第35話 小説は事実よりも奇なり。

「拓海さん、こんな田舎にまで来くれて、私嬉しいです」


「君のためなら、何処へだって駆けつけるよ。娘にはしばらくの間出張で家を開けると伝えた。自分のことは自分でできるよう、手配は済ませてきているから。君は何も心配しなくていいんだよ」


「拓海さんにばかり負担をかけてしまって、私、申し訳なさが抜けないわ。奥さんのことだって……」


「そのことは済んだんだ。元、妻だよ。実際に君だって辛い思いをしたんだろう? それで相殺だよ。今この時間を楽しもうよ」


「うん、ありがとう。それにしてもこの部屋、とても綺麗。こんな田舎にも素敵なホテルがあったなんて、私知らなかった」


「そうかい? ここはチャペルもあるから、いい大人なら知らない人はいないよ」


「……私の事、子供扱いしてるの? 」


「そうじゃないさ、君はもう子供じゃない。……ほらね」


「まって! まだお風呂に……」


「じゃあ、明かりを消して、二人で入ろうか。これから日が暮れると、きっと浴室から見える星空の夜景はもっと、眺めが良いよ」


「はい。……あ、タクミさん、気が早まってるみたい」


「それはそうだろう。君みたいな可憐な乙女を目の前に、冷静でいられる男なんかいないよ」


「……ねえ、別れた奥さん、私達のこと小説を書いてたって本当なの? 」


「…………」


「そこには、何が書いてあったの? 」


「……そうだな、一つだけ面白いことが書いてあったよ」


「なあに? 」


「僕がね、まりこを前にしてもEDだったっていう、妄想だよ」




──END──

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事実は小説よりも奇なり。 央鈴 @Olin-0913

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