11.秘密三
何やら興味深そうに
袴もつけず長着のままで
「ただこれは、他言無用のことにお願いしたいのです。」
「構いませぬよ。どうせ話をするような知人もいないですからね。」
多少なりとも真面目くさって言うことを、
だが、この
居住まいを正すと、
「実のところ私は隠密の者なのです。」
隠密とは端的に言ってしまえば忍びの類であった。
大名や富豪などの権力を持った者達が、情報を探らせたり市中に虚言を流したり、謀略に使われることが多い。
暗殺などの荒事に使われる者もいたが、その殆どは情報を扱うだけのものが多く、
「格好からして、そんな気はしておりましたよ。」
さっぱりと
「うえ?そうですか?」
「どちらかと言えば、あからさまにそんな感じがしておりましたが。隠しているおつもりでしたか?」
「おつもりでしたが……。」
「そうでしたか……では、コホン。いやはや、隠密だったのですか。思いもよりませんでした、驚きですねえ。」
わざとらしく
「あの……少し馬鹿にされている感じがするのですが。」
「しておりませんよ。それより、隠密だからどうだというのです?」
事もなげな様子で
「実はさる密命を受けていまして、一つの文を名古屋のとある人物へと届ける最中だったのですが、その道すがら、丁度、河原で
言いながら
傷を負った時のことを思い出して、僅かに痛みぶり返したのか、どこか辛そうに顔を顰めている。
「背負っていた
「途中で力尽きて上から落ちてきたという所でしょうか。」
言いながら
「そこら辺の記憶はありませんが、多分そうなのでしょう……で、あのぉ、話を聞く気あります?先ほどから、何とも詰まらなさそうな顔をして……。」
その態度が気になって思わず
「聞いては居りますよ。面白くはありませんが。」
「聞きたいと言ったのは
じとりと非難めいた目をして、
ただ、
そんな
「
「いきなりなにを……。」
急に変な事を言われてしまい、
「真面目に話をしているんですから、茶化さないでください。」
「それなりに真面目に言ってるんですがねえ……。まあ、
「そこは重要じゃないんですよ。続き聞いてください。」
「そうでございますか。承知いたしました。」
どこか皮肉めいて言う
「それで、少なくとも、私が運んでいる文を狙われたと言うことは、誰かに情報が漏れていたのでしょう。名古屋の城下町まで急がねばならないのですが、これから先も襲われる可能性があります。」
「それはそうでしょうねえ。先ほどの複数の男に襲われたと言う話が本当なら、他にも手勢が居ることでしょうし。」
杯へと再び酒を注ぎながら、それで、と
「私は如何せん腕は立ちませんし、この腹の傷では多少無茶して抵抗するどころか、逃げることも難しいでしょう。そこで
そう言って床に手をついた
そこで
「それはそれは、左様でございますか。」
酷く愉し気な声だった。
待ちに待っていた御馳走が、ようやく目の前に差し出されたかのように、心底愉し気な目をしている。
頭を下げていた
「もし名古屋のその人物の元へと辿りつくことが出来れば、それなりのお礼はお渡しできると思います。ですから何卒お願いできないでしょうか?」
「良いでしょう。」
即答であった。
あまりにも即座に了承されたものだから、
「えっと……本当に良いのですか?自分が言うのも何ですが、行く先も明かさない怪しい話な上に危険な依頼ですよ?」
「良いですよ。良いじゃありませんか。何しろ人が襲ってくるのでしょう?」
「それは恐らく……と言いますかほぼ間違いなく襲ってくると思います。」
「ならば良いじゃないですか。とても良いことですよ。私としては、むしろ好都合と言うものです。わざわざ人が殺しに来てくれるなんて、そうそうあるものではないですからね。
うっすらと目を細め
そうして余りにも酷いことを考えてしまったと
少なくとも、と心の中で
この
そんな
「な、なんですか……。」
僅かに
「どうにも私を見て奇妙を顔に張り付けたような表情をされていらっしゃいましたがね。危ないと言っても、私なんぞはどうとでもなるのですよ。いざとなれば、
「そ、それは確かにそうかもしれませんが……。」
困ってしまうが、少なくとも生きるためではなく酔狂で危険なところに飛び込むような人に
目を閉じて一つ大きく息を吸って、
「危険も含めて自分の
はっきり言えば、そうせねば生きていけぬのだからそうしているのであり、何も好き好んでやっているのではない。危険なことも生きるための手段として割り切っていかねばならないとは思っていた。
さっぱりと言った
「そうでございますか。まあ、ご覚悟なされているのでしたら、それはそれで結構でございます。」
納得したのか
長着の裾がふわりと揺れて太ももが軽く覗いた。
窓の
「ど、どこへ行かれるのですか?」
慌てて
「さあてねえ。話も決まったことですし、風呂でも入りましょうかと思いまして。
そう言って、
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