第8話


「俺が誰かなんて、ステータスが視れるというならわかるんじゃないのかな?」


「そうですね。目の前にいるあなたはカイルという名前ではないことはわかりますよ。まあ、冒険者ならよくあることですからね。残念ながら偽名を名乗られる方は基本ステータスしか視れないのですよ。よかったですね」


 そう答えながらもシェリーは考えていた。目の前の人物が何者であるかと。考えれば考える程おかしいことに気がついた。

 そもそも今回の依頼自体がおかしい。この天気もおかしい。宿場町で宿が空いてないこともおかしい。

 まるでこの状況を作り出したかったかのように思える。

 そうすれば、シェリーの中でひとつの答えが導きだされた。


「セイルーン竜王国の第三王子ですか」


 カイルはシェリーの言葉に目を見開いた。


「知っていたのか?」


「いいえ、この状況。この不可解な状況。笑えてきます」


 ルークが関わる時以外に表情が変わらないシェリーが口を歪めて笑った。


「どういうことだ」


「カイルさんに聞かせたいのかと思ったのです。このクソ腹立つバカらしい話をね。神が。管理者が。創造主が。世界の意志が。なんて呼ばれる者か知りませんが、の深層に干渉してまで聞かせたかったのでしょうね」


「なんのために」


「今代の聖女がね、先代の話を知って気になって調べてみたのですよ。今代の聖女は5人なのですよ。ふふふ」


 シェリーは笑いながら話を続ける。


「それも多種族の強者ばかり。まるで人族の強者3人を番にしたために失敗をしたから、次は多種族なら大丈夫だろういうのは浅はかな考えだと思いませんか?今代の聖女の番であるカイザール・セイルーン殿下」


 カイルの番が聖女。その事にカイルは驚きと共に内心、心が歓喜に打ち震えていた。己の番の手がかりを得たと。


「俺の番が聖女。ちょっ待て、勇者の番の聖女は亡くなって代替わりしたのか?」


「先代はまだ生きていますけど、勇者に監禁されていて聖女の役割を果たすことができないので外されたのでしょう」


「監禁…。それで他の番は誰だ。聖女はどこにいる?」


カイルは喜びと共に焦りも感じていた。掴みそこねた手がかりを失ってはならないと。しかし、シェリーはそんなカイルをクソ虫でも見るような目をして見る。


「はぁ?そんなの私が教えると思ってます?勇者の暴走より今回の方が危うくなるのが、バカでもわかりますからね。あっ、これは教えときます。聖女にはまだ番が存在していないです。ふふふ 、もういいみたいですね。私は明日に備えて休みます」


 シェリーは突然話を切り上げて、ベッドに潜り込んだ。もう話すことは何もないと言わんばかりに。そのことを肯定するかのように窓を打ち付ける雨は止み、星空が輝いていた。



 カイルはベッドに潜り込んだシェリーを見つめていた。シェリーは基本ルーク以外のことには無関心、何か目を向ける事があっても最終的にルークに関わることだったりする。そのシェリーがカイルに目を向けて話をしたことに違和感を覚える。シェリーがシェリーでないように感じた。


 シェリーは干渉をされたと言った。カイルに話を聞かせる状況を作りだされたとも言っていた。はっきり言って信じられることではない。

 しかし、勇者の番である聖女に魔導師が手を出したことには今まで疑問視されていた。基本的に他人の番に手を出すことは禁忌とされている。もし、魔導師も聖女の番だったとしたら、番の常識が崩れてしまう。


 シェリーが言うには、カイルの番が聖女で聖女にはカイルの他に4人の番がいるということだ。この話の信憑性もないがシェリーがルークに関係ないことで嘘を付く必要もない。そして、ここ数日止まなかったという雨が嘘のように止んでいる。


 カイルはここに来て選択肢ができてしまったことに気がついた。このまま、依頼を進めるか、聖女を探しだし番かどうか確認するか。


 前者を選択した場合、シェリーの言葉を信じるのであれば何者かがシェリーに話をさせるためにダンジョンを作り雨を降らし続けたことになる。現にすでに雨はやんでいることからダンジョンの調査もしなくていい状況になっているかもしれない。

 後者を選択した場合、今現在、教会は魔王討伐以降に聖女認定を行っていないなので、どこにいるのかはわからない状況だ。どう行動を取るべきかカイルは悩むのであった。


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