第八十五話 一件落着?
「う、ぐぐ……」
「き、気持ち悪いー……」
「ひ、久しぶりにひどい目にあった気がするわ……」
「……」
<す、すまない……人間を乗せて飛んだことが無くてな、加減などがわからんのだ……>
サージュが町より少し離れた場所に着地し俺達に謝罪する。ぺこぺこと頭を下げる仕草がかわいらしいのだが、俺達はそれどころではなかった。いわゆる乗り物酔いというやつで、俺のイメージではすぃーっと飛ぶもんだと思っていたんだけど、翼をはばたかせるときに思いのほか上下の動きがあって揺らされた。
「まあ、荒事に慣れてないとこういうのはきついよな」
「な、なんでティグレ先生は平気なんですか……うぷ……」
「俺はどんな場所でも戦えるように訓練しているからなあ。ほら、しっかりしろ」
ティグレ先生がベルナ先生を介抱しているのを横目に、俺はみんなを介抱する。荷物の中に入れてあったシートを広げて呼ぶ。
「ジャック、マキナ、ちょっと横になりなよ。ほら、兄さんとノーラも」
「うう……ラースはなんで平気なんだよ……」
「俺もあまり平気じゃないよ……空を飛ぶから少し慣れているだけだよ」
「あ、ありがとう……うぇ……」
母さんもシートの上に座り、ほう、と息を吐いて薬をみんなに渡し始めた。酔い止め……ではなく、リラックスできるハーブを調合したお茶みたいな薬だ。
「ああ、ありがとうございます」
「マリアンヌ様のお薬は効きますからねぇ。助かります」
「気分を落ち着かせるのはどんな状況でも必要だからね。念のため持ってきておいてよかったわ!」
他にもリューゼに使った増血剤のような薬や、傷薬、風邪薬に胃薬などなど……母さんはどういう想定しをして持ってきたのか分からないものをたくさん持っていた。
「さて、サージュはどうしようか?」
<ん? 我も行くぞ? 友達とは一緒に行くものではないか?>
「いや、その体じゃ無理だって。あー、でも庭に居させてもらえるか聞いてもいいかもね」
「オラも聞くー! ……うぷ……」
そんなこんなで山から戻ってくる騎士団一行が戻ってくるのを待つ。月が少し高くなったころ、馬車が数台向かってくるのが見えた。
「やはり速いですわね。待たせて申し訳ありませんわ」
「いや、それはいいです。が、そろそろ子どもたちにも飯を食わせてやりてぇ。で、サージュのことなんだが……」
そこで俺と兄さん、ノーラが声をあげる。
「すみません、どこか広い場所にサージュを置いてもらえないでしょうか? 山へ帰ってもらうのもかわいそうで……」
「オラ、ちゃんとお世話するからお願いしますー!」
「お願いします!」
そこに続けて、横になっていたジャックとマキナが上半身を起こして口を開く。
「離れない方がいいなら俺、いますからお願いします! 飯抜きでもいいから……」
「お友達を一人にしたくないんです」
するとシーナ様がくすくすと笑いながらジャックとマキナの頭を撫でてから言う。
「ふふ、そうね。折角お友達になったんですものね。ね、ヴェイグ城にある訓練場なら入るんじゃないかしら」
「そうだな。サージュ殿、好奇の目にさらされるかもしれないが、どうだろう?」
<いや、我は自分で自分のことできるぞノーラ……。ん? ああ、我はそれで構わぬぞ、手間をかけてすまぬな>
「流石はレイナ姫が好きだったドラゴンさんですね。本当、人間みたい。それじゃ、行きましょうか」
「騎士たちは数名、訓練場の様子を見に行ってくれ」
「「「承知しました」」」
ヴェイグさんの指示で総勢50名以上の騎士達が一斉に動き出し、兄さんがポカンと口を開けてその様子を見ていた。
「すごいなあ。僕の【カリスマ】もああいう風になるのかな?」
「兄さんのはもっとすごくなると思うんだけどね。俺達で練習してみたら? ギルド部の討伐依頼とかでさ。年上だし、みんな言うこと聞いてくれるよ」
「あ、いいかもね。手伝ってもらおうかな。……うーん、騎士もいいなあ」
兄さんがマキナみたいなことを呟いたけど、兄さんには父さんの後を継いでほしいなとは思う。
「うー……まだ揺れてる……」
「ははは、ドラゴンを止めて疲れたのかい? ほら、おぶってあげるよ」
「あ、ありがとうございます……」
ふらふらと歩いていくみんなを騎士達が背負ってくれ、みんなで笑いながら城へと向かい、サージュはふわっと浮いて訓練場に案内され、一旦別れた。
そしてグレース様を先頭に再び謁見の間へ戻ってくると、そこにはまさかの人物がいて、俺とティグレ先生とベルナ先生が目を丸くして驚いていた。
「あ、あなたはフリューゲル様……!?」
「ど、どうしてレフレクシオン国の大臣がここに……」
「あ、国王様と一緒にいた騎士さんもいるんだ!」
フリューゲルさんは俺達に気づくとにやりと笑い、騎士さんたちと話し始める。
「学院の教師が誘拐されたと学院長から連絡があってな。そこのティグレ君が辞表を出して出ていったとも聞いて、ここへ来たのだ。ベルナ先生が姫だったとは驚きだったがね」
「俺達は護衛だな。この前はみっともないところを見せてしまったから、今回は力になれないかと思って来たんだよ」
「その様子だと、問題なかったらしいな?」
「一応――」
俺達は経緯を話すと、今度は国王様が口を開く。少し苛立った様子と気になることがあるといった感じが入り混じった複雑な感じだなと思う。
「すまぬグレースよ、シーナとベルナともども無事で何よりだった。その、ドラゴンとやらは問題ないのだな?」
「はい、お父様。騎士団はヴェイグ含め大怪我のものも居ましたが、命を落としたものはおりません。過去にドラゴン……サージュと接していた人間であるレイナ姫のおかげでしょう。それと、そのドラゴンと友達になった勇敢な子供たちに感謝のため、食事会を開きたいのですがいかがでしょう。少々変わった趣向ですが、訓練場で」
シーナ様がにこやかにそう言うと、国王様が渋い顔をする。フリューゲルさんたちをチラチラ見ているところを見ると、ここで聞きたいことがあるが彼らには聞かれたくないといった様子だ。
「……わかった。では、準備する間シーナとグレース、ベルナとヴェイグに話がある。後でルチェラの部屋へきてくれ」
「わかりましたわ。ベルナも良い?」
「……わかりました。それじゃあみんなを休ませていただけますか?」
「はあ……他人行儀なのはそろそろやめて欲しいですわ。ま、いいですわ! わたくしにお任せなさい」
グレース様は呆れながらも笑い、ベルナ先生も少し微笑んでいた。俺達の学院に戻ってくれるみたいだけど、今後は他のお姫様とも仲良くなって欲しいなとも思う。
「へへ、お城のご飯楽しみだな! 俺も腹減っててさ!」
「俺もだよ……魔力を使いすぎた……」
「ふふ、いっぱい食べましょうね」
マキナが嬉しそうにそう言って歩いていくと、後ろでフリューゲルさんたちが呆れたように口を開く。
「はあ……しかしドラゴンと友達とは……学院の子達は侮れんなあ……」
「いいところどころか驚かされてばかりですね。ラース君も凄いですが、他の子も――」
「ああ。これは将来が楽しみだな」
クラスメイトが褒められるのは嬉しいと感じながら食事会を待つ俺達であった。
――しかし、食事会を前にサージュとレイナさんをめぐる話はまだ終わっていなかった。
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