第三百九十七話 暴虐の王になれなかった者


 「話を総合すると、『賢者の魂』で死なない存在になった。それを取りあげた。だけど、プルトの攻撃性は失われなかったってことか。それが俺を生かしておくわけにはいかない理由なのか?」

 「そうだ。スキル【器用貧乏】、あれはおかしい。お前もおかしいと思わないのか? レアスキルとはいえ、成長に限界が存在しないなど人間としてあり得ないとは思わんか? お前はそのまま強くなり続けて、どうするというのだ。プルトのように何かに操られるかもしれん。その時、誰にも倒せない存在になっていたら……?」


 ゲイリーは小僧の恋人や家族、そして世界に害を為す存在になり得る可能性がある。だから【器用貧乏】を持つものは殺すべきだと言う。


 「で、でも、ラースは強いけど、人を殺そうとしたりしないわ。優しいラースがそんな……」

 「小娘、これはその人物の人柄うんぬんの話ではないのだ。人がスキルを使うのではなくスキルが人を使う、恐ろしいことだとは思わんか……?」

 「……」


 確かに、と俺は無言で考える。

 百年に一度のレアスキル、それはいい。だけど、ゲイリーの言うように強すぎるというのはベルナ先生との修行でだ。さらに俺は【超器用貧乏】プルトのソレとは違って成長速度は段違い……あまり考えたことは無かったけど、転移魔法を習得し、さらに精度や魔力を上げて行けば国ひとつ潰すくらいはできるかもしれない。


 「……だとしても、俺は俺だ、自殺するわけにもいかない。両親やマキナのためにも死ぬわけにはいかない。プルト……会ってみたかったな」

 「ふん……」


 俺の言葉に鼻を鳴らす。俺はもうひとつの疑問をレッツェルにぶつける。

 

 「というかレッツェル、お前はプルトをどこで知ったんだ? 文献なんかには載っていないだろ?」

 「そこは、まあご想像にお任せしますよ。さて、ゲイリー、あなたの持っている情報はこれで終わりですかね?」

 「そうだな……プルトは可哀想な男だった……この国を滅ぼすことは出来なかったが……後は、貴様に託そうか、アフマンド。貴様に骨が無ければ再び台頭するつもりであったのだがな」

 「む……」


 急に話をふられて目を細めるアフマンド王の表情は歓喜というよりも、疑問でいっぱいだった。少し考えたのち、アフマンド王は口を開いた。


 「百年前から生きていた、ということは未だ信じられない。確かに即位交代の儀式などは無いから気づきはしないが……いや、それよりそれだけ身内を想えるお前が、どうして国を悪い方向へ持っていこうとしたのだ? 前王が死に、プルトも亡くなった。王位を継いだのがお前で、何もかもを知っているなら何とでもできただろうに……」

 「何もかもを知っているからこそ、だ。最初は改革を考えたものだ……だが、プルトの言っていたことはプルトにしかできないものだったし、あの時は父のせいで他国との共存も難しい状況だった。私は父を憎んだよ、もっと打てた手はあったろうにと。だから父が作りあげたこの国を、私は壊してやろうと思ったのだ」

 「それはただの逃げではないか! 如何に貴様が不幸にあったとはいえ民にまで押し付けるのは違うだろうが! 何も知らない民を虐げるとは何事か!」


 アボルさんがゲイリーの髪の毛を掴んで激昂し、殴りつける。死なないことがさらにそれに拍車をかけたのか? しかしダメな王ではあるけど、一気に国民を殲滅しなかったあたり、思うところはあったのかもしれない。


 「ふん、結果が全てだ。それ以上のそれ以下でもない。さて、話は終わりか? 次はどうする?」

 「貴様……!」


 挑発するように言い放つゲイリーを再度殴りつける。そこでレッツェルがメスを取り出して不敵に笑いながら口を開く。


 「僕はもう終わりですね。他は?」

 「俺達は……もうない。どうするつもりだ?」


 マキナ達をチラリと見ると全員首を振ったので俺が代理で答えると、アフマンド王が言う。


 「秘宝はその『賢者の魂』とやらになるのか? それで奴隷が解放できるのか……?」

 「さて、使い方はその人間次第になりますからアフマンド王次第、でしょうか? 最終的にはラース君に渡すことになると思いますが、滞在中は試してもいいと思いますが」

 「いや、勝手に人の国の秘宝を俺に渡そうとしないでくれ。俺に不死は必要ないし、力も要らない」

 「まあ、今の【器用貧乏】の話を聞く限り、ラース自身が今後どうなるかわからねえとなると、『賢者の魂』とやらは危ない代物だし、それでいいと思うぜ。奴隷解放に使ってくれよ、どうやるかわからねえが」


 ディビットさんも俺に賛同してくれ、俺はホッとする。


 「……ま、いいでしょう。では、覚悟はいいですか?」

 「好きにしろ。敗者は従うのみだ……やれ」

 「待て、レッツェル! ゲイリーは『賢者の魂』を飲み込んだと言っていなかったか? どうする――」

 

 嫌な予感がした俺がレッツェルに駆けよろうとした瞬間――


 「ぐおおおおおお……!!」

 「さようなら、サンディオラの王。プルトのことを教えてくれて、ありがとうございます。安らかに眠るといい」

 「これで、し、死ねると言うのか……誰も取り出せなかったこの石を……!」


 レッツェルはメスを腹に突き立てると、切り裂き始めた。慌ててこの止めようとしたところでリースが立ちはだかった。


 「どけ! このままじゃ――」

 「死なせてやれ。望んで死にたいやつも、世の中にはいるものだ」

 「リース!」

 「こ、小僧……忘れるな……貴様の持つそのスキル……は、とんでもないものだという、ことを……」

 「ああ……!? ゲ、ゲイリーが……」


 マキナがゲイリーの姿を見て声を上げる。なぜなら、40代ほどだった姿が一気に老けてしまったからだ。髪は真っ白になり、皺が増えたその顔は、笑顔だった。


 「弟たちよ、わたしも今――」


 そして、最後まで言い終えることなく、ゲイリーは長かった生涯を、終えた。

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