第146話 憂鬱の女神と謎の手紙
~壱角 勇魁side
「――けど、勇魁。ボクはやっぱり神西が目障りだと思うぞ」
堅勇の言葉に、僕でさえも眉を顰める。
「……確かに彼の存在は引っ掛かる。しかし……」
神西君は『善良』とはいえ、僕のミカナに深く入り込んでいるのも事実。
だが確たる動機や根拠もないのに、彼を『粛清』するわけにはいかない。
「俺もケンユに同感だ……天ちゃんが役に立たないなら、もう俺達で動くしかねぇよ」
「待てよ、茶近。美架那の言葉を忘れたのか? 恋愛は別っと言ってたぞ?」
「三美神がいるからだろ? 逆に神西が言い寄れば脈ありって話じゃないか?」
「……そういう考えもあるか」
「ユウちゃん、さっき言ったよな? ミカちゃんと付き合うには覚悟がいるって? それともユウちゃんの覚悟はその程度なのか?」
「違う! 僕だって本気だ……何もしてない神西君に『粛清』は……」
茶近に問われ思わずムキになった。
奴らが恐れている気持ちはわかる。
だが、僕は自分の『正義』に反することに戸惑いを覚えてしまう。
「何もいつもみたいに邪魔者を病院送りにしろっとまでは言ってないよ。ただ、神西に俺らのミカちゃんに近寄るなって警告すりゃいいんだ。それとも平和的に話してみっか? 『そんなの先輩達が言うことじゃない』ってならないか?」
「ボクとて神西は善意でミカナに協力しているとは思っている……こちらから仕掛けてしまえば『悪』になってしまうのはボク達だ。しかしミカナの言動から覚悟を決めなきゃいけない事態のような気もしてくる」
茶近と堅勇に畳みかけられ、次第に僕の中で迷いが生じてくる。
「……わかった。だが少しだけ時間をくれないか? 僕のやり方で彼を探ってみよう。あわよくば警告だけで済むかもしれない」
「ユウちゃん、わかったよ。けどそう時間はないと思うよ。もうじき冬休みに入るからね」
「わかってるよ、茶近……」
「天パ赤ゴリラはどうする? あいつもこのままって感じではなさそうだが?」
「好きにさせておけばいい……どうせ何もできないさ。まぁ暴走するなら、させておけばいい……僕らには関係ない」
そう言った矢先――。
早速、天馬が行動に移そうとしていたとは思わなかった。
**********
期末テストも無事に終わり、俺達は帰宅する。
今回は前と違い、そこそこできたと思う。
麗花達が泊まりに来てくれたことで、より勉強に励むことができたからだ。
強化トレーニングも順調だし、いい事尽くめって奴だな。
彼女達と一緒にいてもなんとか自制しているし、自分のことに関したら至って順風満帆だろう。
――ただミカナ先輩は違うようだ。
あれからLINEで彼女から連絡が来た。
>天馬達とは話をしたから心配しないでね。
アムちゃんの件は、兄の勇魁が私を心配するあまり無理矢理に聞きだして天馬達に相談したことが発端みたい。
勇魁も謝っていたから、どうか許してあげてね。
なるほど、そういう事だったのかっと安堵もしつつも、やはり疑念も残る。
今回のことじゃなく、それ以前のことだ。
あの凶暴なアム先輩みたいな女子は確実に存在する。
あるいは本人なのか……。
俺には何か大切なピースを見落としているとしか思えない。
そして夜、ミカナ先輩が帰ってきた。
普段と違って陽気な歌声は聞かれない。
俺は出迎えてみる。
「おかえりなさい、先輩……」
「ありがとう、サキくん……まだ起きてたんだね? 愛ちゃん達は?」
「部屋にいますよ。詩音がテストでやらかしちゃったみたいで補習っぽいことしてしているようです」
「へ~え、しぃちゃん大変だぁ」
軽く笑顔を見せるミカナ先輩。
感情がなく愛想笑いであると察した。
「ミカナ先輩……天馬先輩達とは?」
「メールで伝えた通り、きちんとお話したよ。サキくんに迷惑は掛からないから安心してね。アムちゃんの件も同じだから……」
「いえ、俺は大丈夫です。でも、先輩……いつもと様子が違うみたいで」
「……うん。天馬達に結構きついこと言っちゃってね……少し自己嫌悪中」
どんな内容だったかは想像できないが、ここまで落ち込んでいる彼女は初めて見る。
やっぱり超富裕層である天馬先輩達との垣根は解消されなかったようだ。
ミカナ先輩の事情を考えれば、そう簡単なことじゃないだろうけど……。
「すみません……俺がきっかけ作っちゃったかもしれません」
「何言ってるのよ! サキくんは1ミリも悪くないでしょ! 全て私が招いたことなんだから! そういうこと言わないでね!」
やたらと彼女に怒られてしまった。
確かにその通りなんだけど……。
俺ってどうも知らない内に色々な男達から恨みを買うタイプらしいからな。
最近じゃ「また、俺やっちゃいました?」って思ってしまう。
次の日。
早朝、ミカナ先輩はバイトに出掛けた。
学校は終業式まで休むらしい。
お母さんも順調に回復しており、冬休みくらいに退院する目途もあると話していた。
俺は納得しつつ、朝の朝食時に愛紗達に冬休みどうするか聞いてみる。
「三学期までオールだよ~」
詩音が答えてきた。
「オールって?」
「このまま冬休みに突入して、三学期までここに泊まるって意味ぃ~」
「まぁ、俺の両親は正月とか戻ってこないからいいけど……みんなの家とかは大丈夫なのか?」
「私はお父さんが戻ってくるなら、その時だけ帰るわ……でも忙しいみたいだから帰れるかどうかわからないみたい……」
麗花のお父さんは医者で単身赴任しているからな。
患者対応に正月はないのか……。
「わたしはお母さんから『サキくんと一緒なら問題ない』って言ってくれるの」
愛紗は嬉しそうに微笑みを浮かべている。
すっかり俺を信頼してくれる母親である愛菜さんから公認か……それはそれでドキドキしてくる。
つーか、俺もより自制しないと……大切な一人娘をお預かりする信頼は裏切れない。
「あたしはパパとママから正月だけでも戻って来いって言われたけど微妙かな……」
「微妙って何がだい、詩音?」
「期末テストでやらかしちゃったでしょ? きっと順位に入ってないよ……だから、ここで合宿勉強しようかなって……パパもママも『レイちゃんとアイちゃんが一緒なら勉強してきなさい』って言ってくれたしぃ~」
「……まさかお前、そう仕向けるために、わざとテストをポカしたのか?」
「ん~~~、内緒。でも赤点は回避してるよ~ん、にしし☆」
にしし、じゃねーよ! とんだ策士だな、こいつ!?
勉強云々より知力だけは高くね!?
こうして結局、三人とも夏休み同様に俺の家で過ごすことになった。
学校にて。
俺は下駄箱を開けると、何か手紙のような物が入っている。
「何だ、これ?」
ひょっとしてまたラブレターか?
にしては随分と長くてでかい。
まさか、これ……。
「――果たし状?」
墨汁のごっい太字で書かれている。
咄嗟に俺はサッと鞄に入れてトイレの中で目を通すことにする。
何故なら他人に見られてら恥ずかしいからだ。
誰もいない男子トイレ内で開封する。
内容にはこう書かれていた。
――果たし状
神西 幸之殿
本日、放課後に柔道部道場にて待つ
勇磨 天馬
……実にシンプルな文章だ。
どうやら差出人は、天馬先輩だとわかった。
なんで俺がこんなのもらわなきゃならないんだ?
つーか生まれて初めて『果たし状』なんてもらったぞ。
にしても天馬先輩は何を意図して俺にこんな手紙を……。
ミカナ先輩の件は誤解が解けてないのか?
無視したら、また何を言われるかわかったもんじゃないしな。
「しゃーない……一応、リョウとシンに相談してみるか」
その後、恒例で張り出された順位表を確認する。
おっ、どうやら1学期の順位に戻ったようだ。
麗花と愛紗は相変わらずのトップと上位、詩音は意図的に順位外か……。
いつも順位入りしていたから、そりゃご両親も「勉強してこい!」って感じで怒るだろう。
あくまで冬休み中に、俺の家で泊まるための口実とも知らずに……。
それはそうと、
俺はリョウとシンを廊下に呼び出し、さっきもらった『果たし状』の件を相談する。
「今時、果たし状って、ぷっは~! マジ、ウケるぅぅぅ~~~!!!」
真っ先にリョウが腹を抱えて大笑いされたのであった。
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