第7話 幸せ自慢
自分でも思い出したくない記憶を呼び起こしながら不幸話を語り終え、オレはルッカたちを見回した。いつの間にか3人寄り集まって、こちらをチラチラ見ながら小声で話し合っている。
(「この家族はどちらだろうか」)
この不幸話を聞いた人間の反応は2パターンだ。オレのことを被害妄想の激しい頭のおかしい奴だと忌避するか、オレの話を信じて身の危険を感じ忌避するか、である。
どちらにしても結果は同じ。オレは3人の脇をすり抜け扉へ向かった。
外へ出ようとドアノブに手を伸ばす。しかし、腕を掴まれ阻まれた。
「ボクも一緒に行くよ!」
「はぁっ?!」
ルッカがオレの腕を強く握りしめている。こんな展開想定していなかった。腕を掴まれたまま、こいつ何言ってんの?という顔でパパさんとママさんを交互に見たが、2人とも爽やかな笑顔で見返してくるだけだった。
「いやいやいや! オレの話聞いてた?? オレみたいなやつ気持ち悪いだろ! 普通関わりたくないだろ!」
腕を外そうと必死にもがくが、ルッカは思いのほか手強い。正直痛いくらいに掴まれている。こっちは怪我人なんだから少しは手加減してほしい。
「うん。急に自分語りし始めたから、ちょっと引いた!笑」
ルッカはニコニコしている。笑顔で超辛口。なんだか恥ずかしくなってきた。恥ずかしさと怒りで顔が熱くなる。
「あんた達に迷惑かけたくないんだよ! オレの不幸に巻き込みたくない。オレだって一応つらいんだ!」
そう、オレだってつらいのだ。自分のせいで自分以外の人が不幸になるのが一番つらい。その不幸になる人がオレに優しくしてくれた人であればなおのことつらい。だからオレは、いっそ死んでしまいたい。
オレは抵抗するのを諦めた。どうせ誰もオレの言葉になど耳を貸さない。ルッカはオレの手を取り、宥めるように両手で包み込んだ。男同士で気持ち悪いことをするやつだなと思ったがされるがままだった。きっとそのうちどうしたって分かる。オレの不幸が本物であると。
ルッカが笑いかけてきたので、鼻で笑ってやった。ルッカはさらにニコニコした。
「ボクは不幸にならないから安心して。だって、ボクはキミとは真逆の生まれながらのスーパーラッキーボーイだからね」
「?!」
ルッカは「ちょっと待ってて」とオレの肩を軽く叩いた。パパさんとママさんの元へ駆けていき、「行ってくるね」とハグをしている。3人とも穏やかな笑顔だ。
「どういうことだよ?」
思わず疑問が口をついて出る。ルッカは両親に抱きついたまま振り返った。
「キミとおんなじだよ。いや、真逆か。ボクは2択は必ず当たるし、ピクニックでは晴れるし、卵は双子だし、温泉は堀り当てる…歩くラッキーみたいなもんだよ!」
今にも「えっへん」と言いそうな口ぶりで幸せ自慢するルッカ。
思い返せば、この3日間オレにも何も不幸は起きていない。普通3日もあれば、小指を角にぶつけたり、りすが鼻にドングリを詰めて呼吸困難になったり、正体不明の虫に噛まれて唇が腫れたりしていてもおかしくない。
オレみたいなのがいるのだからルッカみたいなのがいても不思議ではないのか…?
アンラッキーとラッキーが出会うと相殺されるのか…!?
顎に手を当て考え込んでいると、いつのまにかルッカが下からこちらを覗きこんでいる。ビックリした。
「本当はどこにも行くあてなんてないんだろ」
ギクッ!
すっかり見透かされている。
ルッカは「やっぱりね」と瞳を輝かせた。
「だったらさ、これから一緒に旅に出ようよ。ボクの幸せとシンの不幸せを半分こにする旅」
ルッカのニコニコの笑顔は眩しく、とんでもなく圧が強かった。だから、不覚にもコクリと頷いてしまっていた。
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