、火山の向こう側で修行をしておるはずじゃ。フリーズドラゴンとストームドラゴンはまだじゃがな>
<ジレだ、爺さん。私はダンジョンの奥に居るし、同族は人間の住めぬ遥か北の大地に居るのだ、無理というものだろう>
「へえ、全部のドラゴンがあの島に居るってサージュから聞いたけどフリーズドラゴンは違うんだ?」
サージュがロイヤルドラゴンから聞いた話だと確か人間とのいざこざが嫌であの島に移り住んだと言っていたのでちょっと驚いた。
<ジレ達フリーズドラゴンは飛べないラプトールドラゴンなどを運ぶ役目を担ってくれましたからね、その後は彼を残して帰ったんですよ。僕の眷属も島のどこかに居るはずですよ>
「ふうん、他のドラゴンとも会ってみたいわね」
<どうだろう、僕達でも十年に一回くらいしか会わないしねえ>
「はは、人間だったら数回会ったらもうお年寄りだよそれ」
ヴィンシュがカラカラと笑い、時間の感覚が違い過ぎると苦笑する俺とマキナはドラゴン達を率いてそのままファスさんの後を追い、程なくして魔物の園へと到着した。
<ほう、魔物の気配が強いな>
「テイマー施設だからね……って、分からないかな」
<魔物を自分の手下にするとかそういうのだろう? ワイバーンみたいに>
「うん、まあそうなんだけど……」
「お、やっと来たな」
言い方がちょっと……とは言え、間違ってもいないので複雑な心境のままファスさんの横を通ってタンジさんが居る受付へと行く。
「賑やかな声が聞こえるわね」
「だな、お客さんが入っているみたいで良かった。こんにちはー!」
元気よく挨拶してタンジさんの居る受付へ声をかけると――
「今日もアイアンコングを見に来たんだ! パパ、早く行こう!」
「ああ、いっぱい見て回ろうな」
「こっちも早く、テイマーの授業遅れているよ!」
「最初は弱い魔物で――」
「ああ、ちょっと待っててくれ……受付が……忙しい……ラースはなにを……」
――タンジさんは接客で大忙しで全然俺に気づいてくれなかった。マキナが『賑やか』だと言っていたけど、見れば魔物が居るところが見える窓に目をやると思った想定よりも人や家族が多かった。
「も、もしかしてこれ一人でタンジさんが?」
「人を雇ってないのか!? タンジさん!」
俺はちょうど受付を終えて家族を見送ったタンジさんに声をかけると、目を大きく見開いて大声を上げた。
「あー!! ラース! お前、いつ戻って来ていたんだよ! ガストの町、奪還できたのか!?」
「おかげさまでなんとかなったよ。それより結構人が入っているみたいだけどタンジさん以外に人は?」
「雇ってねえよ。まさかこんなに人が来るとは思ってなかったし、テイマーになりたい奴も出てきたんだ、雇う前に繁盛したから募集もかけられてねえ」
そういや、ここを改装直後にガストの町で事件が起きたのでこっちを気にしていなかったので任せっきりだったんだよな。
「早く先生ー!」
「あ、ああ、待っててくれ! すまんラース、受付ちょっとやってくれないか? 授業しないといけねえんだ」
「あ、うん。俺にも責任があるしもちろんいいよ」
「すまん!」
そう言って増設した部屋へと駆けこんでいくのを見ながら、タンジさんは俺に対しての恨み言を言わなかったなと思った。
正直、俺も手伝うと言ったのにまるで手伝わずこの惨状では糾弾されてもおかしくないのに、開口一番に出たのは『町は奪還できたのか』というものだ。
「……はあ、いい人過ぎて申し訳ない。ごめんみんな、ちょっと仕事をすることになった」
<ふむ、まあワシたちは構わんが……いいのか?>
「ちょっと、受付の人どこよ!」
「わわ!? すみません俺がやります! マキナ、後を頼むよ」
「あ、ラース!」
「お金は払っておくからみんなは魔物の園を見てきてよ」
「手が必要だったら呼んでね!」
俺が受付で頷くとマキナ達は魔物達が居る広場へと出て行った。
「……これ、大変だな……マキナには残って貰えば良かったかも……」
俺が若干根を上げ始めたころ、魔物の園に意外……でもない人物が尋ねてくる。
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