第9話
白い壁、白い天井、淡いクリーム色の仕切りカーテン、そして自分自身に伸びる数本のチューブ、定期的に聞こえる電子音。ふと、横をみると小学生ぐらいの女の子が2人と大人の男性とその腕の中には1歳ぐらいの赤ちゃんが
「ねぇ。私がいなくなってからどれぐらいたった?」
時の流れはこちらとあちらでは違うのかな。18年の月日は同じなのだろうか。だとすれば、小学生の子供たちは大きくなっていることだろう。
「カナとユイは成人式を迎えたかな?」
「アヤトに何もしてあげられなくてごめんね」
できれば成人するまでそばにいたかったわ。
どんな子に成長したのかしら。
「コウジさんあなたには全てをおしつけて遺していってごめんなさい。愛しているわ」
ケンカもたくさんしたけど幸せだったわ。
だんだん全てがぼやけていき白の世界になってしまった。
シェリーは目を開けると窓からの朝日が差し、眩しくて目をしかめると上半身を起こしうつむいた。布団にはポツポツと水滴が落ちて染み込んでいく。
懐かしい夢であったが不快でもあった。シェリーがシェリーとして存在する前の魂の記憶の断片が見せた夢。魂の後悔と渇望と安らぎの記憶。
昨日、世界からの干渉を久しぶりに受けた為、魂の記憶を引っ掻き回されたのだろう。
今のシェリーには関係のない記憶、魔物の存在しない世界、人族のみが文明をもつ世界。魔法が存在しない世界、科学が発展した世界。
「はぁ」
ため息と共に全ての感情を洗い流す。
隣のベッドを確認すると、カイルは存在せずベッドも使用した形跡がなかった。きっとあの後部屋を出たまま戻らなかったのだろう。
「ふふふ。きっと聖女という名のツガイでも探しに行ったのでしょう。『番が憧れ』ねぇ。私をこの世界に縛り付ける楔がね。そんなものクソ食らえだ」
シェリーは身なりを整え、朝食を宿で取ってから、部屋を引き払った。カイルの物は部屋に残されていなかったことから戻ることはないだろう。
そのまま宿を出ると、数日振りの晴れ渡った朝に人々は町を出る準備をする者、屋根の修理をしている者、洗濯物を干している者、多くの人々が朝早くから動き出していた。その光景を横目に見ながらダンジョンが出現した場所へ向かう。
そこは山の中腹の谷間にあり、風の吹きだまりになっているところだ。そこにぽっかりと2
「ふーん。一応ここには足を運んだのね」
ぬかるんだ地面にカイルの物と思われるシェリーより大きな足跡があり、横穴に入っていく足跡と出ていく足跡が残っていたその足跡は町の方向ではなく王都の方へ続いていたので一旦戻ることにしたのだろう。
気になるのはその足跡より一回り小さい足跡が入っていっていることだ。冒険者か地元の者か知らないが面倒なことにならないといいとシェリーは思うのであった。
横穴に入り、入り口に認識阻害の魔術をかける。これ以上調査の邪魔者を入れないためだ。そして 、マップ機能を起動させ、メインジョブを一部解除する。
シェリーは通常サブジョブの魔術師として活動しているが、狭い場所、回りの見通しが悪いところでは使い勝手が悪いのだ。どうしても初動動作に遅れが出てミスが出やすくなってしまう。
魔術師の動作をカバーするためにカイルがいたのだが、シェリーの言動誘導により聖女探しを優先させたため、この場にはいない。カイルの瞬発的火力を補うためにメインジョブを解除する必要がでたのだ。
メインジョブー異郷の聖女(一部解除)
スキル発動ー聖人の正拳
マップ作成
異郷の聖女
(詳細)
異界の魂をもつ聖女。世界からの干渉を拒み続ける愚かな聖女。己の役目を認識している分、先代より使える。
早く素直になった方が楽なのにね。バカだね。
聖人の正拳
(詳細)
聖女が敵と認識したもの又は聖女に敵意をもったモノの基礎能力を読み取り、倍の力を身体に宿すことができる。ただし、敵を目視しなければならない。
俺のこの手が光って唸るお前を倒せと輝き叫ぶ(これ以降は自主規制)
マップ作成
(詳細)
フィールド上の地形、トラップ、魔物の種類等をマップ上に表記することができる。10
シェリーちゃんはゲーム感覚でみんな持っていると思ってたみたいだけど、レアスキルだからね(笑)。
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