第156話 偽悪役令嬢の警告
最後は俺のハイキックが炸裂し、うつ伏せで地面に倒れた勇魁さん。
気を失っている様子で動く気配はない。
――どうやら、俺は勇魁さんに勝ったようだ。
きっと『がむしゃら戦法』が功を奏したのだろう。
それとも、別な理由で押し切ったってところか……。
俺が息を整えている中、リョウとシンが隠れた場所から出てくる。
「やったな、サキ……やばかったら加勢に入ろうと思ってたけど、その必要がなかったぜ」
「相手のリズムを崩し、あくまで自分のペースで戦う。見事な戦術だったぞ。しかし……あの勇魁さんにしては、らしくない戦いでもあった」
リョウは素直に労ってくれるも、シンからは称えつつ勇魁さんからジークンドーを学んだ立場として腑に落ちない言動も聞かれている。
シンの言いたいことはわからなくもない。
勝った俺でさえも、ずっと違和感を抱いているからだ。
「うっ……うう」
勇魁さんは目を覚ます。
痛みを堪え、必死で身を起こそうとしている。
俺は傍に近寄り、彼の顔を覗き込む。
「だ、大丈夫ですか?」
「神西君か……どうやら、僕の負けのようだ」
「すみません。卑怯っぽい戦い方して……」
「……謝らないでくれ、調子が狂う。あれくらい当然の戦術だろ?」
「はぁ……あのぅ、聞いていいですか?」
「なんだよ?」
「どうして前のように急所を攻撃してこなかったんです? それにジークンドーって、確か投げ技や極め技とかもありましたよね?」
俺の問いかけに、勇魁さんは起き上がり座り込む。
そのまま、ふうっと深く溜息を吐いた。
「――相手にもよるさ。『悪』でない相手にそこまではできない。特にキミ相手じゃ……ね」
基本、天馬先輩と同様に潔く真っすぐで優しい人なのに、どこで歪んでしまったのだろう。
けど『遊井 勇哉』や『王田 勇星』に比べりゃ、まともな人に違いない。
そんな勇魁さんは、俺の傍にいるリョウとシンを見据えている。
「火野、それに浅野君までいたのか? なるほど……本当の親友ってのはそういうもんなのかもなぁ」
言いながら、ゆっくりと立ち上がる。
俺も手加減せず打ち込んだだけあり、ボロボロで相当ダメージが残っているようだ。
足元が相当ふらついている。立ち上がれるだけでも、相当な精神力と言える。
「大丈夫ですか? なんかすみません」
「だから謝るなって言ってるだろ? 本当に調子が狂う奴だな、キミは……」
勇魁さんは苦笑いを浮かべると、フッと真顔に戻り、俺に対して深々と頭を下げて見せた。
「――僕の負けだよ。何から何まで……」
「どうか頭を上げてくださいよ。たまたま今回、俺が勝っただけでしょ? その前は勇魁さんに2敗もしているんですから……」
だからこそ対策も練られたし覚悟も決めた。
それに勇魁さんだってリョウとの戦いで負傷していたし、自分なりに禁じ手を作って戦い方を制限している。
彼が問答無用で非情な男なら、どうなっていたかわからない展開でもあったんだ。
勇魁さんは頭を上げ、俺をじっと見つめる。
傷だらけなのに表情はすっきりとした爽やかさを感じた。
「だが素直に負けは認めよう……もう二度と亜夢に成りすましたりしないし、自己欺瞞の『粛清』もやめる。ミカナにも正直に説明して、これまでのことを詫びるつもりだ……その結果、彼女に嫌われ憎まれようと仕方ない。僕が全て招いたことだ」
「……そうですか。でも勇魁さんなら、いくらでもやり直しができますよ。俺は信じていますから」
勇魁さんの覚悟に俺は称賛の言葉を送った。
本当ならミカナ先輩に黙っておけばいいのに、それを許さない真っすぐさが、この人にはある。
だから余計に、こんな事をした理由がわからない。
いや、きっと本人なりの理由があるのだろうけど……俺はそこまで介入することはできない。
勇魁さんは、またフッと微笑を浮かべる。
「まさか、キミに慰められるとは……あの勝気の天馬が初めて負けを認めさせただけのことはある」
「知ってたんですか? 俺と天馬先輩が既に戦っていたこと?」
「キミらから逃げ帰った後、すぐにあいつからメールが届いたんだ。一応、天馬の中で僕が一番の親友ってことになっているからね」
「勇魁さんは天馬先輩のことが嫌いなんですか?」
「嫌いだね。理由は神西君達だってわかっているだろ?」
ストレートに言い切る、勇魁さんに俺達も思わず頷いてしまう。
確かに凶暴だし、身勝手だし、嫌味なほど超金持ちだし、最悪の三拍子だ。
けど……。
「俺も初めは、天馬先輩のことが大っ嫌いでしたけど、今は割と好きですよ。男気があって、なんかこう『古き良きガキ大将』って感じで――」
「ガキ大将か……ウケるな、それは……ハハハハハッ」
ツボに入ったのか、急に高笑いする勇魁さん。
「本当は天馬先輩のこと好きじゃないんですか?」
「……やめてくれ。亜夢じゃあるまいし」
心なしか、なんか照れているように見える。
案外、本人は気づいてないだけかもな。
「――神西君、僕からも一つ忠告していいかな?」
勇魁さんは真面目な表情で言ってくる。
「はい、何か?」
「……僕は身を引くが、今度は『あの二人』がキミに何かしらの形で仕掛けてくるだろう。『あの二人』こそ、僕と違い完全にキミを敵視しているからね」
「あの二人?」
「堅勇と茶近……僕の協力者だった連中だ」
「協力者? だった?」
俺は浮上した名前より、勇魁さんの言い方が気になる。
「あの二人に見限られていたんだよ、キミに正体がバレてしまったからね……。まぁ、僕からいずれ縁を切ろうと思ってたから結果オーライかな」
勇魁さんは、天馬先輩のこと以上に、その二人に対して嫌悪感を露わにしている。
あえて「仲間」と呼ばずに「協力者」と呼んでいる辺り、天馬先輩が前に話した仲間意識と温度差が激しすぎる。
けど、よくそんなんで高校生活をずっと一緒に過ごせたもんだと思う。
「……友達じゃないですか?」
俺も腑に落ちず、思わず聞いてしまった。
「まさか一番危険だよ、あの二人……特に茶近……僕達の中で一番荒んでいるのかもしれない。堅勇の方がまだ話になるかな……けど中学の頃は最も狂っていたからね」
「狂っている?」
「一度キレたら危険で手が付けられない。それが理由でフェンシング会から事実上の追放を受けたくらいだからな」
フェンシング会?
よくわからないけど、追放されるくらいだから、そんなにヤバイ人なのか?
「茶近は得体が知れず掴みどころがない……それこそ裏で何をしているかわからない。それに多分、古武術を使う。一番注意しなければならないだろう」
古武術? 古武道とも言う伝統的な武道か?
そんな先輩達に目を付けられるって……。
一体、俺はどうしたらいいんだ?
「キミの件は僕にも責任がある……あの二人に関しては可能な限り協力するよ。天馬にも言っておくよ。これまでの事も含めてね」
勇魁さんの言葉に、少しだけほっと安堵する。
だけど『勇者四天王』と呼ばれる先輩のうち、半分が味方になってくれて、もう半分が敵になった構図のように思えた。
どちらにせよ。
これから、より気を引き締めなければならない。
そんな時だ。
「――サキくん!?」
甲高いの声と共に、二人の女子が駆け付けてくる。
ミカナ先輩と亜夢先輩の二人だ。
「あ、亜夢……それに、ミカナまで?」
「ど、どうして二人共……?」
事終えそうだった、俺と勇魁さんはバツの悪さに言葉を詰まらせる。
「アムちゃんから連絡入って、早々にバイトを終わらせてきたの……勇魁、あんたがまさか『悪役令嬢』だったなんて」
「お兄様……ごめんなさい。わたくし、どうしても二人を止めたくて……全てミィちゃんにお話したの」
「いいんだよ、亜夢。丁度、僕も全てを打ち明けることを神西君と話していたからね。いいタイミングだったのかもしれない……これまで悪かったな」
「お兄様……」
「そして、ミカナ……言い訳のしようがない。これまで騙していたこと悪かったよ。どうか煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
勇魁さんは二人に対して頭を下げる。
素直に自分の犯した過ちを認めつつ、ミカナ先輩に詫びて報いを受けることを望んでいる。
ミカナ先輩はどうするつもりだろう?
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