第三百七十四話 アイーアツブスを追え!


 「木の魔物のくせに石みたいな体をしていたなこいつ……」

 「ああ、剣や弓で幹を切れない理由がわかった……む、砂みたいになった……」

 「あの子、大丈夫かな……」

 「よせよ、アホっぽかったがあの女はマジもんの強さだ。ああいう可愛い顔をしているやつほど危ないんだよ」


 アイーアツブスが撤退し、村長さん宅へ戻る俺たちの耳に討伐したクリフォトの亡骸を見ながら村人たちが戦慄しながら片付けていく。死んだあと、クリフォトは石灰のような何かになってしまい、オリオラ領で戦った個体とはまた違うもののような気がする。


 「ぐるる」

 「大丈夫、マキナは俺が運ぶよ」

 「くおーん……」

 「わふ」

 「!」


 アッシュが不安そうに俺の足元をウロウロしてマキナを心配していた。当のマキナはすっきりした顔で気を失って……いや、眠っているので今のところ変わったところはないけど、ここは彼氏として俺が運びたいのだ。そして今考えることは――


 「ああ、ディビットさん! ダーシャちゃんが!」

 「分かっている。ぶっ壊れちまったが、作戦会議だ。どうせ居場所はバレたしこんだけ見えていてももんだいねえだろ」

 「……」


 クリフォトが暴れて家屋が半壊した村長さんの家に入っていき、タバコに火をつけてドカッと椅子に座るディビットさん。一緒についてきていたオルノブさんが終始無言だったのが気になるが、それよりもダーシャちゃんの奪取を考えなければならない。


 「アイーアツブスを追おう。今からならすぐに追いつけるし、今度は確実に倒す。あいつの【不安定】は初見殺しだから、次に対峙してもやりようがあるからな」

 

 ソファにマキナを寝かせながら俺がそういうとオルノブさんが拳を握り、大声をあげる。


 「私も連れていってくれ! 折角良い村に来たというのにあの子が居なくなったらユクタさんは……。必ず助け出す、頼む!」

 「まあ落ち着けよ二人とも。あいつを追うのはやる。子供を人質にしてくれたるとは盗賊やゴブリンにも劣るやつだ、許せねえ。だが、そのダーシャが人質になっているのは少々厳しい、まともに追えば殺すに違いないぜ? ハッタリじゃなくな」


 煙を吐くディビットさんの言うことももっともだけど、逃げたら用無しと見て処分する可能性を考えると早く奪還したい。そこで、ユクタさんが家へやってきた。


 「皆さん! ダーシャが連れていかれたというのは本当ですか!?」

 「ごめん、俺たちが居ながらみすみすさらわれてしまった……」

 「……ああ……そんな……」

 「大丈夫だ、私が助けに行く。ユクタさんは待っていてくれ」


 泣き崩れるユクタさんの肩を支え、力強く言うオルノブさんにファスさんが答える。


 「ふむ、みたところオルノブの実力は悪くないがどうしたものか? ディビットは考えがあるのじゃろう?」

 「ああ。あいつは足止めと言っていたからな、恐らく今頃はサンディオラの城が大変なことになってんだろう。まだかもしれねえが、そう遠くはないだろう」

 「ならサンディオラで待つ、か? でも先回りするにはちょっと難しくない?」


 俺が腕を組んでディビットさんへ言うと、タバコを消しながら口を開く。


 「お前……何を覚えに来たんだっけか?」

 「え? そりゃ転移魔法だけど……って、まさか!?」

 「おうよ、俺たち丸ごとサンディオラに飛ぶぞ。ま、アフマンドにも言いたいことがあるし、ちょうどいい。恐らくアイーアツブスはダルヴァと合流するだろう。俺たちは付近の町に飛んでアイーアツブスを待ちぶせして、挟むぞ」


 隙があればダーシャちゃんを奪還する。場が荒れている時が狙いやすいとのこと。本気で走れば捉えにくい機動力のあるシュナイダーもいるし、特効攻撃があるセフィロもいる。インビジブルで近づくこともできるかと思っていると――


 「インビジブルは止めておけ、あの女は魔力を辿るのが抜群に上手い。魔法を霧散させたくらいだからな。だから行くなら一気にだ」

 「……なるほどね。俺次第ってところか」

 「理解が早いのはいい男の証だぜ。俺は転移魔法で魔力をごっそり持っていかれるから、二度目は無理。となると、お前たち頼みってこったな。オルノブ、もし行けばお前は捕まって極刑になるかもしれねえし、戦いで死ぬかもしれん。それでも行くか?」


 ディビットさんがそういうと、オルノブさんは無言で力強くうなずくと、フッと笑う。この人、こんなに正義感もあるのにどうして奴隷なんだろう……? 

 そんなことを考えているとマキナが上半身を起こしながらぼんやりと周りを見る。


 「ううん……ハッ!? あ、あの女は!?」

 「起きたかいマキナ? あいつはマキナとセフィロのおかげで退散した」

 「本当!? 良かったあ……あんまり覚えてないけど、手ごたえはあったもんね!」

 「♪」

 「くおーん♪」


 マキナがとてとてと歩いて行ったセフィロと手と枝をタッチし、アッシュが元気なマキナを見て足に抱き着く。ぬいぐるみみたいだ。


 「だけど、ダーシャちゃんがさらわれた。これから戦いの準備をするところなんだ」

 「……! ええ!? 早くいかないと!」

 「落ち着け。今度は集団戦になるじゃろうから、しっかり装備は整えておけ。それとあの女のスキルに対抗できる技をひとつ教えておこうかのう」

 「え?」


 そして俺たちはディビットさんのすごさを目の当たりにすることになる――

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