第四十五話 魔物討伐 スライム編!
「町の外って初めて出たわ」
「うう……だ、大丈夫……ラース君が守ってくれる……」
「はっはっは、私が守ってやるから安心したまえ女の子達!」
そんなわけで町の外に出た俺達。前にミズキさんと一緒に出てきた場所と同じで、広々とした草原である。
「スライムはこっちの足と地面の振動で位置を把握してくるから迂闊に近づいたらダメだからね?」
「さすがラース君。覚えていたか! その通り、スライムは近づきすぎるとこちらに気づく。だからジャンプして一気に潰しにかかるんだ。上からの攻撃には弱いからな」
「はーい!」
「わ、わかりました!」
「俺は遠くから魔法で援護する形にしようかな?」
そんな話をしていると、草むらの陰からピンク色のスライムが飛び出してくる。直後、マキナとクーデリカが俺の背中に回り込んでくる。
「……いや、いいんだけどさ」
「お手本……そう、お手本が見たいわ」
「うんうん」
「ふむ、では私がやろうか?」
ミズキさんが剣を抜いて言ってくれるけど、これは俺の、いや俺達の依頼だ。なるべく手は借りないに越したことはない。
「いや、ここは俺にやらせてください。危なかったら助けてくれるとありがたいです!」
「そうか? では、私は見ていよう」
「ふー……」
俺は一息吐いてからスライムに目を向ける。さて、流石にレビテーションで飛ぶわけにはいかないので、ここは魔法がいいと思う。だけど、魔法はベルナ先生でトレーニングができているから、ここは剣で戦って【器用貧乏】の糧にしたい。
「よし……って、そうだった……」
「どうしたのラース君?」
「あ、いや、俺って木剣しか持ってなくて……」
「なら私のを貸してあげるわ。わくわく」
「……ありがとう」
剣を持っていなくて意気込んでいた自分が恥ずかしくなり、顔が赤くなるのが分かる。とりあえずマキナが鉄製の剣を貸してくれたので、鞘からすらりと抜いて構える。距離は三メートル……進行方向はこっちじゃないのは確認済みだ。
「……!」
俺は一気に距離を詰め、ジャンプする! スライムは踏み込んだ足音でこちらに気づくがすでに俺は空中。そして着地と同時に剣を一閃。
ぶじゅる……
スライムは嫌な音を立て、核を残して地面に染み込むように消えた。俺は核を拾って、汗を拭いながらみんなの下へ戻る。
「ふう……上手くいったよ。こんな感じで倒すんだ」
「へ、へえ、それくらいなら私でも出来そうね!」
「で、できるかなあ……」
「まあ、最初はだれでも失敗する。服が焼かれるかもしれないが、命に関わる前に助けてやるから安心するんだ」
「ミズキさん……は、はい! わたし頑張ります!」
ミズキさんに憧れているクーデリカに鼓舞され、一歩前に出る。手にはマキナの持っていた剣より短い、ショートソードが握られていた。刃はきれいだけど、柄などは結構年季が入っている。お父さんのお古かな?
そう思っていると、クーデリカはスライムを見つけて突撃を始めた。そして――
「とおお!」
「おお!」
「あ、あれ?」
……低い! ジャンプが低すぎてスライムの目の前に着地してしまう。その瞬間、スライムの色が変わり、ぷるぷると震えだした。あれ、攻撃の合図か!?
「クーデリカ! そのまま刺すんだ!」
「え? あ! うん!」
ぷしゅる……カラン……
「はふ……はふ……や、やりました!」
「少し危なかったが、スライムには一気に接近して倒すという基本ができていたから大丈夫だろう。色が変わって攻撃をしてくるまで間がある。無理だと思えば回避してやり直せばいいんだ」
「は、はい! ありがとうございます!」
ミズキさんにアドバイスを貰い、クーデリカは深々と頭を下げてお礼を言う。驕らなければ成功体験というのは自信につながるからいいね。でも、クーデリカには先ほどのジャンプで一つ試して欲しいことを思いつく。
それは後に取っておいて、次は――
「ふー! ふー!」
「マキナ、力が入りすぎだから……聖騎士部で訓練しているんじゃないの?」
「……新入生は体力づくりが基本だからって対人戦とかはしてないの……魔物なんて戦ったことないし……」
鼻息を荒くして目にうずまきを作っていたマキナをなだめると、口を尖らせてそんなことを言う。ノーラにあっさり負けてたし、実戦経験はないのかもとマキナにアドバイスしてみることにした。
「マキナは足が速いし、サッと行ってスパッと切ることができるかも? ジャンプして近づくのは距離を詰める間に気づかれるからだけど、マキナなら気づかれる前に目の前にいけるんじゃないかな」
「なるほど……それならできるかも……」
剣を片手に持ち、マラソンのスタートのようなポーズで構えると、
「……合図してもらっていい?」
「はは、いいよ。……ゴー!」
ビュン!
マキナは合図とともに駆け出していく。見立て通り、やはり一気に間合いを詰めることができていた。
「いいぞ! いけ!」
「はああああ!」
ずるっ……
「「あ!?」」
俺とクーデリカの声がハモった。あと一歩というところでマキナはつんのめったからだ。そのまま空中に身を投げ出したマキナは剣を取り落とす。
「や、やああああ! 【カイザーナックル】!」
「拳!?」
べしゃ!
ぶじゅるるる……
「いやああああああ!?」
まさかのスライム相手に拳を突き出し、接触した瞬間スライムは爆散した。剣で切ればスパッと斬れるけど、拳だと衝撃で『つぶれて』しまったため飛び散ったのだ。
「だ、大丈夫かいマキナ!」
「マキナちゃん!」
「ううう……気持ち悪い……」
「はっはっは、これも経験だな。……ほら、核だ。これは君が倒したスライムだ」
ミズキさんが微笑みながら、べしゃべしゃになったマキナに核を渡す。すると、
「やった……やったぁあ!」
と、満面の笑みで汚れたのも気にせず大喜びしていた。
これで調子に乗らなければいい騎士になりそうだなと思いつつ、俺達は依頼であるスライムを数匹倒して凱旋するのだった。
◆ ◇ ◆
「……リューゼ君、何してるんだろう……」
「さあね。でも、昨日の今日だもん。あれに関することじゃないかしら?」
「い、いいのかなあ……勝手なことして。ラース君に言った方が……」
「馬鹿ね、そんなことしたらあの時聞き耳を立てていたのを知られちゃうじゃない。何か掴んで恩を売る……もとい、協力してあげるのが友達ってもんよ!」
「そうかなあ……あ、見てお姉ちゃん!」
ルシエールとルシエラがリューゼの後を追い、とある場所でリューゼがさっと身を隠すのが見えた。そしてその建物に入って行く人影を見て、ルシエールが呟く。
「……あれって、リューゼ君のお父さん?」
「あそこって病院よね? どこか具合が悪いのかしら?」
その後、しばらくしてからブラオが満面の笑みで病院から出てくると、リューゼが再びその後を追う。リューゼは父親をずっと尾行していたのだ。
結局、ふたりがまっすぐ屋敷に戻ったところで追跡は終わり、ルシエラが頭の後ろで手を組んで口を開く。
「あー、何も無かったわね。こう、秘密の倉庫で密会! みたいなのを期待したのに」
「何も無かったらそれはそれでいいじゃない。リューゼ君、昨日の話はまだしてないのかもしれないしね」
「それもそっか! リューゼが独自で調べている可能性もあるってことか。また調査ね!」
「大丈夫かなあ……」
ルシエールは張り切る姉を見て不安を隠せないのであった。
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