#021 新たなる村長"アルフ"⑥

「13人(いや、14人)か……」

「まさかこの距離で気づかれるなんてな。正直、侮っていたぜ」

「だが、それを口にしてしまうところは、まだまだ素人だな」


 ぞろぞろと姿をあらわす賊たち。


「ご忠告、どうも」


 俺から言わせれば、包囲して即座に集中砲火しない時点で減点評価だ。誇りを重んじる戦士でもあるまいし、一方的に攻撃するチャンスをフイにする時点で、練度と言うか、真っ当な訓練を受けていない事は明らかだ。


 とは言え、賊の装備は"賊"と言うには整いすぎている。そもそも、ここは領主が住まう街・イーオン近郊の林。そんな無法が許されるはずはない。しかし、それが許されていると言うことは……つまりそう言うことだ。


「気にくわないな。まぁいい」


 そう言ってリーダー格と思しき男が片手を掲げる。すると背後から弓使いがコチラに狙いをさだめる。


「あぁ、少しいいか?」

「なんだ、今さら命乞いか?」

「いや、逆だ。今、俺は凄く機嫌が悪いんだ。だから……」

「やれ」


 俺が言い終わるのを待たずして矢が放たれる。しかし、その尽くが、地へ、木へ、宙へと軌道を変えていく。


「風の魔法か……」

「どうだろうな」


 賊の言葉を聞き流しながら、俺は自作の魔導書のページを読み進める。


「まぁいい。それならば近距離戦で始末するまでだ。者共! 同士討ちに注意しつつ、波状攻撃で攻め立てろ!!」

「「おぉ!!」」


 相手の動きは確かに統率がとれており、並みの冒険者なら即座に命を奪われていただろう。しかし、所詮は『訓練を受けた素人』だ。ハンドサインを駆使して無言で連携する用の事も無ければ、高価な魔法装備で完全武装しているなんて事もない。


 魔法使いに、迂闊に距離をつめるバカが、早くも罠にかかる。


「しまっ!」

「マズい! 対地魔法だ!!」


 突然"地面に"沈み、身動きがとれなくなる賊たち。


「その歳で、すでに二重詠唱ダブルかっ!?」

「いや、ソレはただの遅効性設置魔法だから。その程度の知識も無いのか?」

「ぐっ!」


 流石に全く知らないって事は無いだろうが、俺が複数の魔法を"同時に"使ってくることは想定していなかったのだろう。本来、同時に複数の魔法を発動させる"多重詠唱"は、二重で王国軍内定レベル。三重ともなれば騎士にだって内定が見込めるレベルだ。いくらケールズ魔法学園に在籍しているとは言え、2年の俺が、すでに卒業レベルを超えているとは思いもしないだろう。


「狼狽えるな! 足をとられた者を踏み台にして、トラップを飛び越えるんだ!!」

「ちょまっ!!?」


 流石は無法者、仲間も平然と踏み台(物理)にする。


 ともあれ、動き自体は予想通り。俺は懐に忍ばせておいた小さな"鉄球"に魔法をかけ、飛び掛かってくる賊たちめがけて投げつける。


「ほらよ!」

「なっ!?」

「ぐふっ!!」

「ただのツブテ! 狼狽えるな!!」

「ツブテをバカにするものじゃないぞ? 当たり所次第では、充分、人も殺せる」


 撃ち落とした2人がほどなくして動かなくなる。


「クソッ! 魔法妨害はどうなっている!?」

「やっています! 手ごたえもあるので、確実に効果は出ているはずです!!」

「では、なぜ……」

「よそ見は良くないぞ」

「しまっ!?」


 鉄球の大きさはパチンコ玉ほど。それを投げ、風の魔法で加速させる。魔法はあくまで加速に使っているだけなので、魔法妨害だけでは、当然止まらない。


 ほどなくして、姿をあらわした13人が地に伏し、動かなくなる。


「逃げなかったのは褒めてやるよ。まぁ、正気で挑んできた場合に限るが」


 指揮官の荷物から、赤い包み紙が零れ落ちる。これは、まず間違いなく"狂戦士薬"だろう。狂戦士薬は、15年前の戦争で使われた精神刺激薬の一種で、効果はその名の通り、使用すると死に対する恐怖が感じられなくなる。


「…………」

「それで、その状態から、どうするつもりだ?」

「!!」


 次の瞬間、死んだはずの指揮官の首筋から、触手のようなものが襲い掛かってくる。


「無駄だ。寄生虫風情が、宿主無しで人に勝てると思うなよ」

「ジィ………」

「死んだか」


 指揮官は魔物に寄生されていた。ゲームや映画だと、強力なミュータントに不意打ちされる流れなのだろうが……オーラで生物全般を感知できる俺に、その存在を隠すのは不可能。前もって手足を切り離し、周囲の死体も遠ざけておいた。


 出来れば騎士団にでも引き渡して、本格的に調べてもらいたいところだが……流石に今はそれどころでは無いので、仕方なく焚き火にくべて焼却処分する。一応、オーラを見れば生死は判断できるので、死体をそのまま保存して引き渡す手段もあるが、それは止めておく。


 この魔物は、間違いなくヤバい。それは戦力とかそう言った話では無く、生息域に関してだ。迂闊にコイツを表に出せば、国際問題にだってなりかねない。




 こうして、俺は背負いたくない世界の闇を覗き見しつつも、王都へと向かった。

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