第百三十一話 詰め放題! そして〇〇し放題?


 [お姫様だっこ競技も終わり、そろそろこの対抗戦も終わりが近づいてきましたぁ! ロザリア先生、次の詰め放題競技のルールをお願いします]

 [わかったわ。これは去年にもあった競技。渡された背負いかごに、お野菜、お肉、お魚、調味料、雑貨など、フィールドに置いている品物を詰めればいいだけです。なおルールは三つ。制限時間があるのと、かごを一定量にしなければならない、それと背負いかごを降ろしてはいけない、というところでしょうか]


 「はあ、すると勝敗はどうなるんでしょうかぁ?]

 [詰め放題なのでかごに詰めた量で決まります。では小さいものばかり入れればと思いますが、それだと時間がかかってしまいますよね? 一定量詰めなければならないというのもキーポイントでしょう]

 「ありがとうございます! みなさん分かりましたねぇ? 時間を守って詰めるんですよぅ]


 解説が終わると、先生たちが設置された机と棚に品を並べるためぞろぞろと出てくる。その中にあるものを見て、マキナが呆れた口調で言う。


 「……やけに大きいお魚があるわね。あれはいくらなんでも入れないでしょうに」

 

 確かに明らかにでかい魚が並べられていた。だけど、あれにも意味はあると俺は思う。


 「あれだよ、他のクラスの子のかごに突っ込んで妨害ができるよ」

 「あ、そういうことか!? でも時間制限があるのにするかあ?」


 リューゼが目からうろこだと言わんばかりに頭を叩くと、ヨグスが眼鏡を直しながら、


 「そこが微妙なんじゃないかな? 妨害をするか、さっさとノルマを達成するか。今までの傾向からそこを試されている気がする」

 「なるほど……」


 ウルカが納得した声をあげ、クーデリカもポンと手を打って感心する。かごを見ないでポイポイ入れていくのは楽しいと思うけど、結構シビアだと思う。

 それにノーラやルシエールには妨害をする、もしくはそれを注意するように言っているけど、性格的に妨害はしないと思うので、スピード勝負になると俺は思っている。


 [それでは一組目、はじめー!]

 

 ベルナ先生の合図でノーラがフィールドに駆け出す。他のクラスの子も一目散に品物のもとへと走っていた。


 「面白そうー! いっぱい入れようっと!」

 「まずは自分のをいっぱいにしてから……!」

 「リンゴ……リンゴならいっぱい入るはず!」


 ノーラは肉や魚といった食材を中心にかごへ入れていく。他のクラスも女の子ばかりで、果物を狙う子もいれば無差別に入れていく子もいてなかなか個性的だ。

 

 [さあ今回は時間制限がありますから他クラスに構うことは難しいですかねぇ?]

 [まだ時間はありますし、ここからではないでしょうか?]


 「ノーラちゃん大丈夫かな?」

 「ルシエールと練習していたから、あれも戦略なのかもしれないね。肉や魚は平たいから重ねていけば結構入ると思う。それよりも他のクラスが」

 「おう、魚はウチからも出しているんだぜ! 肉は包み紙でくるむのが大変だったってネミーゴがぼやいてたけど、魚はそのまんまだから楽だった」


 魚に比べて肉は切っているから劣化が早いし、捨てるつもりも学院長のことだから多分ないんだろうなあ。

 そんなことを考えていると、Bクラスの子に変化が現れ、動きが変わる。


 「……」

 

 別のものを拾いに行くと見せかけ、Cクラスの子とすれ違いざまに大きなカニをそっと入れていた。


 「ん? 今なんかずっしりした気が……」

 

 だが、Cクラス、気づかない。

 

 俺達もそうだけど、実況も静かなのはこの競技で声を掛け合ってはいけないからだ。あくまでもフィールドにいる選手だけで解決しなければいけない。

 さらに、さっきの大きな魚みたいなのを入れられるということにも警戒をしなければいけない気を張って挑むべき競技である。


 「ん? DクラスのやつもしれっとEクラスのかごに何か入れたぞ。あいつら共同戦線じゃねぇのか?」 「もしかしたらポイントを気にしているのかもねえ? CとEがすこーし多いのよ。ポイントを平均化する策かもねえ?」

 「いや、でも仮にそうだとして、CクラスとEクラスが手を抜けばいいだけだろう?」


 ヨグスの言う通りだけど真相は不明なので俺達は再びノーラの動向を見守る。ノーラにもさりげなく妨害の手が伸びているけど、ノーラは一生懸命かごに入れていて気付いていない。スイカは結構えぐい……だけど声をかけられないのでやきもきする。


 [そこまでです!]

 「ふわあ、いっぱいになったかなあ?」


 ベルナ先生がストップをかけ、全員がその場に立ち止まる。手に持った品物は元に戻し、先生達が数を数え始める。


 [みなさん色々詰めていましたねぇ」

 [個人の特色が出るのもこの競技が面白いところですね。Aクラスは肉と魚、Bは果物が多かったようです]

 [Cクラスはスプーンやキャベツなどのお野菜と、入れるものがバラバラでしたねぇ。大きいものと小さいものでバランスを取ったのでしょうねぇ]


 Eクラスはキノコが多かった気がする。Dはネギやニンジンといった細長い野菜が多く、無くなったら魚に手を出していたかな。


 「あれ!? こんなカニ入れてないわよ!? 誰よ!」

 「……」

 「……」

 「おっきいねえー。オラもスイカを入れた覚えはないんだけどー……」

 「あ、でかいかぼちゃが入ってる!? どおりで重いと思った……」


 他にもA、C、Eクラスにはフライパン、鍋といった調理器具や、ギリギリ収まる丸い盾なんかが入れられており、妨害し放題。他クラスの子が物を入れるのと同時に、妨害品を絶妙なタイミングで入れるのであれは気づかないだろう。そう言う練習をしてきた可能性が捨てきれない。


 [あ、順位が決まったようですよ]


 ロザリア先生が淡々と告げると、一位の旗を持ったBクラスのシェリーが手を振っている姿が目に入る。妨害の成果により、Bクラスが一位、Dクラスが二位で、Aは三位だった。


 ◆ ◇ ◆


 「くっ……! あいつら妨害を!? やるならAクラスだろうが!」


 Cクラスのベルクライスが妨害を目の当たりにして激昂し、ルクスが顎に手を当てて呟く。


 「BとD、僕の作戦に乗らなかったね……どういうことだ? しかし、気を付けろとも言えないし、ここはナンシーを信じるしかないか」

 「次にやつらの動きを見て、一万ベリル競技で協力体制を止めたかどうか見極めよう」


 ホープがそう言ってルクスが頷き、Cクラスは観察をすることに決めた。


 ◆ ◇ ◆


 「くそ、下三人は僅差じゃねぇか!」

 「シェリーって子、リンゴばかりを良く詰めたもんだよ。ナシも入ってたけど果物好きなのかな」

 「いや、妨害技術でしょ褒めるべきは。自分のを詰めながら隣に立っている子のかごに後ろ向きで入れるなんて気づかないわよ……」


 マキナがぼやくけど、それくらい他人のかごに入れるのが上手かった。なので、自分のかごをいっぱいにするのは苦では無く、妨害しながらも詰めていられたのだと思う。


 [今の状況を見て二組目はどう動くのでしょうかぁ? 実況はできませんが、見守ってあげてくださいねぇ]


 「ルシエールの顔、珍しくやる気だぞ」

 「みたいだね。いつもはふわっとした表情なのに」

 「色々な入れ物に詰める練習をしてきたし、かごを見なくても余裕なんじゃないかな?」


 ぐっと拳を握るルシエールが珍しいけど、それは練習をしてきた自信があるからに違いない。それと、勝つために。


 [はじめ!]


 今度はロザリア先生が合図をし、一斉にスタートする。ルシエールはすぐに果物の棚へ行くと、丸いリンゴやナシ、桃といったものを入れ始める。それも凄いスピードで。


 「うお、速っ!?」

 「感覚で重さとかごの位置が分かっているんだろうね。商会で買った果物を使って練習していたのかも……!」

 「あ!? ルシエールちゃん凄い……」

 

 あ、と声を上げたクーデリカが驚くのも無理はない。ルシエールは妨害を仕掛けてこようとした気配を悟り、背後を取りそうな子に向かって品物を投げつけていたからだ。


 「いた!? お鍋の蓋が飛んできたわよ!」

 「あ、ごめんね!」


 それだけならまだ分かるけど、恐ろしいのはここからだった。ルシエールや他のクラスの子は品を求めてウロウロする中、


 「ふんふふーん♪」

 「呑気に鼻歌? そんなことで大丈夫なのかしらね?」


 ルシエールの余裕ぶりにイラっとしながらCクラスのナンシーがそう言い、見えていない角度からヒュっとニンジンをルシエールのかごに投げ入れる。


 ……はずだったんだけど


 「!?」

 「い、今、ニンジンを迎撃した!?」

 「恐らくノーラの競技を見ていたからだろう……それに見ろ……」


 ヨグスが震える手でルシエールを指すと、他のクラスの子が自かごに入れようと放り投げた品々を、スプーンやフォークで弾き、かごから零させていた。【精度】のスキルを持つお嬢様、オネットが頬を引きつらせていたのは見間違いじゃないはずだ。


 「投擲練習も頑張ってたから、コツを掴んだのかもね」

 「そういやブーメラン上手かったよな」


 ウルカとリューゼが笑いながら話していると、時間が来た。


 [そこまでぇ!]


 そして――


 「嘘!? なんでこれだけしか入ってないの!?」

 「こ、こっちもだわ……そんなに外してたのわたし……?」

 「知らないカニが入ってる……」

 「ウニが……いっぱい……」

 「~♪」


 結果はルシエールの完勝!

 かごいっぱいに入ったルシエールと、ギリギリの線までしか入っていない他のクラスでは誰が勝者かは火を見るより明らかだ。


 「すごーいルシエールちゃん!」

 「えへへ、ノーラちゃんの仇を取りたかったし、本気を出したの。ラース君、勝ったよ♪」

 「凄かったよ、いつもおっとりしているのにあんなに速く投げれるなんて」

 「私もたまには凄いんだよ? なんてね♪」


 そう言って笑うルシエールはとても可愛く、嬉しそうで、俺は少しドキッとしていた。


 と、とりあえず次の一万ベリルを取って確実なものにしたい。ここもルシエールに頼りたいところだ。

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