第四百八十七話 お久しぶりのギルドマスター
「今ので最後みたいだね。バスレー先生大丈夫?」
「ええウルカ君、わたしは余裕ですよ? 皆さんお疲れ様でした!!」
『つ、疲れたわ……私のおかげじゃない!?』
群がる魔物を全滅させると、ウルカとバスレー先生、それとリリスがじゃれ合う。レッツェルやイルミも出撃するくらい手が足りないような状況だったので、リリスが疲れたというのも無理はない。
するとワイバーンが屋根から顔をひょっこり出して俺に言う。
「オレ、ガンバッタ。アルジ、ナヲツケテクレ」
「はは、ありがとう。休憩中にいいの考えとくよ。……それにしても、禍々しい感じになったな」
「脱出する時はどうだったんですか?」
「ここまでどす黒くなかったし、禍々しい感じもしなかった。成長しているとでもいうのか?」
レッツェルの質問に答えつつも、俺は疑問も口にする。するとリリスが目を細め、ニタリと笑いながら御者台の上に立ち口を開いた。
『くくく……あの靄は悪魔の力そのもの……三人分の力が渦巻く町の中に入ることはできないわ。復活したが最後! アクゼリュス、いえ、残酷のアスモデウスには勝てない!』
「うるさいですよ」
『あー!?』
アクゼリュスの名前が出て、一瞬で不機嫌になったバスレー先生が座ったまま、黄金の槌でリリスの足を払い、御者台からその姿を消した。
「だ、大丈夫かな……?」
『悪魔は簡単には死なないみたいですし、問題ありませんよ。ラース君のしもべだから逃げられないですし』
「お、レガーロかい?」
『イシシシ、そのとおりでさぁ。さて、キャンプ地についたみたいですよ?』
久しぶりに表に出てきたレガーロが片手で手綱を持ち、前を指す。
そこはガストの町の門から1キロ程度離れた広場と森に挟まれた場所で、騎士や冒険者達がせわしなく動いているのが見えた。
「あ、ハウゼンさんだ。挨拶していこう」
「あの戦いの後、全然会えてなかったからね」
エバーライドの兵士達はほとんど説得して戦いが終わっているので、双方犠牲はいなかったけど多少なりともケガをする事態にはなっていた。
ま、そこはハウゼンさんで、ニーナから話を聞く限りまったく問題なかったそうだ。
「ハウゼンさん!」
「ん? おお、ラースじゃないか! それにウルカも! 久しぶりだな」
「お久しぶりです、ハウゼンさん。どうですかガストの町は?」
「なんにもない……と言いたいところだけど、魔物の数が多くなっている。最初は俺達が居なくなったからだと思ったが、違う」
ハウゼンさんは右手を顎に当て、左手は愛用の剣に添えてそんなことを言う。そこでバスレー先生が質問を投げた。
「違う、というのはどういうことですか? 冒険者が狩らなくなったからではないと」
「ああ、バスレー先生、お久しぶりです。そう、もしかしたらここに来る途中戦ったかもしれないが、この辺りには出ない魔物が出没するんだ。それがガストの町から出てきている」
「町から!?」
「ほう、あの靄の中で一体何が起こっているのか興味深いですね」
「だな、入ってみるか?」
「遠慮しておきましょう」
「腰を折るなって。それで?」
リースとレッツェルの漫才を窘め続きを促すと、ハウゼンさんは苦笑しながら頷いて言う。
「……本当はもっと町の近くにキャンプを作っていたんだ。だが、あまりにも魔物が出てくるから一時撤退し、この場所にした。魔物が町から出る頻度が減ったから、近づくと防衛のため魔物を吐き出すのかもしれん」
『そ、そうよ、自己防衛が働いているから迂闊に近づくのは危険ね……はあ……はあ……疲れたぁぁぁぁ!!』
「追いついたかリリス」
『なんとかね! 一応、羽が、あるから、地面に落ちて、ヒキガエルみたいに、なるようなことは無かったけど、危うく風圧で、木にぶつかるところだったわ』
満身創痍といった感じで膝に手をつきながら途切れつつも俺達に状況を説明してくれる。
「で、アレを何とかする方法はあるんですか?」
『悪びれた様子もない!? ……膨大な魔力か魔法で一気に吹き飛ばせば靄は消し飛ぶと思うわ。だけど、三人分ともなると相当な人数が必要だから、迂闊に手を出さない方がいいと思う。下手をすると、防衛のためこの世界の魔物じゃないなにかを生み出す可能性もあるからね』
「それを信用しろと?」
『な、なによ、随分絡むじゃない……』
鋭い目で詰め寄るバスレー先生に気圧されてリリスが後ずさり、頬を引きつらせる。理由はさっきのだろうけど、もうひとつあるはずだ。
「先生、今はちょっと」
「……そうですね、失礼しました」
俺がバスレー先生の肩に手をやると、大人しく引きさがってくれてホッと胸を撫でおろす。
リリスが真実を言っているかは確かにわからないけど、現状の戦力でアレに手を出すわけにはいかないと思う。
「話は少し聞かせて貰ったよ、そういうことなら副団長に無茶をしないよう話しておくよ」
「うん、お願い。こっちは百人くらいで来ているみたいだけど、悪魔を相手にするには少ないからね」
「ラースがそこまで言うとはとんでもないな……」
「まあね。あ、そうそうニーナとトリムがお父さんに頑張ってねって伝言を預かっているよ」
「おお……ニーナ、トリム……俺は頑張るぞ!」
ニーナとトリムの手紙を渡すと、ハウゼンさんは涙目で鼻をすすり、俺に握手を求めてきた。
「そうだ、ミズキやイーファ、ベルクライスやマッシュなんかもこっちに来ているから挨拶をしていったらどうだ? 一泊はしていくだろ?」
「あ、そうなんだ。旅立つ時にも挨拶をしていないから、ミズキさんは久しぶりだなあ」
「イーファ君もまだ追いかけているんなら凄い根性だよね」
ウルカが笑いながらそう言い、俺も釣られて笑う。
ベルクライスやマッシュは卒業後、たまにギルドに行った時に挨拶をするくらいだったから、久しぶりすぎる。
「挨拶は後にして、俺達もキャンプの準備をしようか。リリス、手伝えよ」
『うう……分かってるわよ……』
「では、僕たちも手伝いましょうか――」
「料理は……あんたの方が美味しいからそれ以外をやるわね」
イルミがちゃっかりとそんなことを言い、設営をみんなに任せて俺は料理の準備を始めるのだった。
できることが無さそうだから明日には出発するかな? 靄が大きくなっているのも気になるから、早く装備の修理とヨグスを探さないとね。
◆ ◇ ◆
『……あんたか』
「ええ。ラース君の手前、放置していますがあなた達はエバーライドの人間を殺戮している復讐の対象者なんですよ。サンディオラでもやらかしていますし、他の誰が許しても、わたしだけは許さないことを覚えておいて欲しいと思いましてね」
『……』
「わざわざ一人になったのは褒めてあげますが、わたしの前で悪魔や迂闊なことを口にするのは止めてもらいたいという忠告です」
『肝に銘じておくわ……ま、やりすぎたことは反省しているけど、こっちの立場も分かって欲しいものね』
「あなたはまだいい方だとレガーロが言うので殺さないでおいてあげます。ほれ」
『おっと……お酒?』
「たまにはいいでしょう、復讐はさせてもらいますが」
『……』
リリスは変な女だとバスレーを見ながら、酒瓶の蓋を開けて、グラスに注いでいた――
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