#043 収穫の季節②
「大変です! ダイン義賊団を名乗る団体から襲撃予告が来ました!!」
「あぁ、そうか」
書類仕事に勤しんでいるとティアナが"お手紙"を届けに来てくれた。
「そうかって」
「まずは内容を確認してからだな」
「あ、はい。お願いします」
「はい、お願いされました」
手紙の内容は、思った以上にろくでもないものだった。その内容を求めると。
①、自己紹介。正義のために悪事を行い、世を正す。名前にダインとついているが、ミスリードの可能性が高いだろう。
②、ドルイドで行われている悪行の批判。孤児を集めて不当労働させているなど、証拠も無しに適当な容疑が羅列され、最後にその全ては村長の責任であると締めくくられている。
③、犯行予告。なんでも明日、同志を連れて100人で新区を襲撃するらしい。完全な犯罪行為なので、返り討ちにして報奨金に変換しよう。
「ダインさんが生きていて、仕返しの為に先導しているのでしょうか?」
「今更だな。まぁ、ダインと言うより、ルードに目を向けさせたいんじゃないか?」
「え? あぁ……」
もしダインが生きていたとしても、殺されたフリをしていた俺を狙うのは筋違い。真犯人は領主で間違いないだろう。そう考えると、故人の名前を使う意味も見えてくる。つまり領主は、イーオンではなくルードに目を向けさせ、"見つけようもない"人物を犯人に仕立て上げ、時間を稼ぐ策の様だ。
「しかし、イメージ戦略で来られたのはマズいな」
「えっと、そうなのですか? 言っては何ですけど……」
新区ではなく、村の旧区画では元より『俺を悪者にして村民の溜飲を下げる』戦略をとっている。ティアナの言う通り、元々悪者にしている俺を批判しても今更感はある。しかし、そこはアドバーグさんやナタリー姉さんとの擦り合わせを通して上手く調整している。つまり『秋までは様子を見てやるか』くらいの感覚で落ち着くよう図らっているのだ。
そんな中、悪い噂が流れてきて、村に実害が出れば……村長である俺に何らかの制裁や、勝手な行動に出る村民が出ないとも限らない。個人的に一番嫌なのは『村民が署名を集めて領主に村長の調査を要請する』パターンだ。これをやられると、領主は喜んでガサ入れにやってくるだろう。
「俺は
「その、今からでも身の潔白を証明しては如何ですか? アルフ様の考えも理解していますが、皆、少なからずアルフ様を悪者にする今のやり方は、その……」
「何度も言っているが、そのつもりはない」
「そ、そうですか……」
慕ってくれているのは嬉しいが、それでもこればかりはキッパリ断る。悪い方もそうだが、村民が善意で勝手な行動をとるのも同等以上に困る。例えば、村民が領主邸に抗議にでも行こうものなら、間違いなく難癖つけられて反逆だの処刑だのと言う話に発展してしまう。
国は、領主の身勝手な行動を許さない。しかしそれは『国 対 領主』の構図であるからこそであり、『領主 対 村民』では基本的にどんな理不尽であっても、国は領主を味方する。これは憲法が貴族の特権を保証しているからであり、それは当然、下位の法律や人権よりも優先される。つまりこの国では『国>貴族>平民』の構図を守ることが"正義"なのだ。
「それより、とりあえず直近の問題を対処しよう。本当に賊は明日来るのか? 本当に100人なのか? そもそもその集団は実在するのか? つまるところ、村がどの様に対処するかだな」
考えられるのは3つ。
①、ただの嫌がらせ。狼少年の様にヤルヤル言ってヤらず、対策を怠るまで同じことを続ける。
②、真実。ダインの件は別にしても、義賊と言うからには何かしらの矜持があり、守るところは確り守ってくるかもしれない。
③、嘘を隠す真実。コチラを出し抜くために真実を伝え、その中に嘘を紛れ込ませておく。この場合だと、明日ではなく今晩攻め込んで来るなどが考えられる。
「そうですね……。まずは、冒険者の方に哨戒をお願いするとかですか?」
「とりあえず、ノエルさんやエスティナ様も呼んで相談だな」
「はい! すぐに用意します」
ついに領主は、能動的な策を仕掛けてきた。後手に回り、領主の手の上で踊らされている様で気分が悪いが、何より厄介なのは対策に俺や村のリソースが割かれる点だ。(もともと対策はとっているので)これなら経済活動に専念できる分、予告無しで攻めてこられる方が助かる。
*
「しかし、本当に100人も来るのか? 軽視するつもりはないが、纏まった戦力を行き成り100人も用意するのは、容易い事では無いぞ」
冒険者ギルドの会議室に主要な面々が集められ、対策を議論する。
村の基本防衛を担当するエスティナ様は、犯行予告は"ブラフ"の可能性が高いと見ているようだ。
「そう言えばノエルさん、ルードでチンピラを
「荒くれ者に声をかけている"先導者"は実在するようです。しかし、容姿などの証言に食い違いが多く、特定は上手くいっていないのが現状です」
「変装がよほど上手いのか……相手を考えると複数犯の可能性もあるな」
「現状では何とも。本格的な調査も出来ますが、それよりも村として直近の対応を議論する必要があるかと」
ハッキリ言ってしまうと、領主の命を受けて捨て駒を集めている先導者の捜索には力を入れていない。一応、冒険者ギルドを通して情報を収集してもらっているが、捜索クエストなどは依頼していない。何せ黒幕は貴族なので、危険で、料金も高くなる。下手に領主を刺激して、それを口実に村に監査を送られても困るので、表向きにはむしろ不干渉を促している。
「そう言えば、賊が実際に村を襲ったとして、商人ギルドなどから報奨金は下りないんですよね」
「そうなりますね。むしろ、商人ギルドに代わって村が報奨金を出す流れになります」
「それは、困りましたね」
ナタリー姉さんが心配するように、金銭面の負担もバカにできない。馬車を襲う賊を生け捕りにした場合、1人100万弱の収入になるのに対して、今回の賊は、むしろ出費につながる。
「一応、生け捕りならば犯罪者奴隷として販売は可能です。しかし、100人が一度に攻めてきた場合、はたしてそこまで余裕があるか……」
「馬車が狙いで無いだけで、賊が商業の妨害を目的としている可能性が高いのは事実であろう? 領主に了解させた50万の報奨金は請求できるんじゃないか?」
「現状では何とも。もちろん請求はしますが、難癖をつけられて却下される可能性が高いかと」
「まぁ、そうであろうな」
賊1人につき、村から10万の報奨金を出す必要がある。一応、生け捕りにできれば奴隷商に売って20万になるので、差し引き10万の黒字となる。しかし馬車もそうだが、手柄が冒険者の場合、収益の半分が冒険者の取り分になるので、無理をして生け捕りにするリスクを考えると微妙なところだ。兵士に関しては半額を支払う義務はないが、それでも何らかの形で報奨金を出しておかないと士気にかかわるので似たり寄ったりとなる。
「支出に関しては、基本的に払うしかないですね。幸い、森には警戒用の結界があります。アルフさん、今回の賊に対しても結界は有効に機能すると思われますか? 相手に、魔法使いが居たとしても」
「それに関しては、100人全員が魔法使いでもない限りは大丈夫でしょう。それに、結界が無効化されても次は目視の警戒があります。この2つを無効化して村内に入るのは不可能ですね」
「相手が武装集団なら、身なりはそれなりに目立つものとなる。暗殺専門部隊が投入される可能性もあるだろうが……それなら予告を出す意味がますます持って失われる。私も、その見解には賛同しよう」
結局のところ、村長として俺に最終決定権があり、100人の賊の戦力を見定め、対応を指示しなくてはならない。残念ながら現状では(突然の犯行予告ということで)『ほぼノーヒント』であるが"軍"と呼べる規模の"動き"が確認できていないのは確かだ。ハッキリ言って十中八九ブラフなのは確かだ。問題は残された1・2割の真実。それに対してどこまで資金と、村のリソースを割くかが問われている。
「そうですね。現状でも襲撃に対する備えは充分に出来ています」
「「…………」」
無言で各々が頷く。実際、"警戒"に関しては下手な砦よりも充実している。あとは戦力配分だろう。
「よって、対応は警戒レベルを1段階引き上げるだけに留めます。防衛は現状のままで、非番の兵士は飲酒などを禁止して不測の事態にいつでも出動できるよう、待機して貰います。冒険者に関しては、個人の判断で待機して、状況に合わせて加勢してもらう形でお願いします」
「まぁ、妥当なところだな」
「そうですね。異論はありません」
「相手の目的を考えれば、1回で終わるとは思えません。初回なので警戒はしていますが……以降は状況を見ながら低い警戒態勢で、長期戦を見据えた形になると思います。……。……」
現状では何とも言えない事も大きく、大きな反対意見も無く、会議は細部のすり合わせへと移行した。
こうして村は、犯行予告を受け、対応を固めた。
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