当日知ってしまった後輩の疑惑に驚愕した。
麻衣と空が俺のマンションに引っ越して来たのは入学前の3日前。
麻衣だけでなく空まで合格したことに本来なら驚くべきだが、俺が引っ越す際の騒動の条件に受験が含まれていたのでそこまで驚いていなかった。なにより条件をクリアした時点で空の合格はほぼ間違いないと思っていた。……複雑な気持ちがないと言えば嘘になるが。
そして、2人の引っ越しが決まり妹が俺の部屋に住むことになったが、麻衣まで便乗しようとしたので大変だった。妹が同じ部屋でも問題ないが、いくら意識してなくても後輩とまで同棲……じゃなくて居候させるつもりはなかった。
安い家賃で住めるマンションなのにリビング以外にも部屋付きなのだ。やはり個室は狭かったので自分1人の際はリビングを寝床にしていた。
結局隣の部屋が空いていたので、お隣さんとして住むことになったが、後輩の料理技術を考えるとウチに住み着く可能性が高そうだった。
次の日以降は街中や学園島の案内をした。
騒ぎに巻き込まれることなく案内も平穏に済んでいたが、前日に部屋でやったパーティーに便乗した麻衣が……。
「さり気なく泊まり込むとは……確信犯か」
「いえいえ、偶然ですぉー。気が付いたら寝ちゃってましたぁー」
「リビングじゃなくて俺の部屋でか?」
「はぁい。センパイ目覚めのちゅープリーズです」
「そうかそうか」
――絶対に狙っていたな。この後輩……。
せっかく綺麗に整えたばかりのベットが寝転がる後輩によってメチャクチャである。どうでもいいが後輩の格好は白のTシャツ1枚。サイズの大きい俺のTシャツを勝手に使って膝まですっぽり入っているが……。
……なんか視界の端に履く系の布らしき物が放られて、よく見ると胸元のちっこいのが浮き出ている。
この後輩、下半身だけじゃなくて上半身も防具なしか。ていうか下半身なんてめくれた時点でアウトだろう。
「――わぷ!?」
正体知らない男子が見たらドキッとしそうな格好であるが、欠伸する寝ぼけ顔にしか見えない俺にはイラとする光景でしかない。
まだ寝ぼけているようだから目覚まし代わりにその辺のタオルを叩き付けた。マヌケな声が聞こえたが知らん顔で部屋から出る。
「はぁ、さっさとリビングに来い。遅れて朝飯食えなくても知らんからな」
「ちょっ……待ってくだ……!? って、可愛い後輩に対してこの扱いはなんですかぁ!?」
可愛い後輩? そんな娘いたか? 視界の外にいるのは生意気な後輩しかいないのだが?
何か喚いている後輩を無視して、置いていた鞄を持ち部屋を後にするが、入学式初日から騒がしい予感しか感じなかった。
「にしても酷い格好だったな。向こうでもそうだったが」
「ん……下着?」
何か引っ掛かったぞ? どうしてか理由は分からず、つい考えているとリビングの方から声が掛かった。
「――あれ? お兄ちゃん、マイちゃんは?」
「二度寝したいらしいから放置した。朝飯は適当に置いといて」
「はは、お兄ちゃん……」
呆れながらリビングに戻ると俺と同じ制服姿で伸びたポニーテールを揺らした空が待っていた。その上にエプロンを着ているのは一緒に朝食を作ったから。空も俺と同じで普通に料理が出来ていた。
「……」(ジィ……)
「お兄……ちゃん?」
しかし、エプロンや制服越しでも分かるくらいの膨らみが備わった素晴らしい胸元。大きさ以上に柔らかいのは度々引っ付かれている身としてよく知っており、風呂場で脱いだ姿も見ているので重力に負けてない豊満な膨らみも知っていた。……絶対に言えませんが。
「っ……お兄ちゃんのえっち」
「――!? ち、違っ!?」
「視線がお思いっきり胸に集まってた。いくら何でも見過ぎだよ」
「……スマン。ちょっと気になることがあって……」
何故か後輩の下着から妹のお胸に移ってしまった。引っ掛かったからって普通にガン見はダメだろう。……これも異世界の弊害かな。向こうではもっと露出とかお胸とかデカかったりとエロい格好の人が多かったから、3年も過ごした所為で変な耐性が付いていた。
「気になる?」
「あ、いや、さっき麻衣の奴を起こした行った時に……」
なんせ異世界だからかパンツは普通に履いているのに、どうしてかブラを付けてない人が多くて緩々な胸元な人が…………っ! ちょっと待て!?
「――ハッ! そ、そういうことか!」
「お兄ちゃん?」
違和感の正体に気付いた瞬間、絡み合っていた謎が全て解けて久々に平静な顔が崩れてしまったが、理解した途端に維持出来なくなってしまった!
さっき目撃した落ちているパンツとペッタンな胸元から浮き出ているアレ。あの2つヒントだった。……情けないことにまだ混乱しているが、つまり麻衣の奴は!
「よくよく考えたらアイツにブラは要らなかった!」
「久しぶりの驚き反応だけどそこに突っ込んでいいの!?」
気付いてしまった事実に愕然としていると空がビックリしたような声を出してくる。
「いや、気付くべきだったんだよ空! お兄ちゃんアイツも普通にブラしてるって思っていたけど違ったんだ!」
「お兄ちゃん落ち着こう! 久しぶりの真剣モードなお兄ちゃんだけど、親友のブラの有る無しを語ってる真剣なお兄ちゃんなんて嫌だよ!?」
お兄ちゃんが嫌だと!? 遅めの反抗期というヤツか! 高校に進学してお兄ちゃん離れが始まったというのか! あのお兄ちゃん大好き過ぎて親どこか親友にまで心配されていた空が……。
「なるほど……これが妹に嫌われる兄のスタートか」
「全然違うよ!?」
「え、違うの?」
力強く否定されてしまった。つい喜びそうになってしまうが、兄離れ出来ないままだと思うと少し心配にもなってしまう。……決して彼氏を作れというわけではないが。
って、それよりも麻衣のノーブラ疑惑だ。流石に普段は何か変わりの物を付けていると思われるが。
ようやく冷静になった俺は、叫んで疲れた様子の空の頭を撫でながら説明する。
「悪かったな。部屋で麻衣がノーパンノーブラだったから」
「お兄ちゃん……それだとマイちゃんがただの露出好きな女の子に聞こえちゃうから、もう少し説明が必要だよ」
「しかし、何年も向こうで一緒にいたのに気付けなかったとは……。観察力や洞察力には自信があっただけにショックだ」
「そろそろ帰って来てお兄ちゃん。マイちゃんもそろそろ来そうだし、そんな話が聞こえたら絶対怒ると思うよ?」
ですよねー。俺もちょっとふざけていた自覚はあるしそろそろ危うい感はあった。
冷静に忠告してくれる妹の助言に素直に従って食卓に移ろうと……。
「セーンーパーイィィィ……」
…………朝食にしたかったが、背後からリビングに現れたのは阿修羅……じゃなくて後輩様から発せられる強烈な闘気が俺たち兄妹の動きを止めた。流石『魔導王』と言うべきか眼力だけで俺達を止めて見せるとは。
「今ここで『奥義級の魔法』を使ってもいいんですかぁ〜? ていうか使ってやるからその場に
冗談言っている場合ではなかった。敬語じゃなくなったところで攻撃的な魔力の粒子が見え始めていた。本気に近いヤツだ。
着替えの制服も用意していたか、学園の制服に着替え終えていた麻衣。ボサボサだった薄茶髪も整えており、空と同じで伸びた髪が怒りで揺れているようだった。
「うん、とりあえず冷静になろう。朝食でも取りながらまずは話でも……」
「朝から人の胸を話題したセンパイなんて滅びればいい!」
そんなわけで朝から軽い運動が始まりました。幸い外にはバレずリビングも被害はなかったが。いやー朝から元気な後輩だぁー。
「この貸しは大きいですからねぇー?」
「了解ー」
入学早々に遅刻してしまう前に何とか怒りを抑えてもらったが、後輩の強制権限で何故か貸し扱いとなってしまい『重い貸しだなぁ』と頭を抱えたくなった。
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