#029 閉ざされた開村②
「わざわざ行商に来てやったのに、なんで関税を取られなきゃいけないんだ!」
「こういうのは、発展のためにも村が負担するべきだろ!?」
「アナタ方の言い分に議論の余地はありません。どうぞ、納める気が無いのならお引き取りを」
「「なぁ!?」」
村の入り口に設けられた関所で、詰めかけた商人が何の躊躇もなく一蹴されていく。
「くっそ! 辺境の農村がイキりやがって……」
「おいおい、正気か? 行商人の心象を損ねたら、こんな陸の孤島、アっと言う間に滅びるぞ!」
「そうですか。では、次の人、どうぞ」
「「ちょ!!?」」
取り付く島が無いとは、まさにこの事だろう。
対応するのは、鎧を脱ぎ、役人のフリをするエスティナ様。本来、連れてきた兵士もいるので彼女が直接、対応する必要は無いのだが……何を思ったのか、わざわざ面倒な商人の相手を買って出てくれている。真意は測りかねるが、ここは一応、フォローも兼ねて声をかけておく。
「食い下がるようでしたら、出禁にしてもらって構いませんよ?」
「「なっ!?」」
「では、それで。アナタ方は無期限で取引禁止とします」
「「ちょ、待ってくれ!!?」」
本来、地方の村は弱い立場であり、商人からしてみれば、ここまで無下にされるのは想定外だろう。しかし、彼らには言い分に反して"引けない理由"がある。そもそも彼らは商会所属の商人で、ドルイドとイーオンが揃って関税を見直したことを知らないはずは無い。知った上で、あえて儲からないドルイドに来て、知らないフリをしているのだ。
そう、彼らは領主の手先であり、目的は取引ではなく、業務妨害や関税の撤回となる。もちろん彼らには、領主との直接的な繋がりは無いだろう。しかし、彼らが所属している商会は違う。そもそも、領主が逐一、末端に細かな指示を出すなんて事はありえない。最初に各商会長を呼び出し、村への妨害を指示する。指示を受けた商会長が秘密裏に対応を協議して、その結果がコイツラなのだ。
「これ以上は業務妨害と見なし、拿捕します」
「ふざけるな!!」
「コッチだって生活がかかっているんだ、はいソウデスカって引き下が……」
「そうですか、では……」
「「!!?」」
わざわざエスティナ様が受付を担当した理由はコレだ。合図に合わせて、控えていた兵士が一斉に飛び出し、問答無用で商人を捕らえる。この後は、このまま商人を拘留。そして所属する商会に謝罪と引き取りを"貴族の署名付き"の公文書で通達する。
こうなると、地方の弱小商会は従わざるを得ない。もちろん、商会も領主に泣きついて、せめてもの抵抗策を講じるだろうが……どう転んでも今後、領主の息のかかった商会商人が村に近づくことは無いだろう。
「これで"しばらく"はゆっくり出来ますね」
「無理じゃないですか? 表からのアプローチを断たれたら、今度は裏から手を回すはずです」
「……………………」
「その、あとは任せましたよ、みたいな目で見るの、止めてくれません?」
こうして、村に出入りする商人は、劇的に減った。
*
「ケッ! 気に入らないな……」
「建物は新しいけど、これ、俺たちを実験台にするって事だよな?」
「ありえない! 私たちを何だと思っているの!?」
「は~ぃ、見習い冒険者のみなさ~ん。もう少し、言葉遣いと"立場"を理解しましょうね~」
額に青筋を浮かべたノエルさんが案内してきたのは、冒険者ギルドの試験運用に伴って集められた"見習い"冒険者。つまり、まだ正式な冒険者として認可を受けていない、冒険者のタマゴたちだ。
「やっぱり、アイツラの受け入れは、拒否した方がよかったんじゃ……」
「それはそうだろうが、村としては気にいらないからってイチイチ拒否していられないだろう?」
「それはそうだけど……」
そして、その光景を眺める俺とルーク。視線の先には、見覚えのある顔が並ぶ。それもそのはず、彼らは鉱山都市ルードの孤児であり、成人直前の男女だ。それを"見習い"の名目で前倒しで冒険者の訓練を受けさせ、成人に合わせて正式な冒険者として世に出てもらう事を目指す。
「改めて施設の概要を説明します」
「そんなの、どうでもいいんだよ! 早く魔物と戦わせろ!!」
「それよりも昇格試験だ! 俺の強さなら直ぐにでも……」
「あぁ~、ダメダメです。アナタたち、根本的なところから"冒険者"と言う職業を分かっていないようですね。まず冒険者は……。……!」
勘違いされがちだが冒険者の仕事は、魔物を殺す事ではなく、強さでランク(格付け)が決まるわけでもない。冒険者として重要なのは、クエストを正しくこなす『知識と信頼』だ。
魔物は冒険者にとっては"資源"であり、乱獲は同業者に最も嫌われる行為だ。もちろん、個人的に戦闘訓練を積むことは必要であり、魔物を狩ることで得られる収入は冒険者にとって無くてはならないものだ。
しかし、それはあくまで個人として行動する場合であり、その場合でも、土地の規則や環境を守る配慮が求められる。逆に言えば、それが守れない者はただの荒くれ者であり、冒険者ギルドが『身分や権利を補償するにあたいしない』と言えよう。
「はっ! そんな綺麗事でメシが食えるかっての!!」
「これだから頭の中、お花畑の連中は嫌いなんだ。そんなヌルい考えで……」
スラム暮らしで苦労したガキが言うと、もっともな気もするが……それとこれとは話が別。例えば冒険者が、魔物憎しで森に火を放ったり水源に毒を流されたら、アっと言う間に世界は滅びてしまう。それが無くても、武装した集団が好き勝手に街や国境を行き来していたらスパイし放題で、魔物よりも先に国が滅んでしまう。
なにより、それでは冒険者を支援する冒険者ギルドが組織として成り立たない。
「はぁ~、わかりました。それでは、特別講師の方と模擬戦闘をして、その結果を見て判断する、っと言うのはどうですか?」
「お! 話が分かるじゃねぇか!!」
「ふっ、本当は目立ちたくないんだが……これは早くも俺の実力が世に知れわたってしまうな」
しかし、ノエルさんもこの手の輩の対応は覚えがある。この後、イキった見習いたちは……師匠にボッコボコにしごかれる事となった。
「まぁ、アイツラに領主の息がかかっているのは、まず間違いないだろう」
「じゃあ!」
「しかし、それは他の村民も同じだ。特別な訓練を受けたわけでもない素人に出来る事は限られる。それこそ、下手に策を講じなくとも、訓練が嫌で勝手に逃げ出すんじゃないのか?」
「あぁ……」
もちろん、何かあれば厳しく対処するつもりだが……それで片っ端から排除していては組織は纏まらない。泳がしておける所は泳がして、利用できるなら利用する。それに、アレでもアイツラは新区の経済を回す立派な"金ヅル"だ。軽々しく手放すのは、惜しいものがある。
こうして、新区の冒険者ギルドは"見習い限定"でサービスを開始した。
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