第56話 魔道師からの苦言と悩める者
間藤は退院間近で転校したって聞いたぞ。
どうして、こんな所で待ち伏せているんだ?
しかも私服姿で?
まさか遊井の時のように、俺を刺しにきたのか?
しかし今の俺なら、たとえ刃物で襲ってこようと『戦闘能力0』の間藤如きに逃げる必要はないけどな。
それにリョウやシンの最強メンバーもいるし、逆に負ける要素が見つからない。
間藤は遠くから、俺達に向けて頭を下げて見せる。
どうやら危害を加えるつもりはないらしい。
一応、警戒しながら近づいてみた。
間藤は頭を上げ、パーカーのフードと帽子を脱ぐ。
「――あっ!?」
奴の姿を見て、俺以外の誰もが声を上げた。
か、髪の毛がない。
いや剃っているのか?
青々とした剃り跡に形の良い頭部を覗かせている。
その幼いルックスといい、まるで絵本に出てくる『お寺の小坊主』だ。
これ、笑っていいのか?
いや駄目だろう……。
「間藤お前、その頭どうしたんだ? つーか確か他所へ転校したんだよな?」
「……この頭は俺なりの詫びとけじめです、神西さん。行く予定だった、隣町の高校はやめて、こっちに戻ってきました」
「やめたって?」
「この街の定時制高校に通うことにしています。働きながら勉強しようと思いまして……それに
奴? 王田のことか……内島の言う通り、やっぱりあいつの手引きで無理矢理転校させられたんだな。
「それで、俺達に何か用なのか?」
「ええ、まずは神西さんに謝罪したいと思いまして……あの時は本当に申し訳ございませんでした」
間藤は丸めた頭を深々と下げる。
その潔さに妙な輝きを感じた。
なんか変わったな、こいつ……。
「いいよ、別に。結局何もなかったわけだし反省してくれているなら……怪我も大丈夫そうで良かったじゃないか?」
「はい、神西さんには感謝しています。入院中も、そのぅ東雲先輩にも会わせてくれて……」
あの後、実は俺と麗花で間藤が入院している病院へお見舞いに行っている。
俺はこいつと会っても気まずいだけなので病室前で待っていて、麗花だけが会ってきたんだ。
聞く耳だけ立てている限り、間藤は凄く喜び声を弾ませていたのを覚えている。
にしても間藤の奴、本当に麗花のことが好きなんだな……。
「久しぶりね、間藤君。少し見た目が変わったから、ちょっぴり驚いたわ」
その麗花が話しかけてくる。
少しどころか、かなりじゃね?
「はい、この頭は神西さんへの謝罪と俺自身のこれからを変えていきたいと思いまして……その覚悟を意味しています」
「そう……いい目になったわね。今の間藤君は凄く素敵よ」
「は、はい! 東雲先輩、ありがとうございます!」
麗花が柔らかく微笑み、間藤は嬉しそうに頭を下げる。
もう年上の女遊びには興味ないって感じだな。
すっかり清々しく眩しい男になったな……色々な意味で。
「神西さん、ちょっとだけ二人でお話してもいいですか?」
間藤から提案してくる。
俺は頷き、みんなに少し離れる旨を伝え移動する。
みんなから視界内だが会話が聞こえない程度まで距離を置いた。
「どうした? 他に何か言いたいことでもあるのか?」
「王田の件で、神西さんの耳に入れておいた方がいいかなって……火野さんの隣にいる奴は大丈夫ですか? 随分と身形は変わってますけど、一度だけあいつが王田の傍にいたのを見たことがあります」
「ああ、シンのことか……一昨日まではアレだったけど、もう王田とは決別したようだ。これから、あいつに打撃技を教えてもらうんだよ」
「……相変わらず、敵味方関係ないっすね、神西さんは。健兄ぃが言っていたことも頷けます」
「健兄ぃ? 内島か?」
「ええ、俺と健兄ぃは繋がってますから……定時制高校を紹介してくれたのも、健兄ぃなんですよ」
へ~え。良い所あるんだな……あいつ。
「それで、王田の件で俺に何を話したいんだ?」
「俺が入院した経過です。王田は以前、俺が妻を寝取ったヤクザの夫と個人的に繋がっています。俺、神西さんを刺すように命じられ、拒否した所をそいつにボコられたんです」
「マジかよ……やっぱり、そこまで力があるのか」
ヤクザまで従わせるなんて……王田め、本当になんでもありな奴だ。
リョウじゃないが、俺達の範疇を超えた男なのは確かだ。
けど、だからって……。
「――俺は引き下がることはないよ」
「神西さんならそう言うと思ってましたよ。けど、多分あのヤクザは神西さんには関与してこないでしょう。今の王田は以前のような無茶もできないようですしね」
「なんだって? どういう事だ?」
「例のジジイから、これまでの無茶難題を問われ釘を刺されているようです。つまり歯止めを掛けられた状態みたいですよ」
「そうなのか? しかし間藤、そんな情報をどこから?」
「王田のセフレ達から聞いたんですよ。あいつ時折、行為後に独り言のように愚痴を漏らしているみたいで……そのセフレの大半も俺が紹介した女達ですから、俺ともまだ辛うじてLINEとかで繋がっているんです」
ほとんど糞みたいな情報経路だな。聞かなきゃ良かったぜ。
こいつもこいつで、そんな子達と連絡取っていて、まだ懲りてないのか?
俺が顔を顰めて聞いていると、間藤は「違う違う」と両手を振ってアピールしてくる。
「神西さん、誤解しないでくださいよ。俺があの子らと切らないでいるのは自分の身を守るための情報収集目的なんですから。俺、健兄ぃと違って大人達に注目されるような有名人でもないし……だから、もう会ってどうこうってわけじゃありません。もうそういうのは卒業したというか……これからは、一人の女性をひっそりと想うことにしています」
それが、麗花か……その点では俺も見習うべきだろうな。
「じゃあ、今の王田は爺さんのコネが使えない状態かもしれないってことか?」
「でしょうね。話を聞く限り、前のような後始末はできないと思います。あそこにいる浅野も、わざわざボクシングにかこつけて挑んで来たっていう話じゃないですか?」
「確かに……」
シンの巧さなら、もう少しエグイやり方で俺に闇討ちしたり仕掛けて来れたかもしれない。
また王田から、そのように命じることもできただろう。
それがなかったのは、あいつ自身のフェアな性格と王田も尻拭いが難しい状況になっていると考えられるか。
やっぱり、シンにも聞いてみるか……あの口振りだと答えてくれるかはわからないけど。
「しかし、間藤……どうして、お前が俺にそんな情報を教えてくれるんだ? 下手したら、また狙われるかもしれないぞ?」
「……神西さんには東雲先輩の件で感謝しています。それに、あの人の悲しむ顔はみたくない……俺、まだ諦めたわけじゃないですから」
「そうか……」
こいつは麗花に関しては本気なだけに、今の俺だと余計胸に突き刺さるな。
「でも、今の俺じゃ絶対に手の届かない人なのもわかってます。だから、リセットして一からやり直したんです。今度は自分の力で這い上がってみせます。たとえ東雲先輩が神西さんと付き合うことになったとしても、あの人が幸せにしてくれるなら諦めもつくだろうし」
……もう悪意を感じないだけに、純粋にプレッシャーを掛けてくる。
まだ自分の気持ちが整理できてない俺にとって、そこが一番の難題だからだ。
かれこれ、もう何度も自問自答している。
愛紗、麗花、詩音……。
本当は彼女達とどうなりたいんだ?
俺なんかじゃ勿体ない程、素敵すぎる女子達。
今はこのままで良いかもしれない。
けどいずれは、はっきりしなきゃいけないんだろうな……。
ガチで決められるのか、俺?
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