#009 失われた栄光・鉱山都市ルード⑧
「もう、大丈夫そうですね」
「死体の回収は、諦めたようだな」
気配が離れたのを確認して、ようやく俺は血溜から解放される。
「アルフくぅ~ん!!」
「ぐふっ! ちょ、姉さん……」
ナタリー姉さんの強烈なタックルに思わず(物理的に)息がつまる。
「ふぇ~~ん、怖かったよ~」
「あぁもう、姉さんも"血糊"まみれに……」
「それより! ケガしてない!? ちょっと見せて!!」
強引に俺の服を剥ぎ取る姉さん。そして、僅かな金属音を響かせ、背中から生えていた刀身が地面に落ちる。
「しかし、相変わらず器用だな。錬金術で背中から剣を生やすなんて」
「師匠も、お手数をおかけしました」
そう、俺が『村へ帰る最中、野盗に襲われて死ぬ』のは自作自演のお芝居だ。現在、俺は領主に命を狙われている。残念ながら証拠は無いが、学園を中退して村に戻る際と、嘆願書を王都に提出しに行った行き帰りの合計3回も野盗に扮した殺し屋に襲われている。幸い、刺客は全員返り討ちにしたが……流石に毎回、相手にしていられないので一芝居うつ事にした。
「気にするな。俺もヤークト家には因縁があるからな……」
そう言って大剣を乱雑に馬車に投げ込み、愛用の武器を装備しなおす師匠。
この大剣使いに扮したオッサンは、俺が"師"と仰いでいる"ザナック"さんだ。一応、職業は冒険者なのだが、すでに現役を引退しており、王都の冒険者ギルドで
因みに、現役引退していると言っても戦闘技能もぶっ飛んでいるので、そちらも全く心配はない。師匠の通り名は"
「ところで師匠、あの3人は?」
「え?」
「あぁ、見たいと言うから連れてきた。まぁ、これも社会勉強だな!」
「え? え??」
気配を探れない姉さんが、キョロキョロと周囲を見渡す。
「とりあえず、馬車を出そう。おい! お前ら出発するぞ!!」
「えっと……その……」
「村長、様。その、お疲れさまです」
「お疲れさま、です」
「あぁ、積もる話は馬車でしようか」
現れたのは、ドルイドの村人であり、見習い冒険者の男女と、唯一村で保護している孤児の少女だった。
正直なところ、この作戦は極秘なので村人には見せたくないのだが……師匠も長年の勘と言うか、人を見る目は信用できる。まぁ、言いたい事が無いと言えば嘘になるが、知ったからにはコキ使ってやるまでだ。
「その前に、一つだけ聞かせてくれ!!」
見習い冒険者の男が声をあげる。
「手短に済むなら」
「
視線の先には、冒険者の亡骸が2つ。この2人は、古くから村に在籍していた冒険者であり(学園に居たので詳しくは知らないが)2人の師匠にあたる冒険者だ。
「師匠、説明も無しですか?」
「そういうのは
「はぁ~、わかりました。まず、確定しているだけでも……」
俺も信じたくはないが、2人が領主から金を受け取り、俺の動向などの情報を流し、村の物資を横流しして小遣い稼ぎをしていたことは事実のようだ。まぁ、相手は領主なので『家族を人質にとられて仕方なく』などの理由があったのなら、殺すまではしなかったのだが……。
「そこまでしなくても! オジサンたちだって話せば分かってくれたかも知れないのに……」
「因みに、あの2人は昔から森の資源を勝手に採集して村外の商人に売りさばいたり(密猟)、稼ぎを上げるために村の近くに強い魔物を誘き寄せたりしていた疑いもかかっている」
「「えぇ……」」
「他にも、村には何人か領主に村を売っている者がいるようだ」
村人にとっても領主は宿敵であり、表向きは村人全員が反領主派に属している。しかし、実際には二枚舌で、保身のために裏で領主にゴマを擦る者がいるのが現状だ。
しかし、それを表立って裁くことは出来ない。もしそんな事をしたら、本当に家族を人質にとられる者や、拷問を受けて殺される者が出てしまう。
「そんな。それじゃあ一体、何を信じて村で暮らせばいいの……」
「簡単な事だ。例え裏切られたとしても……受け入れられる相手"だけを"信じればいい」
「「…………」」
別に俺がやったことを美化するつもりは無いが、真相を知っている2人は遅かれ早かれ消される運命にあった。それこそ、今日、ダインに殺されるのもシナリオ通りだったのかもしれない。それなら、公の死因は『野盗との戦いで死亡』にしてやるのが、村長として、俺が2人にしてやれる、せめてもの
こうして、俺たちは複雑な空気を抱えたまま、村へと帰還した。
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