10.秘密二
「あの……私もここに来て良かったんでしょうか?」
「良いんじゃないですか?とりあえず、ずっと立っているのも疲れましょうし、お座りになったら
空いた掌をちょいちょいっと上下に動かして
「さてさて。それで、どうして来ては駄目ではないかと、そう思われたのです?」
言いながら
何度も握り指が問題なく動くことを確認すると、それで気が済んだのか、
「いえ、私には
「そういうものでしょうかねえ。勝手に私が助けたのですから、
まるでつまらないことを聞かれたとでも言うように
それは自分にとって都合の良いが、本当にそんな都合の良く助けられるようなことがあるだろうかと言う気持ちの方が強かった。
「そんな都合の良いことがあって良いんですか?なにしろ、私には宿代も何も差し出せるものがないぐらいですし……。」
もじもじと指先を重ね合わせ、金がないことを恥じらうようにして
「差し出せるものならあるとは思いますがね。」
窓へと背を凭れかけさせていた
「え……一体何をですか?まさか……。」
するりと舐めるように肢体を上下する
一瞬、
「だ、駄目ですよ……。それは……。」
あまりにも狼狽して、そう言う
「冗談でございますよ。ですが、ありますでしょう?出せるものが。」
妙に意味ありげな声色で、
「えっと……。」
思い当たらずに
「
「そ、それは……。」
急に言い淀んだかと思うと、それ以上
肩をすくめると
「ま、言うておいてなんですけれどね。実際の所、
ひらひらと左の手を宙に舞わして
「対価?いったい何のことでしょうか?」
「先ほど襲って来たあの大男のことでございますよ。あの男は、
言いながら床から片足を離した
「分かりますか……?」
「それはね。それぐらいは分かりますよ、
自嘲する口調でくすくすと笑いながら
それは確かに切り傷を負って倒れていた人間を連れんだところへと、匕首を構えて押し込んできた人間が居たのならば、明らかにその怪我人を追って来たのだと分かることである。
ただ、言ってしまえば、それは厄介ごとでしかなく、それを対価などと言う
「確かに……、あの男は私を襲って来た者です。しかし、一体それがどうして対価になるんでしょうか?あれはどちらかと言えば迷惑の類では?」
思ったままのことを
「迷惑などと、そんなことはありもしませんよ。金も手に入りましたしね。」
懐へと手を突っ込み、
そうして綾絹のような滑らかな声で「それに」と呟くと
「なによりも、私は腕試しで日ノ本を回っていると告げましたでしょう?ただ、何と言いましょうか。何分、
ふふっと軽く笑った
「えっと……ええ……?」
小さく声を漏らしながら、
言ってしまえば目の前の女性が言っていることは、今さっきのように人が斬りたいから厄介ごとを抱えてそうな自分を助けたのだと、そう言う話であった。
端々だけを捉えれば論理はある様に聞こえながらも、人を斬りたいために人を助けたなどと矛盾したことを平然と語っている。
「あの……ちょっと何を言ってるか、意味が分からないのですが……。」
「おや、分かりませんでしょうか?」
あまりにもしれっと言う
「全く……。」
「気が合いませぬね。残念です。」
そう言いながらも、全く残念そうに感じられない様子で
「人が斬りたいというのなら、私を斬りたいとか考えてたりするのでしょうか……?」
聞くに
「襲ってくる気もない者を斬りたくはなりませんねえ。
その言葉に微かながら
ただ、目の前に居るのが頭のおかしい人間であることは間違いなかった。
話が通じるように見えて、折々に倫理観の当てが外れたようなことを口走っている。
そんな人間の言うことを、すんなりと信じることは出来ず、
しかし、とも
少なくとも
なによりも河原の立ち合いや、先ほどの手管を見るに、
覆面の男を斬った手口も鮮やかったが、河原での立ち合いも見事に一太刀で腕に覚えがあるだろう者を斬り飛ばしていた。
さらに言えば、ほぼ手傷を追わずに済ませている。
言葉さえ信じることが出来ればあるいはと、
「あの、
「ええ、
名前を呼ばれたのがなにか嬉しかったのかにこやかに
「
「ほう、それは――」
「ですが、同時に
「ふむ……?」
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