第百四十七話 お祭り騒ぎの始まり
「殴られたのにやり返さなかったのかよ」
「まあね。でも、多分ルクスはいい友達になってくれるかもね」
「どうかなあ……」
「あの子、減点されまくってたクラスの子じゃない? ラース達はそれでも勝ってたから悔しくて殴ったとか?」
「いや、そうじゃないんだよ。俺があいつに嫌味をちょっとね言ったんだ、だから殴られたんだよ」
「ふーん?」
リューゼが憮然とした表情をして俺にそう言い、俺の言葉にウルカが口を尖らせる。ルシエラが唇に指を当てて聞いてくるけどそれらしいことを言って場を濁す。
――で、ルクスを見送ってから再びぞろぞろと屋敷に向かって歩いていると、門を出たところでとある人物に声をかけられた。
「や、やあ、ラース君! 大活躍だったな」
「あ、ミズキさん! そういえば見に来てくれていたんでしたね」
バスレー先生にアイアンクローを仕掛けているのを見たのは記憶に新しい。俺がそう言うと、顔を輝かせ、鼻息を荒くして言う。
「そうだぞ! 今日はそのために依頼を全部断ったんだ。うんうん」
私服のミズキさんがポニーテールを揺らしながら頷く。しかしそこへ、ハウゼンさんが俺の後ろから現れてミズキさんへ問う。
「おう、ミズキ。お前、学院長にちゃんと謝罪してきたのか?」
「あ、ギルドマスター!? ……え、ええ。もちろんです、そもそもあの先生がおかしなことを言わなければ問題は――」
「いや、お前がムキになって怒ることでもないじゃないか……」
もっともな話をしていると、母さんが苦笑しながらハウゼンさんへ声をかける。
「まあまあ、ハウゼンさんそれくらいで。みんなを応援してくれたんですから、いいじゃありませんか。それより今からパーティをするんだけど、ミズキちゃんも一緒行く?」
「え! い、いいんですか……! ぜ、ぜひ! ラース君のお家……!」
不穏なことを口走っているけど、数は多い方がいいとノーラとクーデリカがミズキさんに抱き着き、決定した。
するとそこへ俺が最後に戦ったイーファが息を切らせて走ってくる。え? なんで?
「み、見つけたぞラース……」
「なんだい? そんなに息を切らせて」
「お、お前に言いたいことが……あった、はあ……はあ……からだ!」
疲れているなら別の日にすればいいのにと思いながら言葉を待っていると、ミズキさんが先に口を開いた。
「君、私達は急いでいるんだ。話ならまた今度にしてくれないか?」
「う、うるさい! 俺は……! ……!?」
「ん?」
イーファがミズキさんを見て固まり、目を見開いて顔を見つめる。そして次の瞬間――
「好きです付き合ってくださいぃぃぃぃ!」
「なに!? い、いや、それは困る。イーファ君と言ったか? 君は学生、私もまだ未熟な身。そういうのはお断りしている」
「ミズキさん……ラース君のことがあるのにそんなことを言って、あは……」
クーデリカがどの口が言うのかという顔をして呟くが、彼女の憧れの人は俺を狙っている節があるので、最近黒いクーデリカが出てくることがある。
「お、俺も冒険者を目指しているんです! そしたら、一緒にパーティを組んでください! 絶対強くなりますから!」
「いや、そう言う問題じゃなくてな……」
「お願いしますっ!」
ミズキさんは困り果てた顔で俺達に目配せをすると、さらに場が荒れる事態に巻き込まれる。
「い、いた! ミズキ!」
「ん? マッシュじゃないか、どうしたんだこんなところで?」
そこに現れたのはあの時ティグレ先生にコテンパンにされ、俺の魔法を見てびっくりしていたマッシュさんだった。こっちも息を切らせてミズキさんの手を握り熱弁を振るう。
「ずっと探していたんだよ! 家に行っても誰もいないし! 久しぶりに帰ってきたのに、幼馴染のオレと一緒に居てくれてもいいだろ? こんな子供の競技よりいいだろ?」
「なに……?」
ピクリとミズキさんの耳と目じりがぴくっと動き、目を細める。ミズキさんが何かを言おうとしたところで、イーファがマッシュさんに突っかかっていく。
「あぁん? 今は俺が話しているんですけどね、お兄さん? お姉さんが困っているでしょうが!」
「お前こそなんだ! ミズキはオレの恋人だぞ」
「違う! 何を勝手にそんなことを言っているんだ!」
「先にいくわよー」
イーファとマッシュが言い争いを始め、しれっとミズキさんを恋人扱いしているマッシュさんの頭を叩いていた。
「いたっ!? オ、オレは昔からお前のことが好きなのに……!」
「そのせいで、私に近づく男子をいじめていたのは誰だ! まったく、お前が恋人など寒気がする!」
「そ、そんな……!」
「はっはっは! 残念だったなお兄さん! むふふ、ミズキさん、それじゃ俺を――あがっ!?」
がっくりと項垂れるマッシュさん。
彼をよそにイーファがここぞとばかりに手をわきわきさせながら飛び掛かっていくと、ミズキさんのアイアンクローががっちりとイーファの顔をロックした。
「君とも付き合う気はないっ」
「ぎゃああああああ!?」
「やったか……!」
固唾を飲んで状況を見守っていた俺達の中で、リューゼが拳を握り叫ぶ。バスレー先生を仕留めたアレはイーファでは耐えられないだろう。すでに廃人と化しているマッシュさん含め、ここはミズキさんの勝ちか。
膝をついて落ち込むマッシュさんと地面に突っ伏すイーファを見て鼻を鳴らし、ミズキさんは笑顔で俺達に向き直る。
「それじゃあ行こうか! ふふ、ラース君の家は初めてだから楽しみだよ」
「あんまり珍しいものは無いと思うけど……」
「とりあえず行かない? お母さんたち先に行ったわよ?」
マキナがそんなことを言うので周囲を見ると、確かに大人たちは誰も居なくなっていた。
「行くか……」
「そうだね……」
ジャックとヨグスが疲れたように呟く。
――しかし、まだ終わりではなかった。
「いいや! 俺は諦めませんよミズキさん! その太もも、かならず俺ののものに……!」
「な、なんだと!?」
イーファがむくりと起き上がり、とんでもないことを口走り目を光らせると、ミズキさんに突撃していく。
「うわああああ!? 来るなぁあぁぁ!?」
流石にミズキさんも身の危険を感じたのか、後ずさり踵を返して町の中へと走り出した。
「あ! 待ってくださいよ! ミッズキさーーん!」
「ハッ! ま、待てよ、小僧! ミズキはオレのだ!」
ミズキさんの悲鳴に気づいたマッシュさんが、慌てて立ち上がり追いかけ、この場はシン……と一気に静まり返る。
「……何だったんだろうな?」
「さあ……イーファのやつ尊敬するぜ、色々とな……」
……ミズキさんは屋敷に来れるだろうか? イーファとマッシュさんは勘弁してほしいのでぜひ逃げ切って欲しいものだ。
「それじゃそろそろ暗くなってくるし、早いところ屋敷へ行こうか」
「行こう行こう! ご飯なにかなー?」
「ノーラはさっきからそればかりね。あ、お屋敷に行ったら一回みんなでジャケットを着ましょうよ」
「本当に気に入ったんだね、マキナ」
そんな話をしながら俺達は歩き出す。イーファが来ていたせいか、あそこが良かったとかもうちょっと練習すればよかったなど、対抗戦の話で盛り上がる。
そして家へと到着し、俺達はリビングでくつろぎながら夕食を待つ。流石に大所帯なので料理はもう少しかかるようだった。そんな中、ニーナがリビングに来て俺に声をかける。
「先生方がお見えになられましたよ」
「あ、招待してたんだ。母さんぬかりないなあ」
「あれ? ベルナ先生が来たの? 出迎えに行こうか?」
「いや、俺が行くよ、兄さんは休んでてよ」
俺はそう言って玄関へ行くとそこには――
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