第四百五十九話 変貌と変貌
『うぐおおおおお……!?』
『ま、まさか教主様以外に真の名を知るものが……!?』
「な、なんだありゃ……!?」
「人間じゃ……ない……?」
顎の汗をぬぐいながら後ずさるジャックが驚愕の声を上げ、ウルカも顔を歪めて呟いていた。俺がやつらの名を口にした瞬間、人とはかけ離れた姿に変貌を遂げた。
この世界に生まれて十六年しか経っていないけど、すでにもう遠い過去に感じる前世の記憶。
前世でゲームやらで登場する『クリフォト』というワードは神話に登場するもので、十神者の名前とトレント騒ぎで聞いたクリフォトの名前から気になっていたことだった。
たまたまかとも思って胸中に納めていたけど、アドラメルクの背にある孔雀羽は向こうの世界でイメージされているものなので確信を持った。
そしてもう一つ、こいつらが『向こうの世界のイメージ』で作られているなら、教主の正体はもしかすると――
『小僧……貴様何者だぁぁぁぁ!!』
「それはこっちのセリフだけどね! <ハイドストリーム>!」
『【拒絶】する……! アドラメルク、この小僧は危険よ、ここで息の根を止めねばなりません』
俺が思考をしている途中で、馬の頭になったアドラメルクがランスを構えて襲い掛かってくる。
先ほどよりも鋭い攻撃に対し魔法で対抗するが、割って入るルキフグスに阻まれて霧散させられた。
「やはり【拒絶】がネックになるか……!」
『この姿になれば私のスキルはさらに強化される。小娘どもの使った手は有効ではないと思うのね』
『魔法は我々には効かぬぞ!!』
アドラメルクとルキフグスのコンビは何気に強力だ、そもそもルキフグスの【拒絶】で全ての攻撃を塞がれるというのに、アドラメルク単体でも魔法は効果がない上に接近戦は生気を吸収してくる。
「オオグレさん! あのアドラメルクっていう馬づらを抑えられる? そしたらラースがルキフグスに集中できる」
「もちろんだ。それにそのドラゴンと木……? もやる気のようだ」
「!!」
<さっきの借りは今返すとしよう。スケルトンよ、我とあの馬づらをやるぞ>
サージュは前に出たオオグレと共に突撃。それをルキフグスが遮ろうとしたのを俺とセフィロが仕掛けた。
『……ふん、防御に回った私を攻撃できると思わないことね』
「それでも黙ってやられるわけにはいかない! ドラゴンファング!」
『【拒絶】! ……トレント、こいつも油断ならない相手ね……』
「!!」
俺のドラゴンファングがあっさり阻まれ、ここは前と同じかと思いつつ、裏に回り込んだセフィロに向かって魔法を放つ。
「<ファイヤーボール>!」
『チッ、小癪ね。さっきの小娘達の行動を見ていたか……』
「なるほど、そこは変わっていないのか。ならやりようはあるな!」
『……馬鹿め、攻撃ができないわけではないのよ? ‟獄狩炎歌”』
「うっ!? <ドラゴニックブレイズ>!」
ルキフグスが呼び出した炎の鞭が俺に飛んできて、背筋が寒くなるのを感じて咄嗟にドラゴニックブレイズで迎撃をする。
「マジか……!?」
散ったほんの少しの炎が地面に落ちると、その部分が一気に燃え上がり石畳を溶かす。下手に剣で受けたりすれば溶かされていたかもしれない……!
「悪魔の名にふさわしい技だな! <転移>!」
『悪魔のことも知っている……ますます生かしておけんな……! 後ろ!』
「さらに! セフィロ!」
『何……!? う、うごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?』
ショート転移を読んでいたルキフグスが炎の鞭を振るうが、それを読んだ俺はさらにその場から消える。魔力は減ったけど、これで目を欺ける!
そしてもう一度背後に回った俺に向かって光の刃を伸ばすセフィロ。もちろん、攻撃対象は俺。
そうなれば【拒絶】の意味を無くし――
『こ、れは!? セ、セフィロトの!? この苗木、トレントなどではないっ……! だからアドラメルクがあれほど簡単にやられたのか!? ま、まずい、このままでは体が――』
「!!!」
『がぁぁぁぁぁ!?』
「セ、セフィロ……!?」
腹に突き刺さった光の刃はセフィロが枝を振るうと脇腹から抜け、傷口から黒い靄が漏れだし、ルキフグスの顔にひびが入っていく。
「セフィロト……生命の樹……クリフォトと対を為す思想……お前はトレントじゃなくてセフィロトの樹、なのか……!?」
「……ありがとう、お兄ちゃん」
『な、なんだ……!? まだ何かあるのか!?」
――瞬間、小さいセフィロの体が光を放ち、徐々に形を変えていく。
――それは、夢の中で出会ったセフィロそのものだった
「セフィロ!」
「話は後! アドラメルクを!」
はっきりと喋るセフィロに促され、サージュと交戦中のアドラメルクへ眼を向けると、オオグレさんが刀で攻め立てていた。俺はセフィロに目配せをすると、レビテーションで飛んでいく。
『ルキフグス!? やはりあれはセフィロト……! うぬ!?』
「よそ見をしている場合ではないぞ!! ぬうん!」
<消え去れ!>
『なめるなぁぁぁぁぁ!!』
オオグレさんの刀が肩に食い込み、サージュの火球をもろに顔面に受けたにも関わらず地面にランスを突き立てて衝撃波を放ち二人を吹き飛ばす。
<チッ、我が力負けするとは!>
「ぐ、この体では……」
「二人とも下がって! おおおお!」
『小僧ぉぉ!』
レビテーションで飛び掛かり全力でサージュブレイドを振り下ろす俺に、ランスでパリィングして攻撃を反らしてきた。そのまま開いた手で俺の首を掴み握りつぶしにかかった。
『生気を吸う前に捻り殺してやる!!』
「げほっ!? <オートプロテクション>!」
『うおっ!? そんな小細工で! ……貴様囮――』
「【ソーラーストライカー】フルモード! ライフセイバー!」
俺の背中を踏み台にして、セフィロが頭上からアドラメルクの頭めがけて光の刃を振り下ろした! 真っ二つにされれば悪魔とて消滅するはず!
『うおおお!?』
「外れた!?」
「うわ!?」
アドラメルクは俺を投げ捨て身を捻り、ライフセイバーは左の肩口にヒットし、腕が地面に落ちた。
「や、やった!? あのちっこいのすげぇ!!」
「ま、待ってジャック近づいたらダメだ!」
<いかん……!?>
『あがぁぁぁぁぁ!? や、やってくれたな……! こ、このままでは済まさん……この町は我らが休息するため、も、もらい受ける……ルキフグス!!』
『……仕方ないわね、教主様お気づきください……!!』
その瞬間、二人の傷口から大量の黒い靄が噴き出し、周囲を包み込んでいく。いや、周囲どころか町全体を包もうと舞い上がっていく!?
「う……!? か、体が……」
「お兄ちゃん、全員をすぐ王都へ帰還させないとまずいよ! クリフォトの煙は人を操り、死に至らしめる!」
「アイーアツブスがやっていたアレか!? サージュ、ジャック達を連れて屋敷へ! 兄さんたちを転移魔法陣で王都へ!」
<ラースはどうするのだ!?>
「マキナ達を探して連れて行く、余裕がありそうならライド王子たちを空から探してくれ!」
<承知した……! 飛ぶぞ>
サージュは一気に巨大化し、ウルカやジャック、ファスさん達を連れて一気に屋敷へと飛んで行った。
「こいつらは……」
「もう抜け殻みたいなものだから攻撃しても意味がないんだ……ボクが魂を切り裂いていれば良かったんだけど、慣れない体で外しちゃって……」
「……今は仕方ない。みんなを助けた後、話を聞かせてもらうからな」
「うん」
人型になったセフィロは決意をした目で頷き、俺と共にマキナ達のところへ向かう――
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