第8話 旅の始まり

「で、今どこに向かってるんだ?」


 オレとルッカはハッピーラッキーランドを出て、隣接するオレアレス国外れの森を歩いていた。

 隣を歩くルッカのポニーテールが揺れている。出発前にママさんがルッカの瞳の色と同じライラック色のリボンで結んであげていた。

 ママさんはオレにはハッピーラッキーランドのオープンチケットをくれた。「帰ってきたら今度はランドを楽しんでね」と言って手作りのお守りの中にそれを入れて渡してくれた。

 パパさんはゲートまでハピラキうさちゃんを連れてきてくれ「気を付けてな」と見送ってくれた。


 ほんの何時間か前のことだが随分昔のことのように思える。


 慣れない幸せに心がふわふわしたままルッカについてきたものの、ここはどこで、オレたちはどこに向かっているのだろうか?


 ルッカはうふふと笑い、振り向いた。


「それがさ、迷子みたい。ここどこ?」


 先程までポニーテールをルンルン揺らしながら歩いていた人間から出てくる言葉とは到底思えない。オレは思わず足を止めた。


「知らねぇよ! 自信満々に歩いてただろ。えっ…いつから?!」

「んー最初からかな? いつもならもう着く頃なんだけど、なかなか森から出られないね!」


 ルッカの話によるといつも気の向く方へ歩いていくと自然と目的地に着くらしい。目的が分からなくても目的地に着くと目的のほうが寄ってくるそうだ。どんだけ人生イージーモードなんだ。


 ルッカが突然「あっ」と声をあげた。何か閃いたらしい。


「森から出られないってことは森が目的地なんだ!」

「違うだろ! オレのアンラッキーとお前のラッキーが相殺してるからその手は使えないんだよ。その証拠に、いつものオレなら鳥の落とし物を3度は浴びていてもおかしくないが、今日はまだ1度も浴びていない」

「シン…どんな人生送ってきたんだよ」


 ルッカの目が可愛そうな人を見る目になっている。自分が不運なのは分かっていたが、改めて他人からそんな目で見られるととっても惨め。オレは空を見上げてため息をついた。いつのまにか陽が傾き始めている。


「…今日はもう休める場所を探そう。陽が沈みだしたら暗くなるのは早い。渇いた木の枝を集めてくれ。焚き火につかう」

「はーい。シンは遭難慣れしてるね。さっすがー!」

「うるせぇ」


 ルッカの無駄口に睨みを利かす。だけど、このやり取り、実は少し楽しい。誰かと一緒に旅をしているなんて変な心地だ。しかも、不運に巻き込む心配をしなくていいときた。今のところルッカにもオレにも不運は起こっていないように思う。


 本当に「普通」に生きられる方法が見つかるかもしれない――。


 ふと頭を過ぎったその考えに、思わず口元が緩んだ。

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