第百二十七話 動き出す各クラス


 次の競技は魔物名前当てという変わった競技だ。去年には無かった競技なので、どういった形で行われるのかがまったくわからない。

 なので対策として、イラスト付きの図鑑を読むというくらいしか無かった。

 他クラスも似たようなもので、テントを見ると紙を見ながら名前の再確認をしているようだった。


 「これなら魔力も体力も使わないし、少し楽が出来そうだね」

 「ウルカは特に競技をしてきたばかりだからいいね」

 「ん? 僕は全然元気だよ? ねえ?」

 「あ、そう……」


 ウルカは俺には見えない何かに話しかけるウルカは鼻歌交じりにフィールドへ向かっていく。


 「あの子、変わったわね」

 「うん。【霊術】が嫌で仕方なかったって感じだったもんね、でも今はそれが他の人と違うのが嬉しいみたい」


 マキナとルシエールが俺の横に立ってウルカの背中を見ながら言うので、俺も頷いて口を開く。


 「自信がつくのはいいことだよ」

 「ふふ、それをつけたのはラース君だけどね?」

 「え?」

 「ルツィアール国で、アンデッド相手にウルカ君を連れてきたのはラース君じゃない。で、レイナさんとテイガーさんを呼んで解決に導いたんだもの。自信がつかないわけないわ」


 マキナがルツィアール国での一件でウルカを連れだしたことを言い、続ける。


 「ラース君もみんなの力になっているって自信を持ってもいいと思うわ。私だって、せ、聖騎士部の敵討ち……嬉しかったし……ギルド部もラース君がギルドに出入りしていたから話が早かったんだしね」

 「……ありがとう」

 

 真っすぐ見てくるマキナに気恥ずかしくなって目を逸らす。


 「あー! マキナちゃんが抜け駆けー」

 「ち、違うわ、これはお礼よ!」

 「むー」


 ルシエールとクーデリカに詰められマキナがじりじりと下がっていく。俺は微笑ましく思いながら、自分のことなんだよなと少々申し訳なく感じてしまう。

 そんなことを考えていると各クラス揃ったらしく、ジャックとノーラの声が聞こえてくる。


 「いっぱいだねー!」

 「まさか一斉にやんのか? ポイントどうなるんだろうな?」

 「本当だ……ポイントが二倍とかなら他のクラスに逆転のチャンスもあると思うけど……」


 するとそこで実況の声が聞こえてくる。


 [さて、お集まりいただいたのは一斉にやるからではありません! 今年初競技ということでルール説明を行うためです!]

 [それでは、どうぞー]


 ベルナ先生が合図をした瞬間、目が細く、笑顔の優しい体の大きな男性が何かを抱っこしてフィールドに歩いていく。


 [はい! 今回登場していただいたのはテイマーのボロッソさんです! 彼がテイムした魔物の名前を当てていただくという競技になります!]

 [学院長がお願いして、隣の領『フォッグ』から来ていただきましたぁ]


 その瞬間パチパチと拍手が鳴り響き、ボロッソさんが手を上げて応えていた。学年ごとに二匹ずつとかでも結構魔物の数が必要だけど、それに対応するくらいテイムしているなら名のある人なのかもしれない。


 「わああああ! あの子グマさん可愛いよー!」

 「まだ小さいけど、あれも魔物なんだよねきっと」


 動物大好きのノーラが興奮して飛び跳ねる。ややもすれば抱き着きに行きかねない勢いなので俺はルシエールに頼んで抑えてもらう。


 [それでは一人目だけその場に残ってくださいねぇ。残りは横で見ておいてくださいー]


 Aクラスはまずヨグスが答えるので、ウルカが下がる。五人だけが残ると、もう一つのルールが提示された。


 [位置につきましたか? さて、これは対抗戦……答える方法ももちろん対戦方式! 今立っている白い線。そこが定位置で、答えが分かったらボロッソさんのところまで行き、直接ボロッソさんに答えを言ってください!]

 

 うーん、体力は使わされるのか。まあ魔力じゃないからまだいいか……? いや、妨害をしてはいけないとは言っていないから油断できないか。

 俺がどうやってヨグスにそれを伝えるか悩んでいると――


 [では競技の方を始めましょう! まずはボロッソさんが抱いている可愛いクマちゃん、デッドリーベアの赤ちゃんからです!]

 [あ!?]


 あ!? やらかしたな!? 珍しく慌てた声で小さく声を出し、バスレー先生の袖を引っ張って揺さぶる。


 [そ、それはまずいですよバスレー先生!]

 [ん? あたし今何か……? え? 魔物名前を言った? あたしが? ははは、まさか! ……え? マジ……? あ、学院長、いい笑顔ですね! ……減給? ちょ、嘘ですよね!? な、なんですかあなた達! 離しなさい! いやあああああああ]

 

 「あれで大臣だったのか……?」

 「いや、ここに居るということでお察しなんじゃないかな……」


 男の先生に両脇を抱えられ退場していく後ろ姿に同情はできない。ポカンとするヨグス達。


 [えー、それではしばらくわたし、ベルナが実況を続けますね! すみませんボロッソさん、他の魔物をお願いできますか?]


 ベルナ先生がそう言うと、ボロッソさんは指でわっかを作りオッケーだと笑う。次に出て来た魔物から本当のスタートだ。

 

 そして出て来たのは、またノーラを喜ばせるような小さな可愛い猪の魔物だった。


 [さあ、分かるかなぁ?]

 「もちろんですよ!」


 先生が言うと同時にヨグスが走る! だけど、Dクラスのチルア、だっけ? が追従する。


 「ここはもらうわ!」

 「僕も負けられない、だから大人しくしてもらうよ<ウインド>!」

 「わぷ!? ず、ずるくない!?」


 [いえ、今は亡きバスレー先生は、ルール説明で妨害してはいけないとは言っていませんからセーフです]

 

 「ありゃ!? そうなんだ! くっそー!」

 

 チルアは悔し気な声を上げるが、ヨグスが『ヘビーボア』という正解を当ててまずは正解。その後も色々な魔物、それも比較的弱そうなやつらが次々と登場し、合計十匹の魔物が登場。

 ヨグスは最初の一匹は良かったものの、妨害ありきのためそれ以降が伸びず一匹のみであった。他はBクラスが三匹、C、D、Eが二匹ずつでAは残念ながら最下位だった。


 「くう……」

 「気にすんな! ウルカいけーー!」


 がっくりと項垂れるヨグスだが、ここは仕方ない。ウルカが挽回してくれると思っていたら――


 [おや、Aクラスへの風当たりが強いですねぇ! やはりポイントを取っているクラスを潰しておきたい、というところでしょうかぁ]


 「【霊術】で……!」

 「おっと、させないぜ!」

 「き、君たちのクラスもポイント取れないだろこれじゃ!」

 「なあに、どっかでいただくさ。少なくともAにこれ以上ポイントを取られちゃたまんねぇからな」



 と、露骨に妨害をしてきていた。結果はウルカも最下位で1ポイント。計2ポイントしか取れなかった。ポイントは結構僅差になってきた気がする。

 ちなみに上級生の魔物は本気で怖そうな魔物が続々登場し、観客や生徒を沸かせていた。


 「ごめんー……」

 「すまない……」

 「いいって、いいって! いつもうまくいくとは限らないってティグレ先生も言ってるし、ここから勝つために残った俺達が頑張るんじゃないか」


 俺がそういうとリューゼが肩を叩いてニッと二人に笑いかけていた。ヨグス達は困り笑いで頷き気を取り戻してくれた。するとヘレナが自信満々の顔で口を開く。


 「そうよう♪ 次はアタシのダンス競技、ふっふっふ、絶対に勝つから安心して♪」

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