第55話 VSチョロイン再び




「浅野、悪いけど放課後でも早速教えてくれない?」


 っというワケで、俺は浅野 湊から蹴り技など教えてもらうことにする。


「シンでいい。構わないぜ。場所は……火野ん家のジムでどこか貸してくれないか?」


「おう、わかった。親父に頼んでみるよ。確かキックミットもあるから勝手に使ってくれ」


 ボクシングジムなのに、なんでそんなのがあるんだろう……まぁ、いいや。


 こうして放課後の予定が決まる。

 中間テスト前だけど善は急げと言うしやむを得ないだろう。


 なんか近いうちに役に立ちそうな気もするし……。


「……でも、サキくん。喧嘩は駄目だよ」


「愛紗……喧嘩じゃないよ」


 俺はやんわりと笑みを浮かべた。

 あくまでも優しく平和主義の彼女に好感を覚える。


 だから余計に守ってあげなきゃと思う。

 これまで『遊井 勇哉』に散々苦しめられてきただけに……。


 愛紗には笑って過ごしてほしい。

 そのためにも、俺はもっと強くなる必要があるんだ。


 きっと、そう遠くないうちに、あの『王田 勇星』と対峙することになるだろう。

 心の奥で予期していた。



「――サキさん、ちょっといいっすか?」


 ふと、誰かに声を掛けられる。

 振り向くと、後輩の『風瀬 耀平』が立っている。

 

 彼の後ろに見覚えのある女子生徒が恥ずかしそうに佇んでいた。


 あの子は確か――


軍侍ぐんじ 路美ろみちゃんかい?」


 俺が声を掛けるも、彼女は俯いて華奢な体をもじもじさせるだけだった。

 嫌われているというより、照れられているような気がする。


「軍侍。ほら、せっかく連れて来たんだから声を掛けるっす!」


「……わかってるってばぁ!」


 何故か耀平に半ギレする路美。


 そして、手を組み前に出てくる。


「か、神西先輩――先日の試合、凄くカッコ良くてイケてました!」


「わざわざ観に来てくれたんだ……ありがとう」


「いえ……そのぅ」


 頬をピンク色に染め言葉を詰まらせている。

 以前とは明らかに異なった反応だ。


「……軍侍お前、他にサキさんに言うことないっすか?」


「うっさい! いいでしょ、別に!」


 耀平には、やたらと強気だ。


「お前が、サキさんの試合に感動して声を掛けたいって言うから、こうして連れてきたっすよ?」


「……だって、今更先輩にどんな顔していいか」


「路美ちゃん。あの時のことなら、もう気にしてないよ。それに俺、路美ちゃんのこと見直しているんだからね。実にスカッとする、いい平手打ちだった」


「ほ、本当ですか?」


「うん。だから俺のことは、サキって呼んでくれ」


「はい、サキ先輩! 私のことは路美でいいです!」


 嬉しそうに、ぱっと晴れたような満面の笑み。

 やっぱり、この子には笑顔が似合う。


 そんな中、詩音がふらりと前に出てくる。


「ちょっと、キミ……ロミロミって言ったよね?」


「路美です。北条先輩、なんでしょうか?」


「まさかと思うけど……サキのこと狙っている?」


「いけませんか?」


「言っとくけど、もう定員オーバーだよ! これ以上はクレームくるからね!」


 一体誰からだよ、詩音。


「そんなの私とサキ先輩の自由じゃないですか!? 北条先輩には関係ないですぅ!」


 え? なんだって!?

 ろ、路美が俺のことを……? 嘘だろ? なんで?


「ちょ……二人共、やめろよ。また路美も冗談ばっか言っちゃって~」


「いえ……サキ先輩、冗談じゃありません。私、本気ですから――」


 路美は言いながら、鋭い眼光で詩音を睨んでいる。

 詩音も負けずに顔を近づけ、お互いガンを飛ばし合っていた。


 何これ? いきなり修羅場が発生しているんですけど!?


「神西って魅了系の魔法でも持っているのか? 噂以上に凄げぇな……」


「ったく、サキ。これで何人目よ?」


 シンとリョウが呆れ口調でなんか言ってくる。

 うるせーっ! 隠れイケメンとリア充に言われたくねぇんだよ!


「軍侍、どうやら言いたい事も言えたようだから、もう行くっすよ。他の先輩達に迷惑っす」


 耀平が路美の腕を掴み戻るよう促した。

 路美は詩音から目を離さず、頷いて離れる。


「そうそう、浅野先輩……どうやら完全に『愛しの君』に振られたらしいっすね?」


「流石、情報屋、早いな……もう遠くから見守るだけにしている」


「サキさんに近づく理由は?」


「素直に気に入ったからだ。他に理由はない」


「……俺はこれまであんたがしてきた事を知っているっす……まだ信じてないっすよ」


「それは、おたくの自由だぜ、後輩」


 耀平は軽く舌打ちし、路美の腕を引っ張って、その場から立ち去る。


 路美は「痛いって! このバカ、腕離してよぉ! サキ先輩~、また今度……」っと叫んで離れて行く。


 俺は頷きつつ、とりあえず軽く手だけ振って見せた。



「う~~~っ!」


 詩音が唸り声を上げて、今度は俺を睨んでくる。


「な、なんだよ、詩音?」


「あたしの思ったとーり」


「え?」


「また増えた……彼女候補」


「彼女候補って……まぁ、こればっかりは俺には何も……」


 つーか、俺が意図的に増やしたわけじゃないし。

 そもそも、ただ好意を持ってくれているだけで、別に候補ってわけじゃなくね?


「詩音、いい加減にしなさい。サキ君に言ったって仕方ないでしょ?」


「麗花の言う通りだよ。こういうのは自由だと思うし……」


 二人の幼馴染が窘めている。

 けど、詩音は頬を膨らませ不満の表情を崩さない。


「あたし……アイちゃんと、レイちゃんになら負けても仕方ないと思っている……あと歴史のあるニコリンね。だけど後の子だけは認めたくない! どーせ、サキのこと上辺でしか見てないんだから!」


「上辺? 俺の?」


 もろ平凡を絵に描いたようなルックスなんですけど……。


 詩音は怒り顔から一変し、頬を染めてもじもじと体をくねらせる。


「サキ、自分でわかってないと思うけど……最近、見た目もカッコよくなったと思うよ。体もがっしりして……それで、こないだのボクシングの試合でしょ? 女子ウケして当然だっつーの」


「そ、そうなん?」


 自分でも良くわからない。別にそういうつもりで体を鍛えてきたわけじゃないし。

 あの余興のボクシングだって、周囲と王田に舐められたくなくて企画したことだし。

 おかげで本来の目的は果たせたけど……。


 だけど詩音の言いたいこともわかる。


 シンも容姿が変わった途端、急にモテ出していたからな。

 あれくらい、バッサリとブッた斬ればいいんだろうけど……。


 要は歯に衣着せぬことができない、俺の態度が悪いんだろうなぁ。


 けど……。


「俺も麗花や愛紗の言う通り自由だと思うし、好意を寄せてくれる子には誠意を込めて正直に答えたいと思っている」


「サキ……」


「でも俺の一番の目標は、みんなと一緒にいられるために自分自身を変えることだから……だから他の子とどうこうはないよ。路美にはその気持ちは伝えているからね」


「うん……ごめんね」


「いや、はっきりしない俺が一番悪いと思っているから……」


「えへへ……わかってるなら、いいっつーの☆」


 俺の言葉に、詩音は大きな瞳を潤ませつつ、いつもの笑顔を見せてくれる。


 うん、可愛い。

 二人っきりなら間違いなく頭を撫でている。


「なぁ、火野……俺らは何を見せられてんだ?」


「面白いだろ? 見てたらそのうち癖なってハマるぜ……ケケケ」


 二人の強者つわもの達が一番うるせぇ。






 放課後になり、俺達男三人は真っすぐリョウの親父さんが経営する『火野ボクシングジム』へと向かった。


 何故か愛紗達もついて来ている。

 なんでも麗花が見学したいと熱望したらしい。


「麗花って格闘技に興味あるの?」


「ないわ。でも見ておくことで、サキ君の新しい身体強化メニューが作れるでしょ?」


「……頼もしいね」


 感謝しつつ、少しだけ引いてしまった。

 俺のためとはいえ、やたら楽しそうに言ってくれる。


 ボクシングの試合で成果が出せたことで、さらに意欲モチベが増したらしい。

 良く言えば献身的、悪く言えばマッドの血が疼いたってことだろうか?




 しばらく歩くと、道端で一人の男が待ち伏せしていた。


 ぱっと見は女子かと見間違えるほどの華奢な体つきをした男子だ。


 私服姿であり、パーカーのフードと帽子を深々と被っている。

 一瞬、以前俺を襲ってきた遊井の姿を思い出してしまった。


 しかし、こいつ……どこか思いっきり見覚えがあるぞ。


「お前は――間藤 翔?」


 嘗て俺の失墜を狙った、王田の幼馴染だ。






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