第三楽章(10)
その夜、アパートへの道すがら、徹は頭の中をもう一度整理した。
そもそもこの話は、ギリシャからの帰国便の機内で見た奇妙な夢について、間宮に語ったところからはじまったのだ。徹がその夢を見たとき、無意識に聴いていたのがモーツァルトの交響曲41番だった。それは奇しくも、望が死の直前まで聴いていた曲と一致していた。徹は、そこに偶然では片付けられない運命的なものを感じていた。
(そうだ。もう一度、41番を聴いてみたら、何か掴めるかもしれない……)
そう思い至った徹は、今来た道を引き返すと、繁華街にあるCDショップへと入った。
レジにいた店員に41番について尋ねると、彼女は別の若いアルバイトスタッフに、探してくるようにと指示を出した。徹は、流行歌のラックを見るともなしに見た。上位にランキングしている中には、徹の知らない名前もいくつかある。最近はそれが、曲のタイトルなのか、歌手名なのか区別が付かない。
やがて、彼女は一枚のCDを持って戻ってきて、レジの店員に手渡した。店員は「お持たせしました。ジュピターをお待ちのお客さま……」と、徹の背中に向けて声をかける。
自分に向けられたその声に、徹ははっと驚いて振り返った。その表情の意味が理解できず、店員は不安げに問い返す。
「モーツァルトの41番をお探しでよろしかったですよね?」
呆然と立つ徹の目の前に差し出されたCDの帯には、「交響曲第41番ハ長調・ジュピター」と書かれていた。
(そっ、そうだったのか……)
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