第104話 見えてきた駄目父の背景
そういや、板垣って奴も妙なこと口走ってたな?
「――番頭って」
「サキさん、なんっすかそれ?」
燿平が首を傾げる。
「え? いやぁ、実は俺も昨日、河川敷付近でその板垣らしい奴と遭っているんだ……その時に同じように聞かれたんだよ、その探している相手をね。んで、板垣が言ってたんだよ、『番頭が、手間を取らせやがって』って……」
「――番頭……まさかな」
シンが何気に呟く。
「シン、何か知っているのか?」
「ああ。実は昔、『あの人』の指示で昔世話になったっていう独り暮らしの老婆の家で孫のフリをしていた時期があったんだ。その老婆は認知症で『オレオレ詐欺』……今じゃ『振り込め詐欺』とか『特殊詐欺』って言うのか? それに引っ掛かっているってことでな」
特殊詐欺だって!?
「そ、それで?」
「案の上、その老婆の亡くなった息子のフリした電話が掛かってきて多額の金が必要って言ってきた。俺が何も知らない孫として、その老婆の代わりに現金の受け渡し役を引き受けたんだ」
「ATMに振り込むんじゃなくて?」
「最近じゃ足が着くから様々な手口があるらしい。多額なやり取りほど特にな。その年寄りは現金で相当持っていた人だから、目を付けられたんだろう」
「それで、どうしたんだ?」
「そいつらの『受け取り役』と接触して金を渡し尾行したんだ。んで、芋ずる式に奴らの事務所を探し出し奇襲を仕掛けて、その場にいる全員をボコって再起不能にしてやった。きちんと金も取り戻したぜ」
「たった一人で?」
「ああ、たかが10人程度だ。拳銃でも持ってない限り問題ない。俺も暗器を持っているからな……どんなモノか聞くなよ、俺のトップ・シークレットだ」
聞かねーよ! おっかねぇ! 何こいつ!? 暗器って何よ!?
お前が一番危険人物じゃねーか!?
「胡散臭い話っすね……どうして、その場で警察呼ばねぇっすか?」
「あのなぁ、後輩。警察に捕まったら、それで終わりだろ? 人間ってのは痛みがあって初めてモノを覚える生き物だ。喧嘩や格闘技だってそうだろ? だから体に刻んでやる必要があった。まぁ、そのクズどもがその後まともに社会復帰しているかどうかなんて俺には関係ないけどな」
な、なるほど……どうりで普段あまり昔の話したがらないわけだ。
デンジャラスすぎてついて行けねぇ……ある意味リョウ以上だぞ、こいつ。
それよりも、さっきから話が脱線しているんじゃね?
「シン、それで『番頭』がなんだって?」
「ああ、最後にボコったオッさんが間際で言ったんだよ。俺達は『番頭』の命令でやっているんだってな……。なんでも、そいつらチームを取り仕切る中間管理職みたいなポジらしい」
「……俺も聞いたことがあるぜ。ヤクザや半グレの実業家から出資して貰っている『詐欺ビジネス』の頭だってよぉ」
床で寝そべる、リョウがやる気のない声で語っている。
ところでなんで虫の息なの、こいつ?
「俺にブッ潰すように指示した『あの人』の話だと、そいつら全体への警告の意味もあったようだ。所詮はトカゲの尻尾切りだがメッセージくらいは残せるだろってな。それに非合法にはそれ以上の非合法で叩き潰すのが『あの人』の家訓らしい」
あの人って、もろ『王田 勇星』だろ、それ?
一族揃ってなんちゅう家訓持ってんだ?
しかし、話を整理すると――。
愛紗のお父さんこと『
そして何らかの理由で、『
きっと、板垣達も『振り込め詐欺』の一員か?
確か、あの時の直樹さんの口振りだと……「もうじき、この街から離れる。二度と戻ってこない」って言ってたけど。
どういう意味なんだ?
それに、愛紗のお母さん……愛菜さんはこの事を知っているのか?
今思えば、昨日の口振りも、愛菜さんは全て知っていた上で、あえて俺に話さなかったかもしれない。
まぁ、高校生に話せる内容でもないから当然か……。
「……サキ~ッ、お前また何か考えているな……あんまり変な事に首突っ込むんじゃねーぞ」
リョウは寝そべりながら気怠そうに忠告してくる。
いや、半分死んでいる奴に言われたくないんだけど……。
「わかったよ……リョウこそ生きてるか? なんか、そっちの方が問題ありそうだぞ?」
「俺は大丈夫だ……それにこれは俺の自信の問題だ」
こいつも頑固だからな。
話せる時は最悪の事態になってなきゃいいんだけど……。
「……俺、てっきり『板垣』が同じ中学だったアイドルの『御手洗』をラブホテル街でボコった犯人だと踏んでたんっすけどね……どうやら当てが外れたようっすね……」
なるほど、燿平もそれを見越して、わざわざ知らせに来てくれたのか。
「けど皆さんの話を総合すると、逆に色んな意味でやばいっすね……今の板垣は。俺、もう少し調べてみるっす」
「燿平、いくらなんでも、そいつに関わるのは危険じゃないか? もう足洗ったんだろ?」
「……そうっすけど、でも血が騒ぐんっすよ。特に裏でイキっている暗躍気取りのクズの存在を知ると余計に、そいつの化けの皮を剥がしたくなるっす」
うん、こいつも病気だな。
気持ちはいい奴だけど。
「イカれてるな。だが踏み込みすぎてやばくなったら連絡をよこせ。一応、助けにくらい行ってやるぜ、後輩」
「先輩の方こそ、知りたいことあったら言ってくれっす! 一応、調べるくらいしてやるっすよ! お情けでぇ!」
「「ああっ!?」」
またメンチを切り出す、シンと耀平。
結局、仲がいいんじゃねぇのか?
丁度、チャイムが鳴り、俺達の話は終わる。
それから、ずっとその事が頭から離れることはなかった。
おかげでリョウの彼女である『千夏さん』に、最近の奴との交際事情を聞く余裕さえなかったくらいだ。
夕方の自宅にて。
今日は愛紗と一緒に帰り、そのまま俺の家で夕食を作ってもらう約束をしていた。
愛紗は制服の上着を脱いで、ブラウスの上のエプロンを着用した状態で夕食を作ってくれている。
この姿……これはこれで新鮮でいい!
まるで同棲中の高校生カップルみたいだ……。
「愛紗ちゃん、いつもごめんね~! 助かってるよ~ん! 一緒に食べようね」
お邪魔虫……いや夏純ネェがお礼を言っている。
「はい。お母さんにも、そう言ってますから大丈夫です」
愛紗はにっこりと微笑んでいる。
今日は今日で随分と機嫌がいい。
「いっそ、着替え置いてったら? 制服で料理は大変でしょ?」
夏純ネェが料理覚えれば、その負担が減るんじゃないか?
つーか、せめて手伝え。
「そうしてもいい、サキくん?」
「ああいいよ、勿論。よく泊る部屋に置いてきなよ」
「うん、ありがとう。えへへ」
やっぱ機嫌がいい。
つーか、めちゃくちゃ可愛い。
こうして、愛紗が作った夕食をみんなで楽しく一緒に食べた。
その後、彼女を家まで送ることにする。
昨日もお母さんを送ったので、流石に家を覚えてしまった。
愛紗宅のアパート前にて。
「……サキくん、家に上がってお茶しない?」
「え? い、いいの?」
愛紗は黙って、こくりと頷く。
やばい……親戚以外で、女の子の家に入るの生まれて初めてだ。
ひょ、ひょっとしたら愛紗と二人っきり……やばくね?
「うん、いいけど……愛紗のお母さんは?」
「いるよ。今日、病院の勤務休みだもん」
なんだぁ、いるじゃん!
だよね~!
って、俺は何を期待してたんだぁ!?
「せっかくの休みなのにお邪魔じゃない?」
「大丈夫だよ。メールしたら『サキくんなら花丸OK』って返信きたから」
……ひょっとしてお母さんにも気に入られてません、俺?
俺は「それじゃ少しだけ……」っと言いながら、愛紗と一緒に家の中へと入った。
決して広いとは言えない間取り。だけど、母と子の二人なら十分だ。
それに綺麗に片付けられ、置物や仕切りのカーテンなどセンス良く彩られ飾られている。
可愛らしい部屋。
入った瞬間から、そう思っていた。
居間に、愛菜さんがいて出迎えてくれる。
「サキくん、いらっしゃい。昨日はありがと」
「え? お母さん、昨日って? サキくん?」
「え? い、いや、ははは……」
やっべぇ! 昨日会ったこと、愛紗に内緒にしてくれって言ってなかった!
てっきり、お父さんメインの話だったから言う筈がないって高を括ってたわ~!
当然、愛紗は不審な目で俺と愛菜さんを見比べている。
まさか、俺と愛菜さんが特別な関係とかって思っているんじゃないだろうな?
いくら綺麗なママさんだって……流石にだ。
やっべぇ、どうする!?
サキくん、いきなりのピーンチ!
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