#024 動き出す新区③

「それで、ドルイドの件はどうなった?」


 空気もメッキリ冷え込み、屋敷から望む景色から、1つまた1つと色数が減りつつあった。


「ははっ。依然として若長の消息は不明ですが……どうやら村の開発は"偽の"若長を代理にたてているようです」

「偽とな?」

「如何にも。開発は調査の通り、ドルイドの入り口、関所の予定地付近に建設されているようで、そこに労働力として集められた孤児の一人を若長と偽り、建設作業を指揮させているようです」

「はっ? 孤児風情に指揮などできるのか??」

「あくまで、監視役程度かと」

「だろうな」


 新区の一次開発の情報は、即座に領主に伝わっていた。


「しかし問題なのは、開発区……新区と呼ばれているようですが、どうやら王都の最新の技術を取り込み、順調に建設作業が進んでいるようです」

「それは誠か? いくらアレがケールズ魔法学園に通っていた才子だとしても、最新の建築技術なぞ、お門違いもいいところであろう??」

「ははっ。確証はありませんが、どうやら若長は、王都で知り合った者を何人か事前に村に呼んでいたようです。もともと若長は、学園卒業後に村の再開発を計画していたらしく、ホープス商会や冒険者ギルドの後ろ盾を取り付けていたようです」

「まったく、小賢しい真似を……」


 しかし、情報伝達能力の低いこの世界では、いくらお金や人材を投資しても情報の"正確性"には限界がある。例えば執事は、料理の話も聞いてはいたが、それを主に伝える事はしなかった。他にも『王都の最新技術』も具体的な内容など、細かい部分での穴は数え切れないほど存在していた。


「それで、新区に関しては如何なさいますか?」

「村人の掌握は上手くいっておるのだな?」

「ははっ。予定通り、抗議活動を継続させております。現在は村をあげて、粗末な代理貨幣を発行し、それで苗などを村人に購入させる経済対策をとっておりますが……抜本的な解決には、とてもとても」

「なるほどな。それなら抗議活動はそのまま継続だ。引き続き、その場しのぎの対策を指示させ、アレは悪徳村長として徹底的に糾弾させろ。新区に関しては……まだ穏便な調査と妨害で構わん。ホープスや冒険者ギルドに、コチラの動きを悟らせるな」

「ははっ! 主様の御心のままに」





「すいません。作業まで手伝ってもらって」

「いいのよ。どうせ指示を出すだけで暇だったんだから。それに……アルフ君の申し出に賛同したのは、他ならぬ私の意志、なんだから」


 時は、昼食後の休憩時間。私はノエルさんと2人でゆっくり話をするため、建設中の冒険者ギルドに来ていた。


「そう言えば、アルフ様って冒険者でもあるんですよね? やっぱり、凄いんですか?」

「フフフ、そうね。まぁ、未成年だからランクは"F"、見習いなんだけど、戦闘技能とサバイバルの知識は現役冒険者を軽く凌駕しているわね」


 本来、成人年齢である15歳以上でないと冒険者にはなれない。そこからクエストを地道にこなし、ランクを上げていくのだが……(冒険者に限らず)"見習い制度"と言うものがあり、つまりは試験をクリアすれば前倒しでその職業の見習いになれるのだ。


「その、強いのはルーク君からも聞いているんですけど……あまりイメージが無くって」

「あぁ~、わかる。確かに、見た目は全然そんな感じじゃないわよね」

「アルフ様は、見えないところで本当に努力をしていて、それでいて全然、表には出さないんですよね」

「フフフ、そうね」


 徐々にノエルさんの表情が『ニヤニヤ』って感じになってきた。


「いや、これはその、アルフ様には恩があるし、その、少しでも恩返ししたいなって、だからそう言うのじゃ!」

「別に、私はイイと思うわよ?」

「そんな、私なんて……」


 そう、アルフ様からすれば迷惑な話だ。私は娼婦で、強制はされていないけど、少なくとも、もしもの時のためにはソッチ系の仕事も任せられるようにって思いもあって私を雇ったんだと思う。ルーク君が、もしもの時には人殺しも出来るよう訓練を受けているように。


「まぁ、そう言うのは焦って良いことは無いから、ゆっくり考えて、距離感を掴むところからやっていけばいいんじゃない?」

「そう、ですね……」

「そうだ、話は戻るけど、孤児を集める話って、どこまで進んでいるの?」

「あぁ、はい。そっちはイマイチって言うか、その、孤児にも派閥みたいなものがあって……」


 今回の二次募集で、過激派に属している子供たちは、ドルイド入りを拒否した。一応予定では、(アルフ様が言うところの)"色が悪い"子たちに関しては、開発作業から外し、冒険者見習いの仕事をしてもらう予定だった。村には既に冒険者が在籍しており(アルフ様の師匠である)ザナックさんに指導を任せ……もし、そこでも素行に改善がみられないなら、ドルイドに関する仕事からは完全に切り離す事になっている。


「そうなんだ? 普通に考えて、仕事だけじゃなくて、身元まで保証してもらえるようになるんだから、断る理由は無さそうなものだけど」


 まったくもってその通りだ。まぁ、お人好しが損をする世界で暮らしているので、アルフ様の言うことを信じれない気持ちは分かるけど。


 因みに新区の冒険者ギルドは、見習い冒険者の育成を専門に扱う予定で、一般冒険者を受け入れる予定は無い。まぁ、来られても高ランクのクエストが無いので滞在する意味はないが……それ以上に問題なのは領主の妨害対策だ。最悪の場合、領主の私兵を送り込まれる可能性もある。


「そこはまぁ、時間をかけて、私たちの活動を理解してもらうしかないかと」

「そうね。まぁ、お互いがんばりましょ」

「はい、よろしくお願いします」




 そんなこんなで、不安は拭いきれないものの、新区の冒険者ギルドは、着々と完成に近づいていた。

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