第百三十話 追いつけ追い越せ
<Cクラス陣営>
「いや、ありがとう。ここまで上手くいくとは思わなかったよ」
Cクラスの頭脳であるルクスが、戻ってきたホープとその彼女であるシェリーを労う。
「一応Eクラスが取ったけど良かったのかい?」
「ああ、今のところAクラス以外は一進一退。妨害徒競走でポイントを合わせたから差はそれほどないはずさ。残る二つはブライオン商会の子が出てくるだろうからそこは取らせよう。恐らく勝ち目がない」
「……それでいい?」
魔法競技で猛威を振るったディースが口を開くと、ルクスは頷き説明をする。
「もう一人の子を最下位にしておけば全クラスがほぼ同じになる予定なんだ。最後で一位を取れば全クラスにチャンスがあるって寸法さ」
「はあ、よくやる――」
ゴォォォ……
肉屋のネミーゴが頭を掻きながらしゃべろうとした瞬間、鈍い音と風がテントを揺らし、その場にいた全員がぎょっとして発信源を確認する。するとそこには地面を拳で殴りつけているラースの姿があった。
「……ごく……あ、あいつがやったのか?」
「ま、まさかぁ……いくら魔法が強くても流石にそれは……」
「お、怒らせたんじゃない、わよね? 大丈夫、計算のうちよねルクス?」
ファラがルクスに振り返ると、ルクスは目を見開いて固まっていた。やがて見られていることに気づくと慌てて後ろを向き咳ばらいをする。
「こほん! ……当り前じゃないか、むしろ怒らせて隙が多くなったところを狙うのさ。最後は僕も出るし、大丈夫さ。それより他のクラスに根回ししておかないとね?」
その言葉にホッとする一同。
だが――
「(あいつ、なんて魔力だ……!? 勝ち抜き戦だったら危なかった……ここは僕が彼と戦って、かっこよく散ればクラスのみんなに言い訳も利くかな……? 他クラスと協力すれば何とかいけると思うけど)」
そんなことをルクスが考えるが、他のクラスでもラースの激昂を目の当たりにして戦慄しており、変化が現れていた。
<Eクラス陣営>
「いやいやいや、なに今の!?」
ダークカメムシの匂いを頑張って取ったコンバーが驚愕して叫ぶ。そこにオネットが冷や汗をかきながらラースを見て言う。
「地面を殴った反動で風が起きたみたいですわ……魔法じゃないと思いますけど……」
「魔法じゃない方がやばくない……?」
チェロが返すと、ガースが目を細めてラースとCクラスを見比べて考え、しばらくしてみんなに告げた。
「これはまずい気がするな。Cクラスが戦闘競技で勝ちを決めようとしていたが、確実にラース君達が一位を取る可能性が高いぞ」
「ならどうしますの?」
「……Cクラスとの同盟は破棄だな。戦闘競技が二位でもトップを取れるよう、残り二つを全力で取りに行こう。シルビア、ジューン任せる」
ガースがふたりに声をかけると、目の細い茶髪の子と、赤い髪をしたそばかすの残るおどおどした子が頷いた。
「あいよー」
「が、頑張るね! 一位……一位……」
<Dクラス陣営>
「はっはっは! 荒ぶっているな、ラース君は!」
「笑いごとじゃないわよリース。あれ、本気になったんじゃない?」
「ボクにとっては都合がいいよ、ヨシノ。ボクと同い年で古代魔法まで使える体……子孫を残すなら断然彼だよ! ……あの領主邸での戦い……いや、何でもない」
鼻血でも出しそうな勢いで熱弁を振るうリースに、パン食い競争でのんびりしていたレオースが止めに入る。
「や、やめなよ女の子がそういうこと言うの……」
「レオース、君は優しいけど、それは時に仇となるよ? チルアに好――もが!?」
「だ、だからやめなって!?」
じゃれているふたりに緑色の髪を肩まで伸ばした女の子が肩を竦めてリースの頭に手を乗せ、憮然とした表情で尋ねる
「とりあえずDの戦力じゃAクラスには勝てないんじゃない? ウチのダンスも三位だったし、くそ……!コールソンとジャン、最低あと一人は欲しいわ」
「ボクとガイラ、それとティーリアでいいんじゃないかな? 何でもアリならボクの舞台だと思うけどねえ……くく……」
「フフ、悪い顔ですね。このティーリア、頑張らせていただきますね!」
そこでリースがにやりと笑い全員に告げる。
「さて、Cクラスとの約束だが、残り二つは全力で取りに行け。チルア、頼むぞ」
「いいの?」
「構わない。Aクラスに戦闘競技で勝つのは少々厳しい。だから戦闘競技が二位でもまくれるポイントが欲しいのさ」
「それじゃヨシノと一緒に頑張るかー」
「うん!」
<Bクラス陣営>
「わたしは最後で全力を尽くします」
「いや、ナルちゃんその前にふたつあるから……」
キンドルがため息を吐きながらナルに向かって言い、すみれ色の髪の子がそれはともかくと口を開く。
「シェリーとソーニャ、一位を最低一回は取りましょう。後はミリィやイーファ、カールで戦闘を何とかします」
「オッケー、詰め放題はまあ何とか……」
「高額商品がっぽがっぽ」
「別に貰えるわけじゃないからな、シェリー? 何にせよCクラスに付き合っていたら負けそうだな……。よし、後は全力で行く。手を組んでいると見せかけて次を取っちまおう。確か、今度はDが取る番だったよな? ポイントの操作をしている間に俺達が取ろうぜ? 手段は選べないからな」
カールの言葉ににやりと笑い、Bクラス、いや、全クラスが次の競技を待つ――
奇しくも、全クラスが出し抜き合うという状況になり、場は混迷を増すことは間違いなかった。
◆ ◇ ◆
<うむ、撫でるがよいぞノーラ>
「ううー……クマちゃんが良かった……」
「またサージュは抜け出してきて……」
俺とクーデリカが戻ると、サージュがまた母さんのところから抜け出してテントに潜り込んでいた。どうもノーラが赤ちゃんクマに目を輝かせていたことに嫉妬したらしい。本人は違うと言い張るが絶対そうだと俺達は苦笑する。
「ラースにしては珍しく失敗したね」
「ああ、こういうのも悪いけど……ラースでも失敗することがあるというのは安心するよ」
ウルカとヨグスが自分達も失敗していたからと笑いながら言う。俺に気を使ってくれているなと、感じ取れ、俺も張っていた気を少し緩める。
「俺をなんだと思ってるのさ? 多少は強いけど、まだまだそれだけだよ」
「ま、強くても馬鹿じゃダメだからなあ」
「はは、まったくだね」
うん、リューゼの言う通り馬鹿では意味が無い。力を持て余して利用されたりするのがオチのような気がする。それは日本でも同じだったではないか。いいように利用される……器用貧乏とはそういうところがある。
「わたしももっと反撃出来たらよかったなあ」
「あれは向こうが上手だったわ。多分誰がやっても同じだったと思うわよ。ラース君もたまには失敗するだろうし、誰も責めないわ!」
「う、うん。ありがとうマキナちゃん」
「ラースも落ち込んでじゃないわよう? 最後、あるんだし♪」
マキナやヘレナも言葉をかけてくれ、俺は嬉しくなり気合を入れる。
「よし!」
「きゃ!? びっくりした……」
「あ、ごめんルシエール! 次、頼むよ!」
俺が頬を叩いて気合を入れると、ルシエールがびっくりしていた。俺は詰め放題競技に出るルシエールに激励をかける。
「うん! 練習の成果、見せるね! みんな驚くかなあ?」
「余裕の一位で静まり返ったりしてね」
「もう、そんなこと言わないでよー」
俺がルシエールと話をしていると、ジャックが来て声をかけてくる。
「はは、いつも冷静なラースが気合を入れるのは珍しいなぁ! こりゃ、他のクラスが可哀想になるぜ……」
「ちょっとみんなに元気を貰ったからね。勝ち負けはどっちでもいいかなと思っていたけど、こうなったら一位を目指そう。協力しても勝てないってことを見せてやらないとね? とりあえず他のクラスには近づかないでおこう。詰め放題なら叩き落されるかもしれないし」
「「おおー!」」
[次は詰め放題競技ですよぅ! 選手はフィールドにお願いねぇ]
「出番だ、ルシエール、ノーラ、頼んだ!」
「はーい!」
「頑張ってくるね!」
<我もここから見ているぞ>
サージュや俺達に見送られ、ふたりが出ていく。さて、他のクラスはどうしてくるかな……?
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